あるある158 「因縁をつけがち」
翌日、ステージはクイズ形式の舞台セットへと一変していた。
昨夜の間に作業員とスタッフ達が協力してセットを整えていたのだ。
前列に5席、後列に5席と10人が一度に座れるようになっている。
テーブルにはボタンが設置されていてボタンを押して解答権を得る方式だ。
まずは本戦に出場する30名のうち10名が勝負をすることになる。
内訳はおばさんが7人と大根おばさんとロレインとフローレンスだ。
ロレインは前列の右から2番目に座り、フローレンスは後列の右から3番目に座った。
俺は観客席でなく審査員席に座り本戦の様子を見守る。
「それではみなさまお待たせしました。本日より本戦のはじまりです。今回はクイズで勝負を決めてもらいます。出される問題は片乳の剣士エレンに関する問題を揃えています。3択形式ですので山勘でも狙えます。先に10ポイント先取した者から勝ちとなります。最終審査に残れるのは10名です。みなさん正々堂々と戦ってください」
ダニエルがクイズのルールを説明すると出場者達の顔に緊張が走る。
「エレンに関する問題なんてあいつらにわからないだろう?」
「それが狙いよ。公平性を喫するためにワザと用意したのよ」
「だからってわからない問題を出されても答えようがないじゃないか」
「3択形式にしてあるから問題はないわ。それにエレンの代役を任せるんだからエレンのことを知っていてもらわないと困るのよ」
正論を述べて来るアンナだったが本心は会場を盛り上げるための演出に過ぎない。
突出した者がいるよりも拮抗をさせた方が会場が盛り上がるからわざとそうしたのだ。
金になることならばどこまでも貪欲になれるのだから恐ろしい。
「では第一問。エレンはセントルールの街でカイトとと出会いましたがその場所はどこでしょう? A.酒場。B.ギルド。C.宿屋」
ダニエルが質問を読み終えた瞬間に早押しがされて会場にボタンを叩く音が響き渡る。
そして解答権を得たのはロレインで迷うことなく答えを述べた。
「Aの酒場です」
「正解です!」
ロレインが正解を勝ちとるとロレインのテーブルに設置されている電光掲示板に1の数字が浮かび上がる。
会場からは拍手と歓声が湧き起りロレインを称えていた。
正解するたびに1ポイント加えられて行って10ポイント先取した者から勝ちとなる形式だ。
ただし間違えると1回休みとなり1ポイントが減算される仕組みになっている。
だから早く解答権を得ればいいだけの問題ではないのだ。
「さあ、ロレインさんが先に1ポイントを先取しました。まだまだ問題ははじまったばかりです。他の皆さんも気合を入れて取り組んでください」
「さすがはロレインだな。幸先が良さそうだ」
これでロレインが順調に勝ち上がってくれれば最終審査へ行ける。
若いしスタイルはいいから間違いなく水着審査を通るだろう。
そうなればロレインがエレンの代わりにカイト軍団に加わるのだ。
若返りが図れるからぜひロレインに優勝してもらいたい。
「ロレイン、頑張れ!」
「ちょっとカイト。審査員の個人的な応援は禁止よ」
「何でだよ?」
「公平性が保てないからよ。応援するならみんなを応援してちょうだい」
子供を叱りつけるような口調で述べるアンナの視線は不満が滲み出ている。
確かに公平性を優先すれば個人的な応援はそれに反する行為でもある。
ただ俺としては絶対におばさんを優勝させたくないからどうしても応援したくなるのだ。
ロレインは若いし美人だからぜひともカイト軍団に加わってもらいたい。
「わかったよ。みんなを応援すればいいんだろう」
「わかってもらえたかしら」
「優勝賞金は金貨100枚だ。みんな頑張れ!」
大声を出しながら改めて気合を入れ直す俺は心の中でロレインを応援していた。
心の中はさすがのアンナでもわからないから思う存分応援を繰り返した。
「第二問。エレンを介抱して馬小屋に連れて行ったカイトですが酔いつぶれているエレンを見て思ったことは? A.顔に落書きをしてやろう B.たわわな乳をもいでみよう C.財布を盗んでやろう」
ダニエルが問題を読み終えると出場者達がボタンを連打して解答権を得ようと試みる。
そして解答権を得たのは大根おばさんだった。
「Cの財布を盗んでやろうです」
「ブブブー。不正解です」
