ダンジョン創世記0050
「ぬぅわぁぁぁっ!ぬぅわんでぇ何も出て来ぬのどぅあっ!
これでは某の活躍を主君様へお披露目できぬどぇはぬぁいかぁぁぁっ!」
ティアの雄叫びが森へと響き、小動物達が怯えたように遠ざかり、小鳥などが恐れ飛び立って行く。
ダンジョン機能にて遠ざけていた獣達や魔獣達が恐れ戦き逃げ去って行く。
いやティナさぁ…ドラゴニアンである君が雄叫びなんかを轟かせれば大概の生き物は、それだけで逃げ去って行くんだけどねぇ、ふぅ。
「五月蝿いですわよ、何を騒いでいますの?」っとフィレーユが眉を顰めつつティアへと告げる。
今は森の中に設けた広場にて休憩している最中であり、装飾された白い丸テーブルの前に矢張り白い装飾された椅子へと座ったフィレーユが腰掛つつソーサーを左手に持ち右手に持つティーカップより紅茶を啜っている。
午後のお茶を嗜みつつリーフパイをお茶請けとしつつ寛いでいるのだった。
そんな彼女から少し離れた場所でティアが先程のような雄叫びを上げており、傍迷惑そうにティアを見遣りつつ苦言を吐いたところだ。
「むぅ、そうは言うがなフィレーユよ、大立ち回りが行えると意気込んで護衛に出てみたは良いが、襲い来る獲物が一向に現れぬではないか!
これでは主君様へ某らの活躍の披露目が行えぬで御座るでな、何とかならぬものか…」
「貴方ねぇ、これはダンジョンより里々へと交渉を行うための使節団なのですよ。
討伐を目的とした派遣では御座いませんの、分ります?
その使節団に対して仇名す生き物など現れないに越したことはないではないですか。
喜ばしいことと思える程ですけれど?」
ソーサーへカチャリとティーカップを置きつつ静かにティアへと告げる。
「そうは言うがな、某らにとっても実力をみせる少ない機会なのだぞ。
なればこそ、この機会を逃したくないと考えるのは仕方ないで御座ろうがっ!」
「だから、大声を出さないで下さいましなっ!
お気持ちは分らないでもありませぬが、何も現れないのは仕方ないではありませんか。
第一ティアは私達使節団の護衛ですわよ、護衛を第一に考えるべきですわっ!」
そんな口論が続いている間にも休憩は終わり、他の面々は出立の準備を進めている。
ふむ、ティアには困ったものだ、まぁ気持ちは分らんでもないが…結局は一番近くに居た獣でさえティアの覇気に当てられ逃げ去っているのだからなぁ、ある意味自業自得でもあるんだが…それを告げたら流石に拗ねそうだしなぁ、困ったことだよ。
そんな一幕もありつつ使節団は森の中を進んで行く。
やがて森を抜けて森近くを通っていた道へと辿り着いた。
街道っと言っても舗装もされていない土の道に過ぎないが、一応は近隣の里人達が使用している道だ。
毎日のように荷車が往来している道なので、それなりにシッカリしている。
まぁ農家の者達が収穫物を乗せて集落や村落より里へと運ぶのに使用している道だな。
偶に行商人の馬車なども通るようだが、基本的には農民が使用する道なのさ。
そんな道を使節団が里へと進んで行く訳だ。
農民達が道を使用するのは主に午前中であり、夕方が近付いて来ている今の時間帯には通る者の姿はない。
そんな道を使節団という団体が多くの護衛を引き連れ移動しているのだが、朝方ならば騒ぎになっていたことだろう。
元々農民達が牛に荷車を牽かせる牛車にて集落より里へと移動する道だ。
歩みの遅い牛車で通える程度の距離しかない道なので、彼らよりも遥かに歩みの速い使節団は道へ出ると早々に里へと辿り着いてしまうのだった。
一応は神龍様よりの御神託にて使節団の来訪は里へと告げられてはいた。
だが具体的に何時現れるなどの沙汰はなされておらず、彼らにとっては突然現れた使節団に驚き戸惑っているのが現状だな。
使節団来訪を聞き里を守るために男達が武装して現れる。
「おまえ達は何者だっ!」っと威高に誰何して来る男へティアが出て告げる。
「某らは神龍様が御神託なされたダンジョンよりの使者である!
これからの交流、交易について話し合うために罷り越した所存。
この里を治める方との面談を求めるものなりっ!」
堂々と向上を述べたティア男は気圧され後退っているな。
まぁ粗末な革鎧と槍を携えた男と、銀糸金糸にて装飾を施された白い軍服に階級証と勲章を身に付け右腰には赤鞘の大小の刀、左腰には拳銃を吊るした威風堂々としたティアでは役者が違い過ぎると言うものであろう。
そこへ騒ぎを聞き付けた中年に見えるエルフが駆け付けて来た。
「これは何の騒ぎなのじゃっ!」っと、現れると同時に尋ね…
「むぅ…もしや、ダンジョンよりの使者とでも言うのか?」
そう声を漏らす。
どうやら使節団の姿を人垣から出でて視界に収めたことで気付いたようだな。
そして現れた男は使節団の前へと歩みを進めて告げる。
「儂は此処の里長を任されておるガンジと申す。
そなたらは神龍様より御神託を賜ったダンジョンからの使者で相違ないかえ?」
そう尋ねられティアが応じる。
「左様に御座る。
某らは主君より命を承り推参申した。
某は護衛に過ぎぬ故、使節団を率いる者へと後を譲り申す」
そう告げたティアは後ろへと下がり、代わってフィレーユが前へ出る。
「私が使節団を任されておるものですわ。
この度は突然の来訪となりまして申し訳御座いませぬ。
神龍様の下知により会談させて頂きたく罷り越しましたの。
よろしくお願い致しますわ」
にこやかに告げるフィレーユに対して何かを感じたのか微かにたじろぐ里長。
漸く、里との交渉が始まることとなるのだった。




