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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第四章 再開するおばさん編
102/361

あるある101 「同じことを繰り返しがち」

時計塔で集合した俺達はそれぞれの調査報告をすませる。

エレンとセリーヌが調査した北側の地区は奴隷街で、たくさんの奴隷達が働かせられていたそうだ。

奴隷達を使ってまで宗教の繁栄を望むなんてサーメット教の信者は恐ろしい存在だ。

もし、この現世に存在していたのなら間違いなく取り締まりの対象となっていただろう。

ルミウス三世とマークニットが調査した南側の地区は商店街で盗賊の襲撃にあっていたそうだ。

サーメット教の信者達の遺骨はないので惨殺されたことはないようだが、それでも凄惨な現場だったらしい。

建物は破壊され、物品はひとつ残らず奪われて、小銭のひとつも残っていなかった。

盗賊とは非情な存在で金目となるものならば根こそぎ奪って行く。

さも、それが当然であるかのように横柄に振る舞いながら。


ただひとつ気になったのはルミウス三世とマークニットが身に着けていた武具だ。

調査に出掛ける前は貧相な武器を身に着けていた思ったがそれは俺の勘違いだろうか。

その点はゴウも気づいたようでルミウス三世とマークニットを問いただしていた。


「おい、お前ら、それはどうした?」

「これは買ったんです」

「買った?」


突拍子もないことを言うマークニットに困惑するゴウだったが、すぐにルミウス三世が補完した。


「武具屋の地下に武具が保管されていたのを見つけて拝借したんです。黙って持って来た訳じゃないですよ。ちゃんとお金は払って来ました」

「お金を払ったって、それは盗んで来たのも同然だろう?」


ゴウが問いただすようにルミウス三世に詰め寄ると二人とも口を噤み黙り込んでしまう。

無人販売ではあるまいしお金を置いて来たからと言って買ったことにはならない。

なぜならば武具屋の店主は既に亡くなっているのだから。

ルミウス三世とマークニットのしたことは盗賊となんら変わりない。

ただ、気持ちだけは盗賊とは一線を画していた。


「ゴウ、そんなに二人を責めるなよ。ルミウス三世とマークニットも悪気があった訳じゃないのだから」

「別に責めてはいないさ。ただ盗賊紛いのことをしたことが許せないだけだ。その行為はソウル・ベルのルールに反する行為だからな」


いつからそんなルールがソウル・ベルにあったのかはわからないがゴウは真面目なようだ。

子供を叱りつけるような親のような顔でルミウス三世とマークニットを睨みつける。

すると、すかさずエレンがゴウにツッコミを入れた。


「お前も硬い野郎だな。武具屋の店主はいないんだ。なら、勝手に持っていても困らないだろう。それに武具は飾っておくためにあるものじゃないからな」

「それはそうだが俺は黙って持って来たことを咎めているんだ」

「黙って持って来たって言ったって、武具屋の店主は死んでいるんだ。断りを入れる訳にはいかないだろう」


エレンの全うな答えに言葉を詰まらせるゴウは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。

バツが悪いと言うか自分が理不尽なことを言っていることに気がついたようだ。

その様子を見て俺が話をまとめる。


「ルミウス三世とマークニットはお金を払って来たんだ。なら、それは奪ったことならないよ。それはゴウもわかっているだろう。俺達だってブルー・アイを探しているんだ。盗賊と同じようなことをしようとしているんだ。俺達に二人を責める資格はない」

