♣アンソニーの恋愛1. 書庫の謎(本編53話)
コミックス2巻発売(紙版2024.9.10・電子版2024.9.7)に伴い、番外編を投稿します(毎日更新·全7話)
第一話はシーナ視点です。
第三話からはジェラルドも登場!
レイシアとの恋愛模様も少しは垣間見える話になります。
ボードゲームを午前中に公爵家に取りに行ったその日、申請を出して他の使用人にも手伝ってもらいながら研究棟の最上階の客間の棚へとしまいこんだ。
午後になり、カムラから頼まれたたくさんの本を書庫へと返却しに図書館へと入る。
私、今日はお休みなのに、人使いが荒すぎですよね……。書庫に入る手前、職員服を着たままですし仕事をしている気分です。
王宮の図書の間にも置いていないような古い書籍がここにはある。もう使えない知識……この薬草はあの病気に効くはずだというような今では勘違いだと分かっている内容の本であったり、なくなってしまった村の郷土史であったり。今では判明されている、とある実験の副産物についての考察であったり……。
カムラは、そういった過去の遺物にも興味があるようだ。速読が得意なので全てを読み尽くす勢いで借りている。
本当は貸出禁止だけれど……そこは「今までの歴史を知ることで今後の多岐に渡る分野での展望や予測にも役に立つので」といった理由で許可を得ている。ヨハネス様にも要点を伝えているようだ。
――で、返却するのは私なんですよねー……。
持ってきた本を窓際の背の低い本棚の上に置いて一冊ずつ片付け続けていると、キィと扉が開く音がした。
だ……誰?
つい、並んでいる棚の窓側に隠れてしまった。足音からして一直線に奥へと向かうようだ。
足音を消して後ろ姿を覗くと、緑がかった銀髪の青年がキョロキョロしながらスタスタと歩いていた。
あれは……ジェラルド様ですね……。
どうしてこんなところに? 図書館の奥まで来て、この扉はなんだろうかと開けてしまったのだろうか。わざわざ扉を半開きにしたのは、閉じ込められないように誰かが入ったよというアピールなんでしょうね……。
うーん、どうしようかな。
残りの本は数冊……これだけ静かに片付けてから、書庫の外で彼が出てくるのを待ちましょうか。
最後の一冊を棚に入れたところで、半開きの扉がまたも開かれる音がした。
またですか……誰でしょう。なんでこんなところに次から次へと……って。
ライラ様じゃないですか〜!!!
そういえば午後に図書館に行くとおっしゃっていましたけど……探検気分で奥に来てしまったんでしょうか。不用心すぎですね。森で寝ていたことを反省して気を付けてほしいものです。
私……どうしましょう。カムラにお願いされたわけでもないのに、盗み聞きなんてしたくないんですけど。
ううん……友人同士が学園で偶然会うことは、あってもおかしくはないこと。それでも、ヨハネス様のいない時に他の男性と二人きりになるのは……って。うわぁー、また一人来ましたー!
あの二人の会話がかすかに聞こえた瞬間、足音を完全に消してゆっくりと進む気配を感じる。
後ろ姿からして、どう見てもアンソニー様ですね……。
私、本当にどうしましょう。
職員として学園に来ているので、学園生活にあまり介入してはいけない。書庫の中は声が響くし、アンソニー様を連れ出そうとしてはライラ様たちにも気付かれる可能性もある。
でも……。
――って、ああー!
悩んでいないで連れ出せばよかった! ライラ様がとんでもない発言をー!!!
格好よすぎですね。これはジェラルド様に、まずい心境の変化があった可能性も……。
アンソニー様がそのまま踵を返してゆっくりと足音を立てずに戻ってくる。そのまま書庫から出て行ったので追いかけることにした。
……軽く、口止めでもしておきましょうか。
どうしましょうね、これ……。
 










