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二宮くんとの出会い

<佳夏>

この時間、外はめちゃくちゃ暑い。

アスファルトにクツを履かないで出たらやけどする。まだ外には出ていないだろう。結構新しいクツだし、この数分の間に新しいクツを買うなんてことしなそうだし。

とりあえず、わたしは下の階に行った。

行き交う人のクツ、足下をじっと見ながら歩いた。こんなにたくさんの人がいるのに、同じクツはいてる人って意外といないもんだなと思った。

このクツの持ち主って、どんな人だろう。男物で23cmって子供のだよね。おなじ

年ぐらいかな。イケメンかな。友達になれるかな。逆に小柄なおじさんだったらどうしよう。

もし見つかったらどうしようかな。そうだ、最初は遠目でどんな人かわかるまで見てよう。怪しそうだったらそばにそっと置いておくだけにして、関わらないようにしよう。変なおじさんとかだったら、お礼とかされたら面倒くさいし。なんか親切にしたのに逃げるようなことになったら、こっちも気分悪い。

「モテない男は抵抗できない小さい女の子をねらうから気をつけなさい」ってお母さんによく言われる。「でも、美織みたいに女の子らしくてちょっと胸もふくらんできたような子がねらわれるのは分かる気がするけど、わたしみたいなチビのやせっぽっちなら大丈夫でしょ」って言ったら、今のわたしの体型って、手足が細くて一番アニメっぽくて現実世界で女の人に相手にされていないような男には、可愛く見えるんだって。やばいんだって。お母さんの友達にきっとそういう人がいるんだろうな。

わたしは、建物の中の中央広場みたいな所に出て、あたりを見回した。中庭の窓の近くで変なポーズをしている少年が目に入った。この数分間のクセで、すぐに人の足を見てしまった。片方クツをはいていなかった。

「いた!! クツなし!」

 わたしは「変な人だったら対策」を考えていたばかりなのに、遠くから様子を見ることなくその後ろ姿に声を上げた。しかも頭の中で勝手に付けてた名前で。

「え? あ」

 振り向いた少年はわたしを見て、逃げ回ってたのに見つけられちゃったかのような、おびえた顔をした。なんでか、足がふるえてる。

「ああああああ」

 少年はおびえたような声を出す。

 やばい、子供だったけど、変な人かも。でも、かなりイケメン。わたしは逃げなきゃと思いながら、その場から動けなかった。

「すごい、もう見つかった」

 少年の表情がなぜだかうれしそうになった。

少年はいきなりわたしに抱きついてきた。

 何? 何?

 もしかして「ショッピングモール内クツを誰かが見つけてくれるゲーム」みたいなのしてたの? ってことは、どっかに対戦相手がいるとか。おいおい、夏休みたいくつなのは分かるけど、見ず知らずの人を巻き込まないでくれる?

「こんなに早く会えるなんて」

 少年はあたしよりちょっと背が高いけど同じ年くらいかな。淡い茶色の髪の毛に、色白の肌で女の子みたい。ハーフかな。クラスの男子なんかと全然違う。

衣梨菜の言う「王子様」ってこんな感じかな。突然、抱きしめられて始まるちょっぴり強引な恋。うわあ。衣梨菜がよだれだして喜ぶ、これぞ少女マンガ的なやつじゃない?

 やだ、なんかドキドキしてきた。こういう時どうすればいいの?

「あの」

「え、ああああ、すみません」

 少年はやっと気づいたみたいで、わたしから離れた。

「反射的にやってしまった。ボクの意思なんか関係なしに、アメリカのあいさつとして当たり前に体は動いてるんだ。しかも七歳の頃の記憶」

「アメリカ?」

「はい。ニューヨークにいて」

 へえ。ああ、そういうノリね。なんだなんだ。ドキドキして損した。でも、なにニューヨークとか言って、かっこよすぎ。クツもなんかおしゃれなデザインだなと思ったけど、ニューヨークで買ったのかな。

「あの、クツ」

「あ、ありがとう。あの動く階段に取られちゃって」

動く階段? エスカレーターって英語だよね。いや、日本語英語でニューヨークではちがうのかな。わたしが英語分からないと思ってそんな訳し方してくれちゃった。やっぱりわたし相当子供に見られてるのかな。

 少年はぎこちない動作でクツをはいた。まるでタイムスリップでもしてきたみたいに、この空間になじんでないように感じた。ニューヨークと日本ってそんなに違うのかな。

「ずっとずっと君に会いたかった」

「え?」

 何そのラブソングの歌詞みたいなの。会いたかったって、好きとか言われるより、長い年月想われてたみたいですごくない? うわあ。大人。

「ボク、二宮金次郎の石像なんだけどね。昨日の雷で、魂の管理人って人が現れたんだ。それでニューヨークの病院にいるこの少年の体を借りて」

 は?  は?  は?