「そうだな。カイトの言う通りだ。俺が間違っていたよ。悪かったなルミウス三世、マークニット」


ゴウは素直に自分の非を認めて二人に謝罪すると右手を差し出した。

すると、ルミウス三世とマークニットの顔に笑みが戻りゴウと仲直りの握手をする。

ゴウがすぐに非を認めたことでソウル・ベルの結束力が高まったような気がした。

こんな風に素直に非を認められるリーダーはそうそういないだろう。

大抵、プライドが邪魔をして間違った選択をしやすい。

たかがプライドなのだけれどリーダーとしての面子を保つため選択を誤るのだ。

それは俺とて例外ではない。

これまでにも謝った選択肢を選んで来たと思う。

だけど、おばさん達に頭を下げることは簡単には出来ない。

なぜならばおばさん達はすぐにつけあがるからだ。

足元を救うかのようにつけこんで来て容赦なく非難をする。

だから、けっしておばさん達につけこまれてはならない。

それがおばさん達をうまく使いこなす技なのだ。


「さすがはソウル・ベルのリーダーですね。関心しましたわ」

「カイトとは随分違うな」


そんなエレンの愚痴など気に留めることもなくあっさりと流す。

ここでいちいち引っかかっていたら話が全然進まないのだ。

で、調査結果をまとめるとサーメット教は栄華を極めていたが、それは奴隷と言う背景があったからだ。

ハウベル教の信者達を奴隷として扱いトラキアの街やシンポス地下神殿を造り上げた。

そんな非道なサーメット教に対抗するようにハウベル教が力をつけて来て宗教戦争が起こった。

高い技術力を誇っていたサーメット教でも戦争には勝てなかったのだ。

その後は惨めなもので数多の盗賊達の強奪に合いトラキアの街は滅んで行った。

今では見る形もなく破壊されてしまったが、かろうじて歴史の痕跡は残っていたと言うことだ。


「それでリーダーたちは何か見つけたんですか?」

「もちろんだ。水がめを見つけたぞ。これで水の確保は出来たも同然だ」

「ただ、そのためにはこいつらの力が必要なんだけどな」


俺は馬の背を撫でながらルミウス三世達に説明をした。

東側の地区で水がめを見つけたこと。

風車は風の力で回していること。

馬に引かせても水を汲み上げることが出来ること。

そして水路に水を流せば何かしら手がかりが掴めそうだと言うことを。

その説明にルミウス三世達は納得したようで俺の予想に関心を向けて来た。


「それじゃあ水路に水を流さないとですね」

「ああ。馬達には悪いがもう一働きしてもらおう」


さっそく俺達は馬車を引きながら水がめのある東側の地区を目指した。

そして馬達を馬車から離して丸太の取り付け器具に繋いで馬を歩かせる。

馬は2頭しかいないが風車を回すだけだから、そんなにも苦労はいらない。

まるで馬車を引いている時のように問題なく風車を回してみせた。


「よし、風車が回ったぞ」


風車は順調に回転して地下から水を汲み上げて来る。

そして頂点まで達するとつっかえ棒に引っかかって大きな水槽に水を流れ落とす。

流れ落ちた水は溝を伝って、ぞれぞれの水路に分かれて流れて行く。

空になった桶は再び地下へ降りて行き水を汲み上げる仕組みになっている。


「この分だと順調に水を汲み上げられそうだな」

「だが、まだまだ水量が足りない。もっと水が必要だ」


俺達は水路に潤沢な水が流れるまで馬を歩かせた。

それにかかった時間は半日ほど。

途中で馬達に休憩をとらせた分だけ余計に時間がかかったのだ。

辺りはすっかり薄暗くなり、東の空から夜がやって来ている。

それでも水路の底を濡らすほど水が流れて乾いた水路を染めて行った。


「もう、夜だ。今日はここまでにして、また明日試してみよう」

「あともう少しだと思うんだけどな」


水量を見れば十分とは言えないが街中の水路に水は流れている。

ならば、何かしら変化があってもいいはずなのだが。

水路に水を流したら何かしら変化があると言う予想は俺の勝手な思い込みだから何もなくても仕方がない。

ただ、やり切れない思いを抱いていたのも間違いではなかった。


「カイトさん。私達は夕飯の準備をしてますから、カイトさんもほどほどにしてくださいね」

