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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第四章 再開するおばさん編
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あるある100 「真面目な一面もありがち」

オアシスを中継しながら何とかサラハル砂漠を抜けることが出来た。

驚いたのはサラハル砂漠の境界線だ。

まるで海と砂浜を分けるかのようにくっきりと砂漠と草原地帯が分かれている。

サラハル砂漠は赤茶けた色に染まっていてモーテス草原地帯は緑一色だ。

なんでこんな不思議な風景が広がっているかを言うと風の関係らしい。

風は東から西に絶えず吹いているので砂漠が浸食して来ないとのことだ。

だからハーベイ王国の東側は砂漠の脅威に晒されていない。

故にハーメット教の信者達が集まって巨大都市を造ったことも頷ける。


「ここがトラキアの街か」

「大きな街ですね」


トラキアの街は普通の街が三つ入るほどの大きさで石造りの建物が目立つ。

街の周囲は高い外壁で覆われていてモンスターの襲撃に備えられてある。

ただ、今は半壊していて防御力はほとんど体をなしていない。

中央にある時計塔を中心に放射状に建物が並んでいて幾何学的な模様を造っていた。

おそらくこれもハーメット教の街の特徴と言えよう。

街を貫くように走っている通りも石畳みで覆われていてきれいに整備されている。

その上、街を縫うように走る水路を見てもトラキアの街の技術の高さを伺えるようだった。


「随分と繁栄していたんだな」

「そんな街が崩壊してしまうなんて」

「それだけ戦争が恐ろしいってことさ」


もし、1000年前に異国の商人達がハーベイ王国に漂着していなかったら今頃、この街も残っていただろう。

ハーメット教もハウベル教を脅威に感じることもなかったはずだし宗教戦争は起こらなかったはずだ。

戦争ってのは街を滅ぼすだけでなく、そこに住んでいる住民達も根絶やしにしてしまう。

人間が起こす最大の業に他ならない。


「とりあえずこの街を中心に探そう。この街のどこかにシンポス地下神殿の入口があるはずだ」


モンスターのいる気配もないので俺達は散会してトラキアの街を探索する。

念のため二人一組になって調査を行うことにした。

エレンとセリーヌにはトラキアの街の北側を。

ルミウス三世とマークニットはトラキアの街の南側を。

俺とゴウはトラキアの街の東側へ向かった。

ちなみに馬車は中央の時計塔の横に停めてある。

ここならばどのエリアからも同じ距離だし、迷うこともないからだ。


「地下神殿の入口なんだからわかりやすい場所にあるんじゃないか」

「ここはハーメット教の信者達が住んでいた街だし、その可能性が高いな」


あるとすればみんなが集まりやすい広場とか教会の中とかだろう。

俺とゴウは広場と教会のあった場所を見当づけて街の東側を探し回った。

しかし、どこを探して回ってみてもそれらしい入口は見つからない。

そればかりか教会らしき建物も見当たらなかった。


「何でこの街には教会がないんだ。ハーメット教の信者達が住んでいた街だろう」

「シンポス地下神殿があったから必要なかったのかもな。神を祀る場所があればわざわざ教会なんて建てる必要もないしな」


そうだとするなら手掛かりがなくなってしまったようなものだ。

宗教ごとだから教会が一番の手がかりだったのだから。

残るは広場だけれどたくさんの人が集まれるような広場はこの区画にはない。

この区画はどちらかと言うと信者達が住んでいた住居がたくさん並んでいる。

同じような建物が並んでいるだけで、これと言って目立つ建物はなかった。


「これじゃあお手上げだな」


俺は建物の影に入ってどかりと腰を下ろす。

サラハル砂漠ほどの炎天下でもないが日差しは強い。

日向に一時間ほどいたら日射病になってしまいそうだ。

ゴウも暑苦しそうな顔をしながら建物の影に入り腰を下ろして一息つく。


「水はオアシスで補給したけれど、この分だとすぐになくなるな」

「ここに住んでいたハーメット教の信者達はどうしていたんだろうな。こんなに暑いのに」


すると、俺の何気ない言葉を聞いて何か閃いたのかゴウがすぐさま反応した。


「そうだ。それだよ、カイト。水だ!」

「水?」

「今はすっかり乾いてただの溝になっているがこれは水路だ。だとするならば水路に水を流す水がめがあったはずだ!」


ゴウの説明にピンと来なくて俺は小首を傾げてゴウを見やる。


「水がめを見つけてどうするんだ?」

「もちろん水を補給するんだよ」

「何だよ、シンポス地下神殿と関係ないじゃないか」


がっかりさせるなよ。

俺はてっきりシンポス地下神殿の入口がわかるかと思ったんだぞ。

まあ、でも調査を続けるにも水は不可欠だから、ゴウの言う通り水がめを探すことにしよう。


「で、水がめをどうやって見つけるんだ?」

「そんなの簡単さ。水路を辿ればいいだけだ」


俺が不思議そうな顔を浮かべて質問するとゴウは得意気に水路を指して答えた。

確かに言われてみればそうだ。

水路があるんだから水路を辿れば水がめに行きつくはず。

今は乾いているってことだから水位が下がっているのだろう。

俺とゴウは水路を辿りながら上流を目指して歩いて行った。





トラキアの街の北側を調査していたエレンとセリーヌは思わぬものを見つけていた。

この区画は階層になっていて地下1階部分に街がある。

地上から5メートルほどの深さがあり、普通に登って来れないようになっている。

さらに区画の周りには3メートルほどの石壁が築かれていて巨大なホールのようになっていた。


「エレンさん。これは何だと思いますか?」

「建物がなければコロセウムにも見えるな」


セリーヌとエレンは石壁の上から見下ろすように地下街を見渡す。

地下街の建物は他の区画とは違いお粗末な材質出て来ている。

壁は粘り気のある土が使われていて、風化の影響からかほぼ原形をとどめていない。

屋根に使われていたであろう藁は既に塵となって跡形もなく消えていた。

トラキアの街の発展力からしたら、この区画はおろそかなものと言える。

家畜でも飼っていたのだろうか、ところどころに開けた場所が見受けられた。


「下へ降りてみましょう」


セリーヌは石壁に設置されていた錆び付いた鉄格子を力いっぱい押してみる。

しかし、鉄格子の蝶番が錆び付いていてビクともしない。

すると、エレンがセリーヌを下がらせて力いっぱい鉄格子を蹴り飛ばした。


ガシャン!