 お母さん、やばい。イケメンだけど、相当やばい。何言ってるか分からない。

これってアニメとかそういう世界とごっちゃごちゃになっちゃってる妄想系ってやつ? 石像で少年の体を借りてって異世界転生しちゃったやつ? 

そのアニメだかライトノベルだかに出てくるヒロインに似てるのかな。日本のアニメって海外でもすごい人気だもんね。でも、訳し方がおかしくて意味が変わっててとんでもない設定になってたりするのかな。二宮金次郎ってなんだっけ。

 どうしよう。まずは逃げよう。全力で。

「って、言っても信じてもらえないよね」

 少年は急に勢いをなくした。その横顔が超絶イケメンすぎて見入ってしまった。少女マンガだったらコマからお花とか星とかキラキラしてて、もう天使までたたずんでる感じ。このまま逃げたら、ものすごい損するような気がした。

衣梨菜、これはもう「出会い」ってやつですか。

 言ってることが意味わかんないのは、日本語が上手くないだけかもしれない。日本人の血は流れてそうだからお母さんかお父さんの故郷。はるばるニューヨークから来たというのに、変人扱いされて逃げられたなんてショックだよね。観光客に対して日本人は冷たいとか思われてしまう。

 そうだ。きっと、そうだ。観光客。

「ごめんなさい。正直あなたの言ってることが、よく分からない。座って話しない? わたし、これからハンバーガーでも食べようと思ってたんだけど。一緒にどう?」

「すみません説明が下手で。でも話聞いてもらえますか。ああ、体は一応寝てる時間で、点滴で栄養管理されてるから勝手に食べられないんだけど、水分は取るように言われてるんで。それでも、一緒に行ってもいいですか」

「寝てる? 点滴?」

「だから、その」

「分かりました。行きましょう、あ、名前は?」

「二宮金次郎。でも、それは子供の頃の呼び名で、銅像の台座には二宮尊徳って書かれてる」

「え?」

 だから、その二宮金次郎って誰? 子供の頃って、そんとく? 台座って何?

「ああ、普段は、なんて呼ばれてるの?」

「あんまり呼ばれたことないから。あ、あの子は金次郎さんって呼んでくれた」

「金次郎さん?」

 わたしは少年を見た。淡い茶色の髪、色白な肌、吸い込まれそうなキレイな目。すっと通った鼻筋。つやつやの唇。整ったまゆ毛に長いまつげ。細めだけど、ひ弱な感じはしない長い手足。この王子様パーツに金次郎感まるでなし。

「イメージじゃない」

「そう言われても、この体の少年の名前知らないし」

「しいて言うなら、二宮くん、かな。うん」

「二宮くん、それでいい」

「じゃあ、二宮くんで。わたしは岡崎佳夏」

「わかった。よろしく。岡崎さん」

 岡崎さん?

 え、なんかわたしが年上みたいで嫌だな。同じくらいか、二宮くんの方が上だよね。かといって、岡崎ってのもクラスの男子みたいで嫌だな。ちゃん付けも微妙。

 わたしが不満そうな顔をしたからか、二宮くんはわたしに同じ質問をしてきた。

「普段は、なんて呼ばれてるの?」

「家族や友達は、だいたい佳夏かな」

「じゃあ、佳夏」

「えっ」

 佳夏。

 イケメンに呼び捨てにされて、ちょっとキュンとしてしまった。

 いやいやいや、きっとアメリカ的にはごく普通の呼び方なんだ。特別な意味はない。

「わかった。よろしく」

「ありがとう」

 超変な人だけど、危険な人ではなさそうなので、わたしはお昼ご飯を食べながら二宮くんの話を聞くことにした。

たいくつな夏休みのヒマつぶしにはちょうどいい。

 そのくらいの気持ちで。


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