04.深謀の魔女 後編
ジークを自身の娘の夫にする
さすがのジークはこの言葉には心底驚いた。
もっとも、顔には出さなかったが。
「つまり娘婿に迎える、という事か?」
「ええ、そうなりますね」
「どういうことだ?仮にも公爵令嬢なんだろう?どこかの有力貴族に嫁がせるのではないのか?」
「そうする予定はあったけど、あなたが他の子供を殺してくれたから、あの子が継ぐことになったの。でもね……」
彼女は呆れたように言った。
「はっきり言うけど、あの子はとても優秀だけど、ヘルサイズ公爵家の人間としては落第なのよ」
「なるほどね……」
ジークがヘルサイズ公爵家を調べた際、サレナの一番下の子供、長女シャルロットの調査ももちろんした。
その結果として分かったことは、彼女は優秀だが、権謀術数には向いていない、という事だった。
そして、 ヘルサイズ公爵家は代々表でも裏でもエスティリア帝国を守っている家系だ。
それを継ぐものとして、彼女は不適格だろう。
「で、それをあなたにフォローしてほしいの。いえ、むしろあなたにヘルサイズ公爵家を継いでほしいのよ」
「娘には一切期待ししていない、という感じだな」
「ええ、私は母である前に、帝国を守るヘルサイズ公爵家の人間ですから」
「じゃぁ、なんで娘に教育を施さなかったんだ?」
「しようと思っていたんだけど、夫が邪魔してね。子供の教育なんて全然できなかったわ。まぁ、夫は私の本性に薄々気づいていたみたいだし、私みたいになって欲しくなかったんでしょうね。本当に愚かな奴だったわ。」
「まぁ、確かに愚かな奴だったな」
だからこそ、彼がエスティリア帝国の軍司令だと聞いたとき、ジークは上手く利用できる、と思ったのだが。
「当時、彼の領地から様々な資源がある事が分かったから結婚したんだけどね。まぁ、彼の家は全員不慮の事故や病気で亡くなったし、資源発掘の為に私の家から借金もしていたから、今はヘルサイズ公爵領になったんだけどね」
「不慮の事故や病気、ね」
サレナが裏で手を回したであろう事に、ジークは気づいた。
「ええ、夫ももういらないから死んでくれないかな、と思っていたら、戦争が起こって死んでしまったし、幸運だったわ」
彼女はそう言って、嬉しそうに笑った。
「幸運……、か」
ジークはサレナの嘘が分かっていた。
サレナもジークが嘘を見抜いているのは分かっているだろう。
死んでくれないかな、と思っていたら、戦争が起こった……
それは違う。
この戦争の原因であるアリステラ王国のカナン王太子が無礼を働いた相手が、このサレナ・ヘルサイズなのだ。
確かにカナン王太子は無能だが、エスティリア帝国ヘルサイズ公爵家の人間に対し、そう簡単に無礼を働くとは思えない。
だが、深謀の魔女サレナ・ヘルサイズならば、カナン王太子を上手く動かす事は可能だろう。
「子供が死んでしまったのは残念でしたが、これも運命でしょう」
これも嘘だとジークは分かった。
彼女の長男と次男は、どちらも優秀だが、長女と同じく権謀術数には向いていないタイプだった。
長男は夫と一緒に戦争に出し、次男はジークにさらわせて殺させる。
今考えると、サレナを殺しに行った際に、あんなにうまく罠にはめられたのに、次男誘拐がうまくいったのはおかしい。
そうジークは考えた。
つまり、この魔女は、戦争を利用して夫と子供二人を殺させたのだ。
そうすれば、自分の手は汚さずに済むからだ。
さらに、戦争で夫と子供を亡くした悲劇の未亡人、という印象を他人に与える事が出来る。
しかも、サレナは表向きは戦争反対派の人間だった。
つまり、今後エスティリア帝国での発言力をより高める事が出来るのだ。
ここまで考え、ジークは疑問に思った。
「あんたはこの戦争で勝とうとは思わなかったのか?」