すると再びボタンを激しく叩く音が響き渡って解答権を得たのはまたしてもロレインだった。
「カイトはスケベだからBのたわわな乳をもいでみようです」
「正解です!ロレインさん、2ポイント先取」
ロレインのテーブルの電光掲示板が2を表示すると会場から拍手が湧き起った。
間違えた大根おばさんは顔を伏せて1回休みとなる。
まだポイントが入っていないので1ポイントは減点されない。
それよりも――。
「おい、アンナ!なんて問題を作ってくれたんだ。これじゃあ俺のイメージが悪くなるだろう」
「本当のことじゃない。カイトがスケベで変態であることは周知の事実よ。問題はないわ」
「そう言うことじゃねえ。俺は勇者になる男なんだぞ。変なイメージをつけるなって言っているんだ」
「ちっさい男ね。それくらいでだーだー文句を言うものじゃないわ。勇者になりたいならもっと堂々としていなさい」
俺の反論も全く受け入れずにアンナは正論を述べてねじ伏せようとして来る。
あくまで俺に問題があるような言い方で責任を押しつけようとまでする。
確かに俺はスケベで変態だけれど人前で恥を晒されるようなことは受け入れられない。
勇者と言うイメージが傷つくし何よりも俺の心が傷つくのだ。
「後で覚えていろよ。素っ裸にひんむいて人前に晒してやる」
「出来るものならやってみなさい。返り討ちにしてあげるわ」
俺とアンナが口論をしている間に問題は3問目へ移っていた。
「第3問。エレンと再会したカイトは酒場で祝杯をあげましたが金をむしりとられてしまいます。その後、カイトがとった行動は次のどれでしょう? A.エレンの身ぐるみをはがした B.エレンの大剣を盗んだ C.土下座をして謝った」
「おい、アンナ!俺の問題になっているじゃねえか」
「仕方ないでしょう。エレンと関わりが深いんだから」
悪びれた様子も見せずにシャアシャアと言ってのけるアンナはクイズを楽しんでいる。
自分が考えた問題が思いのほかウケているので満足しているようだ。
ただ問題の内容は俺をディスっているだけでエレンの問題になっていない。
それでも回答者達はボタンを激しく連打して解答権を得ようとしている。
「Bのエレンの大剣を盗んだです」
「正解です!ようやくフローレンスさんも1ポイント先取です」
正解を手繰り寄せたフローレンスは満足そうな笑みを浮かべながら喜んでいる。
その顔を見ているとしょうもないことで悔やんでいる俺が小さく見えてしまう。
問題で並べられていることはすべて事実で間違いなどどこにもない。
酔いつぶれているエレンの乳をもごうとしたし、エレンの大剣も売っぱらおうともした。
だが、それは過去の話であって今の俺の行動ではないのだ。
どことなしか観客達の俺に対する視線も冷ややかになっているような気がする。
「ちょっと気分が悪いから席を立つ」
「どこへ行く気?」
「風にあたって来るだけだ」
徐に立ち上がり席を離れるとアンナにそれだけ言い残して会場から立ち去った。
会場に残っていたら間違いなく俺がどうしようもないゲスであることが公開されてしまう。
アンナが考えた問題だからこそとことんまで俺をディスったような問題に仕上げてあるはずだ。
普段の不満をぶちまけるように問題に落とし込んで遠回りに俺を非難しているのだ。
根性のねじ曲がっているおばさんだからこそできる所業だ。
ひとりになれる場所もないのでとりあえず控室へ足を運んだ。
控室ではクイズ大会に出場するおばさん達が休憩をとっていた。
スタッフが用意した茶菓子に舌鼓を打っていて井戸端会議が開かれている。
おばさん達はお喋りをしながらバクバクと茶菓子をほうばっていた。
その一角から離れるようにしてナッシュとメリル、シスタールが集まってお茶をしていた。
話題に上がっていたのは昨夜の前夜祭での出来事だ。
ガッシュといっしょにいなくなったシスタールに話題の矛先が向けられている。
「ねえ、あの後、ガッシュと何をしていたの?」
「何をしていたって。ただ話をしていただけよ」
「うそーっ。信じられない。ガッシュは変態カイトの友達なのよ。手を出さなかったなんて思えないわ」
「ガッシュは真面目な子よ。まだまだ初心だから女に手を出すなんて出来ないわ」
目を輝かせながら尋ねるナッシュの関心ごとはガッシュとシスタールの関係にある。