「ようやく飯だ。腹減ったな。セリーヌ、私のは多めにしてくれよ」

「それならエレンさんも手伝ってくださいね」


エレンはバツが悪そうな顔を浮かべながらセリーヌに引っ張られて行った。

ルミウス三世とマークニットは見張り台の場所の確認と寝床の準備にあたる。

荒廃した街には夜になるとモンスターが侵入して来ることが多いからだ。

トラキアの街の外壁は半壊しているので簡単にモンスターの侵入を許してしまう。

だから、余計に見張りは大事なのだ。


諦めきれない俺は馬達に休憩はとらせないで歩かせながら水を汲み上げる。

汲み上げられた水は水槽の半分まで達して、つぶさに溝に流れ落ちる。

溝を伝った水は、それぞれの水路に分かれて流れて行く。

それでも水量は底から第一関節ぐらいの高さしかなく水の勢いは弱い。

何かしら仕掛けを動かすにはもっと水の勢いが必要なのかもしれないことを予感していた。

だから、余計に馬達に入れる鞭の勢いが増していたことは否めない。


「おい、カイト。そんなにげっとに鞭を入れたら馬が参ってしまうぞ。もう、諦めろ」

「あともう少しなんだよ。わかるだろう?」

「それはあくまでカイトの予想だろう。何もないってことは仕掛けもないってことだ」


それを言われたら返す言葉が見つからない。

俺は仕方なくゴウの言葉にしたがい馬達に休憩をとらせることにした。

その頃には夕食の準備も整いエレン達がいただきますを待っている状態だった。


「カイト。シケタ面をするな。また明日すればいいだろう。それより酒だ」

「お前は呑気でいいよな。ただ酒を飲んでいればいいのだから」

「酒を飲まなきゃはじまらないからな」


セリーヌがコップに酒を注ぐとすぐさまエレンはそのコップをはぎ取る。

そして乾杯を待たずにひとり先走って酒をひと煽りした。


「ぷはー。労働の後の酒はとりわけ体に染みるな。私はこのために生きているようなものだ」

「エレンさん、はしたないですわよ。ちゃんといただきますをしてからにしてください」

「そんな固いことを言うな。酒の席に似合わないぞ。なあ、カイトもそう思うだろう?」


エレンはすっかり気分を良くして俺の肩に手を回して来る。

そして馴れ馴れしくもたれながらコップの酒を煽った。

その様子を見てすぐさまセリーヌが間に割って入る。

大きなお尻をもぞもぞ動かしながら俺とエレンの間に入るとお尻でエレンを吹き飛ばした。


「おい、セリーヌ。何をしやがる。酒が零れたじゃないか」

「カイトさんの隣は私の指定席なんです。勝手に取らないでください」

「いつからそんなことが決まったんだ。私だってカイトと飲みたい」

「ご遠慮してください。私とカイトさんはお付き合いをしているのですから」


エレンとセリーヌはおでこをなすりつけながら互いに睨みあう。

酒が回っているから顔が赤いのか怒っているから赤いのかわからいが、そんなしょうもないことは他でやってほしい。

俺は二人を残してゴウの隣に席を移動した。


「何だ、痴話げんかはもう終わりか?」

「そんなんじゃない。あいつらが勝手にやっていることだ」

「まあ、大事な仲間なんだ。楽しくやれ」


ゴウは呆れ顔で、かつ少し羨ましそうな顔で俺に零す。

おばさんとは言えチームに女性がいることが羨ましいのだろう。

それはルミウス三世とマークニットも同じようで物欲しそうな顔をしながらエレン達を見ていた。


「それでカイト。明日も馬達に引かせるのか?」

「そのつもりでいる。これだけの技術を持った街なんだ。何かしら仕掛けがあってもおかしくないからな」

「それが水路に関係あるのかは、あくまでカイトの予想だろう?」

「そうだが、必ず関係があると俺は断言できる。こんなに街に水路が張り巡らされている街は他にないからな」


水路は生活をする上でなくてはならないものだ。

飲み水を得たり、生活水を得たりするために。

とかくサラハル砂漠を抱えているハーベイ王国にとっては欠くことの出来ないもの。

上空に吹く風のおかげでトラキアの街は砂漠化から逃れているがいつ砂漠が迫って来るかもわからない。

だから、水路を街中に張り巡らせることで大地の渇きを回避しているのだ。

