♡ジェラルドの夢7.特別な友人
「あなたはそのお方を、愛してしまったのですね――」
涼やかな青い髪を揺らしながら真っ直ぐに聞いてくる彼女に、つい固まってしまう。
レイシア……こんな女性だったのか。
あっという間にバレてしまったな。そんなに分かりやすかったか……まぁ、あまり真剣に隠そうとはしていなかった。恐れずに自分を出せってライラちゃんに言われていたしね。意味は違っただろうけど。
しかし……どうしようかな。婚約者相手にそれって……。
彼女が僕の隣に座ると、今までで一番可愛らしいと思える顔で微笑んだ。
「ご安心ください。ご存知かとは思いますが、私はジェラルド様をまったく愛していないのです」
「……ハッキリ言うね」
「ジェラルド様もでしょう? だから何を聞いても大丈夫です。どんなふうに彼女を好きになったのか、どう接していたのか、知りたくて仕方がないのです。教えてください。そしてそれが無理なら――」
レイシアの瞳に涙が滲んでいる。
「私を突っぱねてください。拒否してください。結婚する頃にはもう少し私も大人になっているはずです。身の程は弁えられるはず……どうか私を止めてください。今の私はあなたに相応しくないのです」
同い年なのに……若いなと思ってしまう。自分の気持ちをコントロールできず持て余している。頬を紅潮させて潤んだ瞳には拒否されたくない気持ちが映し出されている。
あの夢はやっぱりただの夢ではなかったのかもしれない。ライラちゃんの言ったことは本当だったのかもしれない。彼女との精神年齢の違いを、どこか感じてしまう。
それなのに……可愛いなと思う。
「いいの? 将来の夫が全然違う女性に恋をして、皆の前で好きなんだって堂々と開き直ってたんだけど」
「ふふっ、とても素敵だと思いますわ。そんな恋を私もしてみたい。私、ジェラルド様のことが知りたいの。なんでも話し合える友人にまずはなれないかしら。ああ、駄目。拒否をするなら早くしてください。そうでないと止められないわ。知りたいの」
そんな、泣きそうな顔をされてもね。
ま、知ってはいたけど僕を愛してはいないそうだし、そっちの期待はされてもいないようだ。話してしまおうかな。そうでないと……仲は深められなさそうだ。
「拒否なんてしないよ。誰より自分を理解してくれる人が側にいてくれるのなら心強い。根こそぎ全てを聞いてくれても構わないよ。君が望むなら全てを話そう」
「――――!」
レイシアが僕を見つめたまま、ポロポロと涙を流し始めた。
「こ、これは……、あなたを好きだからではないのです……っ」
「ああ、そうだろうね」
「ずっと、私のこの気質は抑えなさいと私を知る誰もに言われてきました……っ。我慢を覚えなさいと……そんなふうに言われたのは初めてで……」
「僕には遠慮しなくていい。どれだけしつこくしてくれてもいい」
「そんなことを言われて、今後拒否されたら私は……っ」
「はは、大丈夫だ。僕もそうだな……格好つけずに君の前では素でいさせてもらおうかな。その方がよさそうだ」
「隠さないでください。問い詰めたくなってしまう」
「それはいい。隠していると思ったら存分に問い詰めてくれ」
ライラちゃんに支えられた僕が、不安定な女の子を支えようとする……うーん、彼女の今までの男と同じ道を辿るのは微妙な気持ちになってしまうけど……振られたんだし、それはそれでいいか。
「違う女性を好きなままの僕の胸で泣いてみる?」
彼女を試す。
僕に本当に期待を抱いていないのかを。僕の言葉で傷ついたりしないのかを。
彼女が嬉しそうに笑った。
「本当のジェラルド様を見つけましたわ!」
思い切り胸に飛び込んできた。
ストレートの髪はサラサラしていて、感触がライラちゃんとは違う。
「いいのかなー……本当に。正直に言って、君のことを好きになるの、結構先かもしれないよ。引きずってるんだよね、かなり」
彼女の髪をときながら言う。
「それでは約束しましょう」
「約束?」
「お二人の結婚式が終わるまでは、お互いに好きになるのをやめましょう」
「え……そんな提案をされるとは思わなかったな」
「特別な友人になりましょう、ジェラルド様」
仲を深めなくてはと。
好きにならなくてはと。
そう思っていたけど……。
「友人でいいの?」
「ええ。いきなり好きになんて私も無理です」
「本当にハッキリ言うね」
「その方が気楽でしょう? 早くヨハネス殿下と結婚していただけないかしら。私もライラ様とお会いしたい。私も連れていっていただけるように話を通してくださいね」
「きっついなー。彼らの卒業まで無理でしょ」
「ええ、そうでしょうね……残念ですわ」
彼女が上目遣いで甘えたように僕にする頼み事は――。
「ねぇ、早く昼食を食べましょう? そして早く私に聞かせてください。ジェラルド様の熱い恋の話を」
いいのかなー……本当に。
ま、多少は仲が深まった……のかな。引き換えに僕は自分の失恋の話をするのか……うーん、話しながら胸が抉られそうだけど。
ま、吐き出させてもらうか。
「呼び捨てでいいよ、レイシア。特別な友人なんだよね」
「はい――!」
彼女がジェラルドと呼んで、さらっと僕の手を握った。嬉しそうに浮かれている。
二人で食堂へと歩き出す。
全部話したら……そうだな。こっちでもボードゲーム同好会なんてつくっちゃおうかな。その前にいくつかレイシアと他のボードゲームの案でも考えてみようか。
もちろん、『ブラフ』を一緒にやってからね。
――僕はいつの間にか、未来について考えていた。