鉄格子は鈍い音を立てながら地下街へ転げ落ちて行く。

そのあまりにも乱暴なエレンの行動に、さすがのセリーヌもあんぐりと口を開けたまま。

当のエレンはどこ吹く風かと言わんばかりに飄々としながら人差し指を地下街へ向けた。


「おい、セリーヌ。行くぞ」

「は、はい」


辺りの警戒は全くせずにいつものように大股で階段を降りて行くエレンを追ってセリーヌも続く。

階段はかろうじて石造りの階段であったが手すりもなく、ただ石で造られた階段が平然とそこにある。

石の表面も凸凹していて歩きやすさや景観を意識したものになっていない。

注意して歩かないと躓いて転んでしまいそうなほどお粗末な仕上がりだった。


「それにしてもボロい家だな。こんなところに人間が暮らしていたのか?これじゃあ豚小屋だ」


近くで見ると建物の造りのお粗末さがよくわかる。

土壁の中には強度を高める目的で入れられたと思われる藁は僅かで意味をなしておらず。

エレンが少し力を入れただけでボロボロと音もなく崩れ去るほど脆い。

壁には窓らしき穴は開いているが窓枠などなく土がむき出しになっている。

家の中も地続きに土間が広がっているだけで小上がりなども見受けられない。

かろうじて残っていたの煤けた石窯だけで中には煤がたんまりと溜まっていた。


これだけの環境を見るだけでもここに暮らしていた人達は貧しい生活をしていたのだろうと想像が出来る。

トラキアの街の発展具合と比べたら天と地ほどの差だ。


「はっ!」


セリーヌは暗がりから覗いていた人間の足の骨であろう、そのものを見つけてハッと息を飲む。

それは煤色に覆われていて虫に食われた柱のようなスカスカの状態で転がっていた。

頭部や胴体部分の骨は残っておらず片足の足首から大腿骨までしかない。

一番目をくぎ付けにさせたのは錆び付いた足枷が足首に着いていたからだ。


「こいつは……」


エレンは骨の所まで近づくと屈みこんで骨の状態を確かめる。

そして難しい顔を浮かべながら顎をひと撫ですると振り返って呟いた。


「……奴隷だな」

「やはりそうですか。ただの地下街とは思っていませんでしたけれど奴隷の街だったとは」

「恐らく奴隷を集めて家畜の世話や力仕事などをさせていたのだろう。サーメット教の奴らも食えない連中だ」


奴隷をつくる慣習は昔からある。

今と違ってかつての奴隷は制度化されて民族を区別するために取り入れられていた。

奴隷の対象とされやすいのがハウベル教のような少数派の民族達。

サーメット教などの多数派の民族に虐げられて奴隷として死ぬまで働かせられる。

そんな不条理なことがあたり前のように行われていたのだ。


「この街を造らされたのも奴隷達なのでしょうね」

「そうだな。サーメット教の繁栄の影にあるのは奴隷達と見て間違いないだろう」

「奴隷を使ってまで宗教を繁栄させたいものでしょうか。私には理解できません」


セリーヌはやりきれない気持ちを晴らそうと大きく首を横に振りながら目を固く閉じる。

エレンもやるせない思いを抱きながら大きなため息を吐いてがっくりと肩を落とした。


「宗教ってのは時に人を狂わせるものだ。神を信じれば救われるなどある訳のない神の力を信じて血迷ったことをする。それがたとえ人を生け贄にすることでさえ躊躇わないのさ」


