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二宮くんの探しもの  作者: 牧田沙有狸


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6/18

二宮と佳夏

<金次郎>

そして、ボクと佳夏の「あの子」探しが始まった。

と言っても、具体的にどこかへ行くあてはない。

探す手伝いをするにも、情報を整理する必要があるからと、佳夏はボクの話をもう一度おさらいするように聞いてきた。

ボクはボクの情報を全て話した。初めて会った時に、勢いでざっと話したこともちゃんと細かく説明した。管理人との出会いから細かい契約内容。ニューヨークにいる少年のこと、少年の体のこと。石像としてのボクのこと。再開発で居場所がなくなるかもしれないという地域の話。あの子との思い出の記憶。思いつくものは全部話した。

言葉と言葉が交わされる。ボクの言葉に反応して次の言葉が返される。

ただ、それだけで、嬉しくなった。

石像にはできなかった対話があった。

 いろんな話をしていくと、佳夏はまたイメージが違うと言いだした。イメージと言われても、よく分からない。石像のボクと少年とは目鼻立ちが全然違うから、ちぐはぐな感じはするんだろうな。

とりあえず「くんづけ」やめることになった。

二宮。そう呼ばれるのも、少年ではなくボクとの対話だと思うと嬉しい。




<佳夏>

今日もわたしはお母さんの仕事の邪魔にならないように、散歩に出かけた。外は暑すぎるので、またショッピングモールの広場にあるベンチに座った。

二宮くん改め二宮。彼のいろんな話を聞いたけど、見た目と中身のギャップがありすぎる。妄想力が果てしなくて、作ってるのか天然なのかよく分かんない。まあ、そこがイケメン特有の上から目線みたいなものがなくて話しやすくていいけど。そもそもハーフで日本名が似合わない。だけど見た目ほどの王子様感もなくて「二宮くん」って感じもしなくなってきた。モデルにいそうだからニノミヤってところかな。だから、単純に「くんづけ」をやめようってことで二宮。こっちは最初から呼び捨てだし。二宮と佳夏。

二宮とは三日に一回ぐらい会うことになった。連続すると少年の体に負担がかかるからとか、雨の日は石像の体を貸すのは避けたいとか、もう意味がさっぱり分からない。つまり、わたしみたいに毎日ヒマなわけではないらしい。一体何をしてる人なんだろう。やっぱりモデルかな。

わたしは、シールや落書きばっかりでたいして使ってなかった手帳を取り出した。二宮との約束がちょっと嬉しくて予定を書き込んだ。次に会う約束してるのは明日。夏休み中に会えるのはこれが最後かな。

二学期が始まったら、土日確実に会えるとかじゃないと、そんなに会える日がないかも。平日は六時間授業の日は、一度家に帰るとすぐ5時になっちゃう。わたしが昼間に協力できるのは夏休み中だけだ。

それは、それでさみしい気がしてきた。

本当に見つけるつもりなのかな。

ケータイとか持ってないっていうし、メールもよく分からないって言うし。

「何、ニヤニヤしてんの?」

わたしは驚いて振り向いた。最近、よく言われる気がする。二宮のこと考えてる私ってそんなにニヤニヤしてるの? 背後には衣梨菜が立っていた。

「衣梨菜、どうしたの」

「英語教室、ここの三階にあるの」

「そうなんだ」

「で、佳夏は何してんの?」

「別に、ひまつぶし」

「ふーん。あ、そうだ見て見て、これ先輩」

 衣梨菜がスマホの画像を見せてきた。先輩を撮ったらしい。どこにでもいる男子中学生だった。どんだけの王子様かと思えば、ちょっと背が高いだけでレベル的にはクラスの男子と変わらない。

「ね、かっこいいでしょ」

「そう、だね」

ぜんぜん思ってないけど賛同しておいた。わたしの頭の中に一瞬、二宮の顔が浮かんだ。かっこいいっていうのは、あのレベルだよと主張したい気分だ。

二宮に会いたくなった。

二宮の写真撮ってないことに気付いた。いつまで日本にいるのかな。探してる子が見つかったら、わたしが一緒にいる意味もなくなっちゃうのかな。

「佳夏、なんか隠してることあるでしょ」

「ないよ。いきなりなんで?」

「好きな人できたら言ってって約束したよね」

 好きな人と言われてドキリとした。別に、二宮のことをヒミツにしてるだけで、好きな人ができたという気持ちを隠してるわけじゃないのに。

「うん。だから、まだいないってば」

「ほんと?」

ほんと。

二宮のこと、そんなんじゃ。

だって彼はただの観光客で、ずっと好きな子がいて、その子を探してる。好きになっても、彼には好きな人がいて。その好きな人が、わたしに似てるって。それで好きになられても悲しいし。