二人で仲良く消えて行ったからエッチなことをしていたんじゃないかと疑っているのだ。
ただ清廉潔白のシスタールは正直に告げてナッシュを納得させようとする。
「カイトなら間違いなく押し倒して変態な行為をするのに。ガッシュは真面目なのね」
「ガッシュは剣士だから剣技の話題で盛り上がったわ」
「つまんなーい。もっとワクワクするような話が聞きたいな。メリルはないの?」
興味なさそうにテーブルに突っ伏しながらナッシュは足をバタつかせてメリルに催促する。
「私とフローレンスもマルクといっしょだったけれどナッシュが期待するようなことはなかったわ。マルクはどちらかと言うと弟みたいな子だからね」
「シスタールもメリルも欲がないわね。私なんかカイトとエッチをしたわ。カイトったら私を欲しがってあんなことやこんなことまでしたのよ」
「「本当に!」」
どこからそんな言葉が飛び出したのかナッシュはありもしないことを呟いてシスタール達を驚かせる。
真に受けたシスタールとメリルは驚愕の顔を浮かべながらあんぐりと口を開けていた。
「カイトってすごいんだから」
「何がすごいんだ?」
「あっ、カイト。今、カイトの話をしていたところ」
俺がテーブルに着くとシスタールとメリルの冷ややかな視線が注がれる。
まるで嫌いな虫を見るような目で俺を見つめながらさっきのナッシュの言葉を思い出していた。
「何だよ、その目は?俺が何かしたか?」
「べ、別に何でもないわよ。ただ噂通りの人だなって思っていただけ」
バツが悪そうに呟くシスタール俺から視線を逸らして呆れ顔を浮かべる。
「噂って何だよ?」
「カイトがスケベで変態で女を見ればすぐに抱くろくでなしってこと」
「誰がそんなことを言っているんだ?」
「そこら中で噂になっているわ」
あっさりと言ってのけるナッシュには微塵も悪気が感じられず本当のことを言っているようだ。
誰が流した噂か知らないが俺の名誉を傷つけるなんて何が目的なのか。
確かに俺はスケベで変態だが誰でも構わずに抱くなんてことはしない。
まだ童貞の俺としてはこれぞと言った女性を抱いて卒業したいのだ。
だからセリーヌが誘惑して来ても突っぱねている。
はじめてがおばさんだなんて汚点でしかないのだから。
「言っておくがな。俺はそんなろくでなしじゃない。ちゃんと理性を持っている紳士なんだ」
「そう言うことにしておいてあげる。それよりカイト。審査をしていなくていいの?」
「今やっているのはクイズ大会だからな。審査なんて必要ないんだよ」
テーブルに置いてあるお茶に手を伸ばして一口飲み込んでからホッと息をつく。
ナッシュが差し出した茶菓子の包みを空けて口に放り込んで咀嚼する。
チョコチップの入ったクッキーでほんのり甘くて香ばしい香りが口いっぱいに広がった。
「で、お前は何番目に出場するんだ?」
「私は次よ。メリルと一緒。もちろん勝つのは私だけどね」
「それはやってみないとわからないわ。私だって負けるつもりはないから」
ナッシュとメリルの間に火花が散って緊張感が漂いはじめる。
その雰囲気をかき消すようにシスタールが俺に質問をして来た。
「クイズってどんな問題が出ているの?」
「エレンに関する問題だよ。若干、俺の問題にもなっているけどな」
「片乳の剣士エレンに関する問題ね。考えたわね」
シスタールは難しい顔を浮かべながら腕を組んで黙り込む。
エレンに関する問題なんて普通の人間じゃわからないことだらけだ。
いっしょにいる俺だってエレンの深い部分まではわからない。
酒の亡者で我儘で自分勝手で周りの迷惑を考えないおばさんだと言うことはすぐ思いつくが。
一番エレンと長い付き合いであるセリーヌならばいろいろと知っているだろう。
「ところで、エレンはどこにいるの?」
「エ、エレンか?そうだな……うん」
「何?その歯切れの悪さは?もしかしてエレンがいないなんて言わないよね?」
シスタールの思わぬ質問に動揺を隠せない俺は目を泳がせて知らぬふりをする。
その様子に疑問を持ったシスタールはすぐさま突っ込んだ質問をして来た。
「エ、エレンはいるさ。あの、ちょっと酒の飲み過ぎでダウンしているんだ」
「本当に?」
「本当だ。俺の目を見ればわかるだろう」
「嘘をついている目ね」