もともと人が称えていた神とは自然の力のことだ。

大雨を降らしたり、干ばつを起したり、大地震を起こしたりと自然の力は強大なもの。

その人知を超えた力に人々は魅了され自然の力を神格化させたのだ。

干ばつに見舞われれば雨ごいをし、豪雨に見舞われれば晴天を望み。

そんなことを繰り返して行くうちにいつしか神は擬人化されて人の姿を持った。

そうなるとますます神を崇めようとする者達が増え、宗教は巨大になって行ったのだ。


「神様は人の気持ちの中にいるものです。幸せにも不幸にもなるのはその人の行動次第。神様が決めているのではありませんわ」

「セリーヌみたいに理解している奴は少ないだろう。人間ってのは自分の都合のいいように考える生き物だから不幸が訪れたら神のせいにしたがるのさ」


エレンは達観しているような顔つきで全うなことを言っているセリーヌを嗜める。

セリーヌはそれでも納得が出来ない様子で地面に転がっている骨に視線を落とした。

もし、この人がサーメット教の信者に囚われていなかったらどんな人生を送っていたのだろう。

家族で和やかな食卓を囲み、温かな布団で眠り、毎日楽しい日々を過ごしていたはずだ。

そんな誰にでもあるあたり前の幸せを奪われるだなんて、たとえ神でもしてはならないことだ。

神は人の都合のいいようにある存在ではない。

人を戒めるために存在している人間にとってのバイブルなのだ。


「せめてあの世では幸せになってください」


セリーヌは胸の前で両手を合わせると目を閉じて祈るように死者へ哀悼の意を示す。

それを受けてエレンは大剣の切っ先を足枷に着けると勢いよく大剣を振り下ろした。

鈍い金属音が響き渡り骨に着いていた錆び付いた足枷が真っ二つに裂ける。


「これでお前は自由だ」


エレンとセリーヌは地下街を調査しながら死者達を解放させて行った。





ルミウス三世とマークニットが担当した南側の区画は他のどの区域よりも荒れていた。

建物は原型をとどめていたが窓が割られていたり、扉がひしゃげていたりしている。

それは建物の中も同じでテーブルや椅子が壊れて散乱していた。


「ここは武具屋のようですね」


ルミウス三世は足元に転がっていた看板の埃を払って確認する。

30㎝ぐらいの木製の看板には剣と盾のアイコンが刻印されていた。

無残にも根元から引きちぎられ看板を裂くように剣の傷跡が出来ている。


「盗賊の襲撃にあったんだろう」


マークニットは指で看板の傷跡をなぞりながら険しい顔を浮かべる。

傷痕は古いものでいつ襲撃されたのかまではわからない。

もし、サーメット教の信者達が住んでいる頃だったら惨殺されていたはずだ。

しかし、辺りを見回してみるが遺骨らしきものは転がっていなかった。


「皆殺しにされたのでしょうか?」

「そうだとするなら遺骨が転がっていてもおかしくない。遺骨がないことを見ると、この街が滅んでから襲撃されたのだろう」

「酷いことをしますね、盗賊は」

「盗賊なんて所詮そんなものさ」


ルミウス三世とマークニットの心の中にやるせない思いでいっぱいになる。

確かに自分達もお宝を探しにここまで来たが、盗賊とは違う。

あくまでダンジョンからお宝を持って行くことが目的だ。

盗賊のようにルール無用で根こそぎお宝を奪って行くものではない。

だけど、そうはわかっていてもなぜだか自分達も盗賊のように思えてならなかった。


「僕達がやろうとしていることも盗賊と同じでしょうか?」

「俺達は盗賊じゃない。あくまでブルー・アイを探しに来たんだ」

「でも、ブルー・アイを持ち去ることは盗賊のそれと変わらないような気がします」


すっかり気落ちしているルミウス三世にかける言葉が見つからない、マークニット。

ガックリと肩を落とし、そのひょろっとした体が折れ曲がるぐらい大きく項垂れた。

頭の中でトレジャーハンティングと盗賊は違うものだと言い聞かせてみるが、心の奥底では同じだと思ってしまう自分がいる。

どちらもお宝を奪い去るものだからトレジャーハンティングも盗賊も同じなのだ。

どんなに高尚な理由をつけたとしても、それは変わらないだろう。