水路を伝って流れて来た水は最終的にトラキアの街の傍にある川に流れて行く。

川の水は畑に流れて作物を実らせる。

今でこそ畑は荒れているがかつては豊かな畑が広がっていたことだろう。


「なら、カイトは水路に水を流すことを優先されてくれ。俺達は街の周辺を調べてみる。街の中はあらかた調べ終わったがまだ街の周辺は調べていないからな」

「わかった。そっちの判断はゴウに任せるよ。俺は引き続き水の汲み上げを行う」


みんなまとまって行動するよりも役割を分担した方が効率がいい。

ゴウの言う通り街の周辺に何かしらの手がかりがあるかもしれないし、馬を歩かせるだけならば俺ひとりで十分だ。

エレン達にもゴウ達と合流させて街の周辺を調べてもらおう。

俺達は明日の予定を立てると見張りを立てて眠りについた。





翌朝も俺は馬達を歩かせて水の汲み上げを行った。

ゴウ達は昨夜の予定どおりトラキアの街の周辺の調査に向かう。

ゴウ達はトラキアの街の南側を中心に調査し、エレン達はトラキアの街の北側を調査した。

変化があったのは馬を歩かせてから半日が経った頃だった。


突然、石を擦り着けるような轟音が響き渡ると中央に聳え立っていた時計塔を縦に裂くように亀裂が走る。

それは幻ではなく確かな変化で轟音を立てながら時計塔が四方に分かれて変形をはじめた。

俺は慌てて時計塔の方を見やりながら、その変化を目の当たりにする。

そして心の中で小さくガッツポーズをして立てていた予想の確定を喜んだ。


分かれた時計塔はそれぞれ方角に横滑りしながら移動をしはじめる。

中央に残っていた時計は音を立てながら沈み込み地面の中へ消えて行く。

そして一通りの変化が終わると時計塔の中央にサーメット教の紋章の描かれた扉が姿を現した。


変化を聞きつけてやって来たのは俺だけじゃない。

ゴウ達も音を聞きつけて時計塔までやって来ていた。


「カイト、これはどう言うことだ?」

「これがトラキアの街に隠されていた秘密だ。俺の狙いは確かだったようだぞ」


俺は勝ち誇ったように胸を張りながら答えるとゴウは少し悔しそうな顔を浮かべた。

水路に仕掛けがあることを予想していたのはゴウも同じだったけれど、俺に先を越されたみたいであまり気分が良くないようだ。

まあ、そんなことは今さらどうでもいいこと。

問題はこの扉が地下神殿の入口かどうかと言うことだ。


扉は直径5mほどの巨大な丸い形状をしている。

中央にはサーメット教の紋章が刻まれてあり、溝に金が流し込まれている。

取っ手らしきものも見あたらず、どうやって開ければいいのかわからない。

ただ、扉を縁取るように丸く溝が掘られているだけで何も手がかりはなかった。


「どうやって開けたらいいのでしょう?」

「結界のようなものが張られてあるのか?」

「この溝に何かヒントがありそうだ」


俺は丸く縁取られた溝を指でなぞりながら思考を巡らせる。

水路が発展しているトラキアの街だからこそ水に関係がある仕掛けなのかもしれない。

水の力でこの扉が出現したように、この扉も水の力で開くと予想できる。

ならばこの溝に水を流し込めば扉は開くはずだ。

俺は時計塔の周りにあった水路の水を両手で汲んで溝へ流し込んだ。

すると、溝に流れ込んだ水は溝をなぞるように広がると紋章を浮かび上がらせる。

しかし、扉は何の変化もなく、ただそこに佇んでいた。


「ちぃ。違ったか。水を流し込めば扉が開くかと思ったんだけどな」

「そうでもないぞ、カイト。よく見てみろ」


何かの変化に気づいたゴウは俺に扉を見るように促して来る。

扉を見ると金色の紋章が太陽の光を受けて黄金色に輝き出し、水がレンズの役割をして時計塔の壁に紋章を浮かび上がらせた。

時計塔の壁をよく見てみると紋章を象るような溝が掘られている。

そして金色に浮かび上がった紋章が重なると扉を縦に裂くように亀裂が入って、鈍い音を立てながら扉が開いた。


「どえらい仕掛けだな」

「水と太陽の光を使うだなんて考えましたね。自然の力を存分に生かした仕掛けですわ」

「それだけサーメット教の信者達も神の力を信じていたのだろう」