「もちろん勝っても問題ありませんでした。事故というのはどこでも起こり得るものですから」
つまり、殺す手段はいくらでもある、とサレナは言っているのだ。
「じゃぁ、なんで戦争が起こるのを止めなかったんだ?あんたが本気になれば……」
「ええ、本気で止めようとすれば、止められました。ですが、私は確かめたかったのです」
「何を?」
「あなたの実力です。戦争前から、あなたの事は私の耳に入っていました。ですからあなたの実力を測りたかったのです。戦争が始まれば、あなたは確実に出てくるだろう、と。そして、あなたの実力が高かれば帝国は戦争に負け、あなたの実力が低ければ帝国は戦争に勝ちます」
「で、実力が高かれば俺を引き抜く、ってわけか。」
「ええ、想像以上でした。引き抜きはあの王太子がするであろうことは考えられましたから、裏で手を回す必要もありませんでしたけど」
それで、この状況になったわけか……ジークはそう思った。
「国民が大勢亡くなったが、それはいいのか?」
「あら、意外ね。そんな事を気にするなんて。そもそも、国民を殺しまくったのはあなたでしょう?」
「俺は不要な血は流さない。だが、必要な血と思えばいくらでも流すさ。今回は勝利の為に帝国国民の血が必要と思っただけだ」
「私も同じよ。今回の戦争は、勝てば土地が手に入り、負ければあなたという優秀な人材が手に入る。どちらに転んでもいい結果になる。流す価値はあるわ」
「俺にその価値があるとは思えんが?」
「私はそうは思いません。あなたは帝国に、いえ、私にとって必要な人材なのです。ですので、あなたは我が公爵家の、いえ、私の物になってもらいます」
「恐ろしい女だな……」
ジークは考えた。
自分とサレナは似ている。
だからこそわかる。
この女は決して俺を逃がさない、と。
それと同時に、断る理由も特になかった。
なにせ、この要求を飲めば、ヘルサイズ公爵家の権力を握ることが出来るのだ。
一応、婿養子という形になり、権力は長女シャルロットに劣るが、彼女のコントロールは簡単だろう。
ジークはそう考えると、
「わかった。あんたの考えに乗ろう」
と、答えた。
「よかったわ。いやだって言われたらどうしようかと思った」
嘘つけ、ジークはそう思った。
この女の事だ、どうせ俺が自分の考えに乗るのも計算の内だろう。
で、もし俺が乗らなければ間違いなく殺されていただろう。
邪魔な存在は消すのが当然の行動なのだから。
そう内心で毒づいたのだった。
「では、あなたは私の兄の子、甥という事にします。兄は家出して、現在行方不明ですから問題はありません。名前も新たに考えないといけませんね」
「まぁ、公爵家の娘婿が追放された人間というのは都合が悪いしな。だがいいのか?もしあんたの兄貴が帰ってきたら」
「それはあり得ません。家に帰っては来ませんよ。絶対に、ね」
ジークはやはり、と思った。
サレナの兄は殺されたのだろう。
兄が生きていれば決して家を継げない。
邪魔な存在は消す、それはジークとサレナにとっては当然の事だからだ。
「それでは、名前を考えましょうか。そうですね……アレク、という名前はどうでしょうか?」
「何でもいいですよ。別に」
こうして、ジークフリード、通称ジークは、名をアレク・ヘルサイズと変えた。
その後、二人は途中の町で買い物をしてアレクの衣服や剣、他にも必要な物を買いながら、数日かけてヘルサイズ公爵家の屋敷に着いたのだった。
お楽しみいただけましたでしょうか?
しばらくこの話の後に、ネタバレなしの今までのキャラ設定を出した後は、しばらく投稿できないと思います。
毎週投稿できている人は本当にすごいです。
正直尊敬します。
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