「俺達は俺達の目的を果たすだけだ。難しいことはリーダーが考えてくれる」

「そうですね。こんなところで考え込んでいてもしかたありませんね。調査を続けましょう」


ルミウス三世とマークニットは考えることを止めて本来の目的を果たすことに全力を尽くす。

武具屋にはもう既に何も残されていないが、念のため部屋をくまなく調べてみる。

カウンターの奥や壊れたテーブルの下、武具が飾られていたであろう壁に至るまで。

長い間、この状態が保たれていたせいか、どこもかしこも埃まみれだった。

物を動かす度に埃が舞い上がりルミウス三世とマークニットは布で口を覆う。


「ゴホゴホ。何もなさそうですね。そっちはどうですか?」

「ゴホゴホ。こっちにも何もない。根こそぎ盗賊が奪って行ったのだろう」


懸命な調査の結果、何も残されてないことだけがわかった。

まあ、リーダーからはこの区画の調査だけを任されているから何も見つけなくても問題ない。

何も見つからないことが調査の結果なのだから。


「よし、他の建物も見てみよう」


とは言え、ブルー・アイに繋がる手がかりは掴みたいところだ。

今のところブルー・アイの手がかりはシンポス地下神殿の隠しダンジョンにあると言うことだけ。

それだけの手がかりでは隠しダンジョンの中からブルー・アイは探し出せないだろう。

どんなに小さなものでもいいから何かしらの手がかりを掴みたいことが本音だ。


マークニットが武具屋から出ようとした時、何かに躓いて大きく前に倒れた。


「ぶはーっ。何だよ、こんなところにつっかえ棒を置いたのは」


マークニットの足元を見ると床が1㎝ぐらい高くなっていて盛り上がっていた。

それは縦横1㎡ぐらいの大きさで、よく見ないとわからないほど床と同化している。

ルミウス三世は床の埃を払いながら、その扉らしきものの全形をあぶり出す。


「やっぱり、これは地下の入口ですね」

「武具屋に地下を造って何の得があるんだよ」

「飾り切れない武具を保管していたんじゃないですか」


そう考えれば納得が行く。

武具類は店頭に飾れるだけ持っていても意味がない。

ちゃんと在庫を用意しておかないと商売として成り立たないからだ。

普通は店の他に倉庫を構えて武具類を保管しているものだ。

ただ、ここの武具屋は隣の商店と近接しているので他に倉庫を設けられなかったのだろう。

ルミウス三世は力を入れて地下の扉を持ち上げて開けた。


「予想通りですね。武具がたくさん保管されています。しかも新品です」

「どれ……」


マークニットとルミウス三世は地下へ降りて行って武具を手に取る。

さすがに地下に保管されているだけあって一切埃は被っておらずきれいなままだ。

手にした鋼の剣も刃零れもなく、刃波がくっきりと浮かび上がっている。

この状態ならばすぐにでも使えそうだ。

マークニットは保管されていた剣の品定めをするとお気に入りの一本を引き抜いた。


「俺はこれにするよ」

「これにするって。もしかして持って行くつもりですか?」

「あたり前だ。こんなところに置いておいても仕方ないだろう」

「それじゃあ盗賊と同じですよ」


ルミウス三世のもっともなツッコミを受けてマークニットは懐に手を伸ばす。

そして財布から銀貨1枚を取り出すとテーブルの上に乗せてニコリと笑った。


「これで文句はないだろう?」

「文句はないですけれど……ちょっと違う気もします」

「俺はこの剣を買ったんだ。盗んだ訳じゃない。お前も好きなのを選べよ。俺が買ってやる」

「そんな急に言われても……」


遠慮がちに後ずさりしながらルミウス三世は部屋から出ようとする。

それを制するようにマークニットは保管してあった武具を漁り中から盾を取り出した。

盾は腕に装着する30㎝ほどの小さなもので軽くて丈夫な素材で出来ている。

ルミウス三世は魔法も使えないし、武器も持っていないから、せめ防具のひとつでもあった方がいいだろうと選んだのだ。


「これでお前も戦闘に参加できるだろう。その盾で俺を守ってくれよ」

「僕を戦力だと認めてくれるんですか?」

「あたり前だ。俺達はソウル・ベルなんだからな」

「リーダーみたいなことを言いますね」


