花火大会一緒に見よう大作戦
<金次郎>
佳夏からプレゼントをもらった。腕時計だ。時間厳守のボクのために選んでくれたって、すごく嬉しかった。
しかも、色違いで同じものを佳夏は自分用にも買ったという。
やっぱり、ボクの話信じてくれてるんだ。
けど、基本的に服もクツも体と一緒に消えるから、何かをもらったらその物がどうなるか分からないので、時計が消えないように二人で会った時に着けるってことで、保管は佳夏がしてくれる。毎回会ったときに渡すって約束になった。
ボクは、佳夏と過ごした話をひととおり管理人にした。
「楽しかったかい」
「うん。今度、花火を一緒に見に行こうって言われた」
「何時から始まるんだい?」
「6時半くらい」
「そりゃ、無理だな」
「そうだよね」
「人に見られたら、大変なんだ。この体の少年にも迷惑かかる」
「そうだよね、人もたくさんいるし。だから、時計のプレゼントはすごく嬉しかった」
「いい子だね」
「うん」
ボクのことを信じてくれて協力してくれる佳夏の存在がありがたい。
あの子は、どうやったら見つけられるか全然見当がつかないけど、佳夏に会えるのがボクは嬉しくなっていた。
花火は一緒に見られないけど、その日に会うことになった。
<佳夏>
『衣梨菜の花火大会一緒に見よう大作戦』
1 朝、あらかじめ二宮の時計を一時間遅らせておく。自分の時計も。
2 時計のない、なるべく時間が分からない場所へ行く。
3 区民センターのプラネタリウムに誘う(4時45分の回)
4 そこでさらに三十分時計を遅らせる。
5 出たときは、時計は4時すぎだけど、本当は6時近い。
6 そこから家の方に帰る頃には花火が上がってる時間。
※プラネタリウムの中じゃ5時のチャイムは聞こえない。
※佳夏と衣梨菜は英語塾の人達(先生もいる)と花火見に行ってることになってるから、ママたちの許可は大丈夫!
「そんなうまく行くだろうか・・・」
朝10時、11時を指している時計を片手に二宮を待った。待ち合わせはショッピングモールの外側にあるベンチ。午前中はひかげになっているので、けっこう涼しい。
数分前にきたけど、一時間近く待ちぼうけをくらっているという気持ちを作る。いや、作らなくても昨日から落ち着かない自分にイライラする。
衣梨菜はノリノリで作戦を考えてくれたけど、そんな上手くいくわけない。万が一、二宮を、二宮の親を怒らせるような事になったら一緒に謝って坊主になってもいいとまで言ってた。それくらい自信があるのか、わたしと二宮をくっつけたいのか。
二宮が来た。
「おはよう佳夏」
「おはよう。どうしたの?」
「え?」
「一時間遅刻」
「え、そんなはず」
わたしはドキドキしながら時計を渡した。同時に自分の遅れている時計を見せた。
「ほんとだ、ごめん!」
「ま、わたしもちょっと遅れたから、そんなに待ってないけど。昨日、暑くてなかなか寝られなくてさ」
「なら、よかった。ごめん」
申し訳なさそうにする二宮。信じ込んでる姿を見ると、遅刻を責める設定にするのはかわいそうになってきた。
衣梨菜の台本では遅刻したバツとして、一緒にプラネタリウムに行こうってことにしようと思ってたけど、そんなことできない。
この作戦のことを考えると、本当に寝られなかった。なんか衣梨菜にのせられちゃったけど、わたし何してるんだろう。
そりゃ、二宮と花火見られたらいいけど、その前にプラネタリウムとかって、完全にデートじゃん。しかも大人すぎ。いくら夏休みは小学生無料で外から音がしないと言っても、ドキドキだよ。そもそも、二宮のことそういう対象じゃないし。だって、一緒に人探しするだけだし。
とかいいながら、この待ち合わせも毎回、なんかデートみたいで楽しいんだな。
はあ。
時計をプレゼントした時、一緒に花火を見に行こうと普通に誘ったら断られた。だから衣梨菜作戦決行となった。
まさか、本当に時間が来たら元に戻っちゃうなんてシンデレラみたいなことあるわけないし。二宮の言ってる体を借りてる石像っていう意味不明な話は未だに理解出来ない。
きっと家が厳しいんだと思う。一時的に日本に来てるから、ケータイとか持たせられてないだけで、そんなに自由じゃないんだよ。もしかしたらケータイなんて庶民の道具じゃなくて、スパイみたいな特殊なGPS機能がついたやつがクツとかに付いてたりして。
だから、どうにもならない状況や万が一の手違いが起きてしまったら、しょうがなく一緒にいてくれる場合もあるんじゃないかと。例えば、電車が止まったとか時計が遅れてたとか。そういうの。
そういうので絶対5時が絶対じゃなくなったら、一回だけ、7時まで一緒にいることも許してもらえるんじゃないかな。まだ明るいしお祭りだし。
そこで、衣梨菜が考えたちょっと強引な作戦を実行することにした。原案だと恥ずかしすぎるセリフがいっぱいで、もうなに考えてんだかわからない。
二宮は、わたしがプレゼントした時計をすごく気に入ってくれてる。だから、ちょっとだけ、だますようなことするけど、許してよって思う。
「今日も、暑いね。どうしようか」
「今日は静かなところでいろいろ考えてみようよ。木陰の涼しいところとか」
そう。静かで、なるべく時計はなさそうなところ。
「いいね。せっかくだから、夏を感じてみたい」
「夏か。そうだね。夏休みも今日で終わりだし」
うるさいセミの声。
照りつける太陽。
青い空に白い雲。
わたしたちは、区民センターの近くにある公園に向かった。