仕組みには驚いたが何より扉が開いてくれたことに安堵する。

これでシンポス地下神殿に入れるのだから何も問題はない。

後はこの先に待っているであろうブルー・アイを見つけることだけを優先させる。

そのためにもまずはシンポス地下神殿を攻略しなくては。


「これからはルミウス三世の『空間認識』の特殊能力が役に立つ。期待しているぞ」

「任せてください、リーダー。期待に応えてみせますから」


ルミウス三世は得意気な顔をして胸を叩くとゲホゲホと咽た。


シンポス地下神殿の入口から下へ伸びるように階段が設けられている。

階段の先が見えないほど辺りは暗く、ジメッとした埃交じりの匂いが鼻を突く。

長い間、誰にも開けられていなかったことを思わせるようだ。

階段の壁には所々窪みが出来ていて燭台を置けるようになっている。

だけど、燭台は見あたらすただの窪みが出来ているだけだった。


「ここから先は灯かりが必要だ。セリーヌ、ランプを持って来てくれ」

「わかりましたわ」


セリーヌが差し出したランプは夜、灯かりをとるために使っていた普通のランプ。

オイルはそれなりに入っているので2、3時間は灯かりがとれる。

ただ、ランプはこれ一つしかない。

ヘル・イーターに襲われた馬車にもう一つのランプが着いていたからだ。

まあ、灯かりをとるだけだからこれで十分だろう。


「俺が先にいくからみんな後からついて来い」


俺が先頭を切りシンポス地下神殿の階段を降りて行く。

階段は急でもなく緩くもなく歩くのにちょうどいい高さの階段だ。

道幅は3メートルほど狭いが灯かりが十分に届くので問題ない。

灯かりが届かない先は真っ暗闇で何が待ち構えているのかわからないから余計に注意する必要がある。

もし、モンスターがいようものならすぐに戦闘体制をとらなければならなくなるからだ。

しかし、この狭い通路で出会ってもまともに戦えないと思うが。


「おい、お前ら。ちゃんと着いて来ているよな……」


俺がおもむろに後ろを振り返るとゴウ達は入口でニヤニヤしながら笑っていた。


「って、おーい!お前ら、そんなしょうもないことをして楽しいのか!」

「いやなに。あまりにカイトが張り切っているから、ちょっとからかってやろうかと思ってな」


ゴウは悪びれた様子も見せずに笑いを堪えながらお腹を摩っている。

それはエレン達も同じようでお腹を抱えながら大笑いしていた。

こんなしょうもないことを考えるのはエレンぐらいしかいない。

ゴウに耳打ちして仕掛けて来たと考えた方がいいだろう。

エレンには後でたっぷりとお仕置きをしよう。


「お前達は信用できないから先に行け」

「そんなに怒るなよ。ちょっとからかっただけなんだから」


そんな言い訳を聞くものか。

もし、俺が気づかずにひとりで先に行ったらどうするつもりだったのか。

それで、もし、モンスターと鉢合せしていたらどうするつもりだったのか。

恐らくこいつらは後からやって来て手柄を横取りにしたことだろう。

おばさんと言う生き物はそう言う強かなところがあるものだ。


「ここで階段は終わりだぞ」


50段ぐらい階段を降りて行った先には長い地下通路が伸びていた。

通路の幅は3mルと広がり天井までの高さは5mぐらいあるだろうか。

先ほどと同じように壁には燭台を置ける窪みが等間隔に出来ていて10mル間隔おきに扉が設置されていた。


俺達は最初の扉の前まで移動すると灯かりを掲げて扉を照らしてみる。

扉は木製の扉で厚さが5㎝ほどの重厚な扉。

表面にサーメット教の紋章が描かれてあり、換気をするための装飾が施されている。

扉は対面にも設置されていて、同じようにサーメット教の紋章が描かれていた。


「この部屋は何だろうな?」


ゴウが扉のノブに手をかけて力を込めて静かに開ける。

すると、キィィィーと金切り音を立てながらゆっくりと扉が開いた。

ゴウは辺りを警戒しながらランプを掲げて部屋の中を照らしてみる。

灯かりを受けて映ったのは木製のテーブルと椅子だった。

テーブルも椅子も部屋の中央に置かれていてテーブルの上にティーセットが乗せてある。