ルミウス三世とマークニットはお互いの顔を見合わせてからクスクスと笑い出す。

マークニットの言葉にふいにリーダーの顔が浮かんで可笑しくなったのだ。

もし、ここにリーダーがいたら間違いなく「俺達はソウル・ベルだからな」と言っていたであろうから。

リーダーほどソウル・ベルを大切に思っているものはいない。

それはリーダーにスカウトされた時から何も変わらないのだ。

剣闘士としてコロセウムで戦って来たリーダーからすれば仲間はかけがえのないものだ。

仲間がいるから守りたいと思え、仲間がいるから再び立ち上がれる。

ひとりでは決して感じることのない気持ちを大切にしたいからソウル・ベルを立ち上げたのだ。


「これで俺達も立派な戦士だ」

「経験はないですけどね」

「それを言うなって」


武具を手にしたからと言ってすぐに戦力になる訳でもないが気持ちだけは高められる。

戦いにおいては何よりも気持ちが大切になることが多いから心構えは大切なのだ。

何も出来ないよりも何かしらの役に立てればと言う思いでいっぱいだった。

そんなことを気にしなくてもルミウス三世とマークニットは十分に役に立つのだけれど、それは今の二人にはわからなかった。





水路を遡って行った俺とゴウは街の東側で水がめを見つけた。

水がめは湖のようなものではなく地下からくみ上げている方式になっている。

10メートルほど高さのある建物の上には大きな帆が十字に取り付けられてあって風の力で滑車を回す仕組みになっていた。

今は帆が壊れているので風車は回っていない。


「ここから水を汲んでいたのか」

「しかし立派な設備だな。サーメット教の技術の高さが伺えるよ」


この設備はマビジョガ島の街でも見られた技術だ。

自然の力を有効に使おうとする昔の人達のアイデアが見て取れる。

もしかしたら、サーメット教の信者がマビジョガ島に渡ったのかもしれない。


「水は干上がっていないようだぞ」


ゴウが拳大ぐらいの石を水がめに放り込むと少しの間を置いてからチャポンと水の弾ける音が聞えた。

深さで言えば10mほどあるだろうか。

暗がりでよく見えないが下は水でいっぱいになっているようだ。

俺とゴウは試しに滑車を人力で動かしてみる。

すると、滑車はキュルキュルと金切り音を立てながら地下から水を汲み上げた。


「こいつはまだ使えるぞ」

「だけど、人力じゃあたかが知れている」


一杯汲み上げるだけでもへとへとになるぐらい力が必要だ。

滑車には桶がいくつも着いているから、その分だけ重さが増す。

とても人力だけでは水路に水を流すまでには至らないだろう。


「水が補給出来ればそれでいいさ。俺達は水路を蘇らせることが目的じゃないのだから」

「それもそうだな」


俺は後ろにあった丸太に寄りかかるとそれに合わせるように風車が音を立てて動き出した。


「何だ?」

「おい、見ろ、カイト。こいつは風車と連結しているぞ」


水がめの横に備え付けられてあった丸太は十字になっていて中心に歯車が着いている。

その歯車は風車と連結してあって丸太が回ると風車も回る仕組みになっていた。

丸太には革で出来た取り付け器具が着けられていて馬が引けるようになっている。


「風が吹かない時は馬で風車を回していたみたいだぞ」

「考えたな」


ゴウは腕を組んで関心したように大きな吐息をこぼした。

自然の力は強大だけれども四六時中風が吹いている訳でない。

風車が回らなければ水路は干上がってしまうのだから。

それを避けるために馬に引かせて風車を回していたようだ。


「ゴウ。時計塔へ戻って馬を連れて来よう」

「もしかして馬に風車を回させるつもりか?」

「その方が楽だろう」


水を汲み上げることが一番の目的だが何故だか水路に水を流してみたくなったことも事実。

これだけの技術を持っている街だからこそ、何か他に仕掛けのようなものがないかと考えたからだ。

街中に水路が張り巡らされてあるならば、きっとそこに関連した何かがあるはず。

俺とゴウは急いで待ち合わせ場所の時計塔へ駆けて行った。


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