さながら彼女に浮気がバレた彼氏ばりの動揺を見せている俺に逃げ道はない。
端から俺の言っていることなど本気にしていないシスタールは探るような視線を向けて来た。
ここでエレンのことを話すことは避けておいた方がいいだろう。
魔王に捕まってしまっただなんてバレれでもすればオーディションにも支障を来す。
そもそもエレンと対決出来る権利を掲げているのだから俺達が嘘を言ったことになってしまう。
ここは何としてもシスタールの気を逸らして話を変える必要がありそうだ。
「それよりシスタールはどこから来たんだ?この辺りでは見かけない服装をしているけど」
「話を逸らさないで。私のことよりエレンのことよ。エレンはどこにいるの?」
「心配するな。エレンはちゃんと戻って来る」
「戻って来るって?」
口を滑らせて余計なことを言った俺の言葉にすぐさま反応をしてシスタールがツッコんで来る。
疑いの眼差しを向けながら食って掛かるように俺の胸ぐらを掴みあげた。
「本当のことを言って。カイト、何を隠しているの?」
「べ、別に隠していることなんてないよ」
「嘘を言わないで。ことと次第によっては手打ちにするわよ」
シスタールは真っすぐ俺を見据えたまま瞳を揺らすことなく本気の視線を向けて来る。
その凄みにすっかり飲まれてしまった俺はシスタールの腕を振りほどいて徐に口を開いた。
「わかったよ。ここだけの話だぞ」
「わかってる」
「エレンは魔王に連れ去られてしまったんだ」
「魔王に!」
俺の口から発せられた言葉に驚きを隠せないシスタールは声を張り上げる。
「声がデカい」
「ご、ごめん。それでエレンはどこにいるのかわかっているの?」
「いや、わからない。魔王のアジトにいるのだろうが、それがどこにあるのか皆目見当もつかない」
「それは厄介なことになったわね」
真実を聞いたシスタールの顔も暗く沈み込んだような表情へと変わる。
あれから数ヶ月、経っているがエレンに関する情報も魔王に関する情報も流れて来ない。
もっぱら酒場を賑わせている情報と言えば『帝国エジピアの再興』に関することだけで魔王のまの字も聞かなくなった。
おばさんが行方不明になる事件も起こっておらずギルドでは閑古鳥が鳴いている。
魔王がエレンを手に入れたことで他のおばさんを狩る必要がなくなったのかもしれない。
エレンをアンデッド化すれば相当強い手駒を手に入れることになるのだから。
そんなよからぬ想像を巡らせているとナッシュとメリルが興味深々な様子で尋ねて来た。
「ねえ、何二人でコソコソ話しているの?私達も仲間に入れてよ」
「別にコソコソなんてしてないよ」
「怪しい。男が嘘をつく時は目が泳ぐからすぐにわかるのよ」
付き合いの長いカップルが言うような台詞をさらりと言ってのけるナッシュは意外と精神年齢は高いようだ。
俺を見つめる瞳は揺るがずに真っすぐ見据えたまま追及をして来る。
「何を話していたか教えて。でないとセリーヌに告げ口するわよ。カイトとシスタールが怪しいって」
「そーそー。セリーヌに言っちゃうわよ。セリーヌと付き合っていることは知っているからね」
「何で、そこでセリーヌが出て来るんだ?それに俺達は付き合ってなんていない」
俺の逃げ道を塞ぐかのように容赦ないナッシュとメリルの追及の手が伸びて来る。
どこから情報を仕入れがのか俺とセリーヌが付き合っていることになってしまっている。
誤解がないように言っておくが俺はセリーヌとは付き合っていないし恋人でもない。
キスやおっぱいプレイは体験して来たけれどまだ一線は越えていないのだ。
一線を越えていなければ恋人とは言わない。
まだギリギリセーフなのだ。
「そんなこと言っていいの?セリーヌが聞いたら泣いちゃうわよ」
「カイトがマザコンだってことはみんな知っているからね」
「そうなの、カイト?」
「んなわけあるかー!」
よって集って好きなことを言っているナッシュとメリルは俺を茶化して遊んでいるようだ。
紅茶を啜りながら菓子をパクついてゴシップ話で盛り上がるおばさんのように困り顔の俺を見て楽しんでいる。
おまけにシスタールまで薄ら笑いを浮かべながら俺に確認をとって来る始末。
俺はすぐさまノリツッコミのテンポでシスタールのボケにツッコミを入れた。
「もう、お喋りはお終いだ。俺は戻る」
「もう、行っちゃうわけ?これからが楽しいんじゃない」