正面の壁には食器棚とサーメット神を描いた大きな絵画が掛けられてあり豪華な額縁に入っている。

右の壁には水を汲む流し台が設置されていて、反対側の壁際に質素なベッドが置かれていた。


「ここはサーメット教の信者達の部屋だったみたいだな」

「思っていたよりも質素な生活をしていたのですね。目立って豪華なものはこの絵画ぐらいでしょうか」


セリーヌはサーメット神の絵画の前に立って興味深そうに見つめている。

絵画に描かれているのはサーメット神を中心として足元に集う民衆達。

サーメット神の背後には後光が描かれてあり神秘的な雰囲気を作っていた。


「どこにでもある宗教の絵画だな。これを売ったとしてもたいして金にならないな」

「おい、ゴウ。俺達の目的はブルー・アイだぞ。こんなものを持って行っても仕方ないだろう」

「試しに言ってみただけだ。本気で持って行く訳ないだろう」


宗教の絵画なんて、その宗教を信仰している信者ではないと売れないものだ。

今はもう、サーメット教の信者はいないからその絵画はゴミクズ同然だ。

まあ、引き取ってくれるのはハーベイ王国の王都にある歴史文化保存図書館ぐらいだろう。

歴史文化保存図書館にはたくさんの考古学者がいて文化や歴史を研究している。

かつての文化や歴史を明らかにすることで人類の発展を明示することが目的だ。

歴史文化保存図書館はハーベイ王国以外の国にもある。

それぞれの国の文化や歴史を日々研究しているのだ。


「しかし、何もない部屋だな。酒は飲んでいなかったのか」


エレンは物欲しそうな顔を浮かべながら無造作に食器棚を漁りはじめる。

目的は酒だ。

保存状態が良ければ酒は何十年、何百年と保存できるので、極上に熟成された酒を探しているのだ。

ただ、サーメット教では酒を飲むことを禁じられていたので見つからないのだけれど。


「サーメット教の信者が酒を飲めるのは年に一度の祭典の時だけだ。酒なんて探してもみつからないさ」

「ちぃ。シケタ奴らだな。酒を飲まなくてどんな楽しみがあるって言うんだ」


エレンは質素なベッドの上に背中からダイブすると埃が部屋中に舞い上がった。


「ゲホゲホ。おい、エレン!余計なことをするんじゃねえ!部屋中、埃まみれだろう」


エレンがダイブしたベッドには人型が出来ていて、その部分だけ埃がなくなっていた。

その代りにエレンの背中にはべっどりと埃が着いていた。


「ひえーっ。汚ねえな。掃除ぐらいしとけってんだ」


エレンは背中についた埃を手で払いながらひとり文句を垂れる。

自業自得だろうとツッコミをいれたくなったが、そこは我慢だ。

俺は部屋の隅々を確認しながらブルー・アイに繋がるヒントがないか確かめる。

しかし、出て来たのはサーメット教の経典だけで目立ったものは見つからなかった。


「ここはハズレだな。次へ行こう」


俺達は通路に並ぶ部屋を片っ端から調べて行った。

けれども、どこの部屋も同じ間取りで同じ物が設置されているだけで、これといったものは見つけられなかった。

ここはサーメット教の信者達が生活していた区画のようだから、目新しいものはないのだろう。

もし、ブルー・アイに繋がるヒントがあったのならば、それはそれで問題だ。

当時のサーメット教の信者にとってもブルー・アイは宝玉にあたいする代物だ。

そんなものをただの信者が持っていたとすれば間違いなく混乱が起きていたはずなのだから。


俺達は何のヒントも得られぬまま先を進んで行く。

住居区画を通り抜けると再び下へ伸びる階段が現れる。

先ほどと同じように50段ぐらいはある長い階段だ。

ゴウを先頭に俺、エレン、セリーヌ、ルミウス三世、マークニットと続く。

先は真っ暗で何も見えないがモンスターがいる気配もない。

そして階段を下り終えると三叉路に分かれた場所まで辿り着いた。


「おい、カイト。道が分かれているぞ。どっちへ進む?」


こう言う時は棒倒しで決めるのがいい。

俺は小剣を引き抜くと切っ先を地面に向けて真っすぐに立てる。

そしてバランスを整えてから手を静かに放した。


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