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二宮くんの探しもの  作者: 牧田沙有狸


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18/18

二宮くん!

<佳夏>

 十二月二十五日。クリスマス。

 朝、テレビでニューヨークのイルミネーションが映った。

十三時間時差があるからまだクリスマスイブの夜なんだ。

 クリスマスか・・・

 ニューヨークにいる少年の体を借りられるのはクリスマスが限界と言ってた。五年間意識が戻らなくてずっと寝てる。限界って、やっぱりクリスマスには死んじゃうかもしれない、って意味だったのかな。二宮の体はどうしてるんだろう。

 考えないようにしていたことだけど、考えずにはいられない日だ。

 ふと、アナウンサーが喋っている画面の右端の文字が目に入った。

ニューヨーク12月24日17:30

「あれ?」

 わたしは、家の時計を見た。朝の7:30

「お父さん、東京とニューヨークの時差って十三時間だよね」

「え、時差? 佳夏よく知ってるな」

「今、7時半ってことは、ニューヨークは夜の6時半じゃないの? 5時半って、なんで。あれ、これじゃ十四時間だよね」

 え、ちょっと待ってそもそも、時差が間違ってたってこと? 

だから、ナミばあちゃんの時、消えなかった? 

え、でもそれじゃ、プラネタリウムで消える必要ないよね。

どっちが合ってるの。

「あれじゃん、サマータイム」

 地理は苦手だと言ってるお母さんが思いついたように言った。

「サマータイムって?」

「夏時間ってやつ」

「日本語にしただけじゃん」

「サマータイムか。なるほど」

 お母さんのつまらないボケかと思ったら、お父さんはスマホで何か調べ始めた。

「サマータイムってのは、太陽の光を効率よく活用する時間制度。三月の第二日曜から十一月の第一日曜日まで時計を一時間早めるんだ。で、その間ニューヨークと東京の時差は十三時間。冬時間になると、一時間戻るから時差が十四時間になる。らしいよ」

「え? 十一月の第一日曜日まで?」

 あの日、ナミばあちゃんに会いに行った日だ。

「うん。その日の午前2時に時間を戻すみたいだよ」

「ってことは、ニューヨークで朝の4時が、こっちでは夕方の5時だったのに、その日から、えっと、1.2.3.4.・・・・・・6時になるってこと?」

 わたしは指で数えながら時差を計算した。

「うん。そういうことだ」

 お父さんが答え合わせをするかのように言った。

 だからか。

 すごい。

 ナミさんと金次郎さんの奇跡だ。

 二人の絆。

 ミステリーのトリックが解けたみたいな気持ちよさがあるけど、今さら、どうでもいいような気もした。テレビの中の人が感動で大げさに泣き叫んで、ぜんぜんついて行けないみたいに、冷めた気持ちになってきた。

 二人が起こした奇跡。

 嬉しいけど、どこか悔しい。

 わたしにそっくりなナミばあちゃんが、まるで同級生の友達みたいに思えた。

美織に対抗したくなったみたいに、なんか、羨ましくてズルいって思ってしまう。

わたしと一緒に過ごした夏休みの数日なんて、七十年以上想ってた二人からしてみたら、たいしたことないし、五年間眠ってる少年からしてみれば長い長い夢の一部。目覚めたら忘れちゃうんだろうな。そもそも生きてるのかな。

わたしの存在って。

幸福の王子みたいに、心が鉛になってしまいそうだ。

わたしの初恋の人は、ひいおばあちゃんの初恋相手。

決して実ることはない。

そんなこと言っても、誰も信じないよね。

 わたしは、大きなあくびをして、流れそうになる涙をごまかした。



 二学期最後、終業式。

学校に行って、教室に入るなり、美織がなにかをプリントアウトした紙を見せてきた。

「佳夏、これ見て」

「なになに?」

 ネットに載ってた外国のニュースみたいだ。

わたしはランドセルも下ろさないでそのニュースを読んだ。淡い茶色の髪の男の子の写真が載っていて、一瞬息をするのを忘れそうになった。

うそ!

「ええええ」

 二宮だ。

「ね。この人って、佳夏の話してた二宮? ネットで見つけてびっくりしてさ」

 わたしはその記事を読んだ。

<ニューヨークで五年間昏睡状態だった少年が突然目を覚ました。少年は意識を取り戻し、流暢な日本語を喋りだした。少年の母親は日本人だが、五歳の頃から意識が戻らず日本語はあまり上達していなかった。

ボクは眠っている間、日本に行って、二宮金次郎になっていた。そこでいろんな話してくれる佳夏という女の子に会った。日本語は、その佳夏に教えてもらったんだ。佳夏をおんぶしたり、手をつないで電車にも乗った。佳夏に会いたい>

「これって、わたし? 漢字まで一緒だ」

 わたしは記事をさらに読んだ。

 <少年は幼少期、祖父の影響で二宮金次郎像に興味を示していたという。金次郎こと二宮尊徳の母親の名前はヨシ。佳夏という名前はそこから来ており、眠っている間、母が聞かせてくれた日本の話が耳から入り体験として記憶に残っているのだろうと、専門家は分析している。佳夏が存在するなら会わせてみたいものである>

 記事は、いかにも佳夏が想像上の人物かのような書き方をしている。

わたしだ。間違いない。

そして、二宮だ。

身体記憶。

二宮が身体に記憶を残していった。

わたしの知ってる二宮は、中身は二宮金次郎の石像。

二宮の記憶を持った少年は、わたしの知ってる二宮に限りなく近い。

二宮くんだ。

二宮くんがわたしに会いたいと言っている。

わたしの存在は、忘れられてない。

「やだ、これ、どうしよう、すごい、すごい」

「やっぱり、そうなの、超イケメンじゃん」

「どうしよう、どうしよう」

「佳夏しっかりして」

 びっくりすぎて言葉がでない。美織に支えられていると

「ちょっと、何? イケメンって」

 衣梨菜が入って、紙を奪った。

「超絶イケメン。誰?」

「二宮、時計をあげた人」

「マジで!!! ちょっとどういうことよ」


いつか、わたしを探して会いに来て。

いや、会いに行くよ。

二宮くん!     

                           終わり


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