「つれないこと言わないで、もっとお喋りしよう」
「お前らは俺をからかいたいだけだろう。そんなお子ちゃまな遊びにつき合ってられるか!」
あからさまにつまらなそうな顔をしながらナッシュがボソリと零すとそれに乗っかってメリルも俺の手を引っ張って引き留めようとする。
その手を乱暴に振り払いながら立ち上がると椅子が後に勢いよく倒れた。
「カイトだってまだお子ちゃまじゃない。したことないんでしょう?」
「な、何の話だ?」
「それを私の口から言わせるつもり?」
頬をほんのりと赤らめながら意味深な視線を向けて来るナッシュは少しはにかむ。
横にいたメリルもニヤニヤ嫌らしい笑みを浮かべながら期待の眼差しで俺を見つめて来る。
その言葉を俺に喋らせようとしている意図が見え見えだ。
「したこと」と言われればもちろんちょめちょめのことしかない。
だけど、まだ俺は童貞だからちょめちょめは未経験だ。
それ以外の変態プレイは経験済みだから童貞よりもちょっとは上だけど。
「お前らだってしたことないんだろう?」
「いやー。セクハラ。カイトにセクハラされた」
「レディーに向かって言う台詞じゃないわね」
俺のツッコんだ質問に悲鳴を上げながら両手で頬を抑えるナッシュは意外な反応を示す。
それに乗っかるように同じリアクションをするメリルも俺を遠回しに非難して来る。
そのリアクションに苛立ちを覚えながらも怒りを抑えつつ大人な対応で言葉を返した。
「お前達が先に振ったんだろう?」
「何の話?メリル、今私何か言った?」
「言わない言わない。私達は世間話していただけ」
すっとぼけた顔で訳の分からない仕草をしながら言い逃れをしようとするナッシュとメリルは確信犯だ。
俺がこう言うリアクションを返して来ることをはじめから予想して話を吹っ掛けて来たのだ。
すると、見かねたシスタールが呆れ顔でナッシュとメリルを見ると二人を窘めた。
「ナッシュもメリルもやり過ぎよ。これじゃあカイトが可哀想だわ」
「シスタールはカイトの肩を持つわけ?」
「なんだかんだ言ってシスタールもカイト狙い?」
「バカなことを言わないで。そろそろ出番でしょう」
気がつくと休憩をしていたおばさん達がいなくなり部屋が静まり返っていた。
「次は私の番じゃん。こうしてはいられないわ。カイト、また後でこの話の続きをしようね」
「私も行かなくちゃ。じゃあね、カイト」
テーブルの上のお茶を一息で飲み込むとお菓子を口いっぱいに放り込んで駆け出して行く、ナッシュはひとり慌ただしい。
その後を追うようにメリルもお菓子を手にいっぱい掴んで会場へ駆けて行った。
「悪いね、カイト。気を悪くした?」
「気にすることないさ。ああいう連中の相手には慣れているから」
アンナ達に比べたらナッシュ達のお遊びなど可愛いものだ。
ワザと俺をからかって楽しんでいるのは俺に気があるってことだ。
お子様ならではのコミュニケーション方法だが案外それも悪くはない。
と言うか新鮮さを感じていて逆に心地よささえ覚える。
モテる男は辛いな……ハハハ。
「どうしたの、カイト。顔がニヤけているよ」
「な、何でもない。ちょっと考え事をしていただけだ」
目の前に浮かび上がる妄想をかき消すように手を払って俺は平静を装う。
「俺達もそろそろ会場へ戻ろうぜ」
「私はもう少し休んでからにしておくわ」
「そうか。じゃあ、またな」
シスタールをひとり残して俺は休憩室を出て行く。
審査員である俺がいつまでもサボっていたらマズいだろう。
後でアンナからどやされるかもしれないし。
まあ、クイズ大会だから問題ないと思うけどな。
「お前がカイト・クライムか?」
俺の行く手を阻むように立っていたのはピンク色のツインテールのエマだった。
両手を腰に当てて仁王立ちしながら厳しい視線で睨みつけている。
「俺に何か用かよ?」
「ふん。用などないわ。ただ、カイト軍団のリーダーの顔を拝みたかっただけじゃ」
「何だよ。お前も俺に気があるのか。モテる男はつらいな」
ナッシュ達ではないが俺はちびっ子からモテるようだ。
まあ、カイト軍団のリーダーを務めているぐらいだからわからないでもないが。
世の中もやっと俺の魅力に気がつきはじめたようだ。
そんなことを考えているとエマのますます厳しい視線が注がれた。