「ママがね、見たんだって。佳夏が男の子と抱き合ってるところ」

「え?」

 二宮と初めて会って抱きつかれた瞬間のことが、遠くから撮ってる映像みたいに思い出された。抱きしめられてるんだから、その姿を自分では見たことないのに思い出せる。寝てみる夢の中みたい。自分が見てる夢なのに自分が見える。

「その顔は心当たりありそうね。誰? なんか、ハーフモデルみたいな、めちゃくちゃキレイな子だったーってママが興奮してたんだけど」

 二宮と出会ったのは、お盆休み期間。

「衣梨菜、福岡行ってたんじゃないの?」

「今年は行くのやめたの」

「なんで?」

「だって、英語教室のサマースクールがあったんだもん。今年先輩も参加するって聞いてさ。先輩と学年を超えて一緒にいられるチャンス」

「へえ」

 おじいちゃんおばあちゃんより、片思いの先輩をとるとは、さすが衣梨菜。

「おじいちゃんおばあちゃん、がっかりしたんじゃない? いいの?」

「正直、あっち行っても面白くなくてさ。どうして親戚ってのは、デリカシーのないこと言うんだろうね。やっと可愛くなってきたねとか、今までなんだと思ってたんだよって。話す事ないから近くに住んでるいとこの話ばっかりだし。ママも、毎年のように二人目はつくらないのかとか言われるの嫌だって言うし。今年は行きたければパパだけ行ってきてって」

「いろいろ大変なんだね」

 たまにしか会わない親戚っていうのは行くだけで喜ばれるんだろうけど、実際、話す内容がなくて盛り上がらないんだろうな。

「で、誰なの?」

 話をはぐらかしてごまかそうとしたがムダだった。

「ただの観光客よ。落としたクツをあたしが拾ったら、アメリカ式に感謝してくれて」

「それだけ?」

「うん・・・・・・」

「連絡先聞いた? その後、会ったりしてるの?」

「一応、会ってる」

「マジで!」

「うん。連絡先、ケータイとかは持ってないみたいで」

「佳夏にも素敵な王子様が現れたのね」

「え? 王子様」

 確かに、王子様が現れたような気分ではあった。

「佳夏、それが、出会い、だよ」

 いつになく、いきいきとした衣梨菜。勝手に盛り上がり始めた。

「花火。花火。一緒に行こうって誘うの。まだ日本にいるんでしょ。ね、ね、あたしも先輩と行けるように頑張るから」

 花火。毎年、夏休み最後の日にある花火大会。このショッピングモールの近くにあるグランドから上がる。

「ええっ無理だよ」

「なんで」

「いつも5時までって約束なの。しかも、5時に家に着いてなきゃいけないから、余裕見て4時半ぐらいでさよならする」

「なにそれ、真冬じゃあるまいし。しかも、祭りの日ぐらいいいじゃん」

 二宮が言う、5時になったら石像に戻っちゃうなんて話、信じてない。けど、信じてるふりしてる。

正直、わたしだって5時までめいっぱい一緒にいてもいいじゃんって思う。祭りの日ぐらいどうにかなるでしょって言いたい。けど、絶対ダメだって言うから。衣梨菜にもなんとも言えない。

「夜、メールとかは?」

「だからケータイ持ってないと思う」

「じゃ、ほんとに会ったときしか話せないんだ」

「うん」

「そっっか。じゃあ時計プレゼント作戦だな」

「時計?」

「その彼は、帰る時間きっちりしてるけど、絶対狂わなそうなすごい時計持ってるの?」

「駅の時計見たり、わたしに聞いたりしてるから時計も持ってないかも」

「じゃあ、きまり。あたし、三百円でいいの売ってる所知ってるから、英語教室始まるまで時間あるから、今、行こう」

 衣梨菜は何かすごい企みを思いついたみたいで、おススメの雑貨屋に連れて行かれた。

 二宮に似合いそうな時計を買った。色違いで自分のも。確かに時計があったら便利だし、日本のお土産としてプレゼントするのもいいから、普通にいいアイディアだと思った。

そして、少女マンガや雑誌からかき集めたような、あらゆる情報を元に作られた衣梨菜の作戦を聞かされた。ノートにメモして台本みたいなのも渡された。

衣梨菜はしゃべるだけしゃべって英語教室へ行った。台風みたい。

疲れた。

でも、ちょっと楽しかった。前よりも衣梨菜の話が面白いと思えるようになった。



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