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絶対血戦区域  作者: 千路文也
1st ♯2 逃げた男の手掛かり
33/221

033


 社長という仕事は一見派手に見えるが、実態は地味そのものだ。役職的には偉いのには違いないが、部長、課長、係長、と一緒で社長自身も会社の一部に過ぎない。皮肉にも正社員を忌み嫌う旺伝は秘書になった事で、そのことを十分に教えられる事となった。


「朝の7時にハプスブルグ研究所に行きましょうね」


 手帳を見ながら、ラストラッシュは平然とした顔で言っていた。旺伝にとっては知らない単語が当たり前のように飛び出してきて訳が分からない。


「ちょい待て。なんだよ、ハプスブルグ研究所って!」


「ああ、申し訳ございません。説明をしていませんでしたね」


 すると、ラストラッシュはホワイトボードを取り出して、黒のマジックペンで図解していた。


「お偉い社長らしい発想だな」


 ラストラッシュが描いている図を見ながら呟く。その図には建物と一緒に謎の生物が描かれていた。しかも、どこの美術家だと突っ込みたくなるような丁寧に。


「この建物がハプスブルグ研究所です」


「おう」


 ホワイトボードに書かれている建物を見ながら頷く。


「それで、建物の横に書かれているのが恢飢かいきです」


「……どういう意味だ?」


「このハプスブルグ研究所では謎の生命体恢飢を捕獲調査しているのですよ」


 ラストラッシュはそう言うのだった。恢飢を研究材料として使っているのだと。


「ちょい待て。あの化け物どもを捕まえてマウスにしてるのか!」


「はい。ゆくゆくは東日本の異形達も調査するつもりですよ」


 東日本の異形生物と恢飢は良く間違われやすいが、生態系的にも全く違う。そもそも恢飢は外から侵入してきた招かれざる客であり、東日本の悪魔は放射能の影響で姿形が変わったものだと推測されている。どちらも確実な証拠がないので断定は出来ないのだが。


「マジかよ。どうりで最近は仕事が多いわけだ。親父のコネとツテだけじゃないらしいな」


「貴方達祓魔師は恢飢退治のスペシャリストですからね。私共が雇っているのですよ。捕獲して連れてきてくださいとね」


「それで、なんでその研究所に行くんだ?」


「新商品の恢飢探査機ルホンモリヤはそこで開発されているのです」


「成程。それを見に行くんだな」


 旺伝は納得しながら、コップに水を入れて、ポケットの中にしまっていた精神安定剤を口に入れた。すると、ラストラッシュは不思議そうな目でこちらを見ている。


「精神安定剤ですか。あまり体に良くなさそうですね」


「仕方ないだろ。こいつがなければ俺の中に悪魔が暴れちまう」


「あの山羊頭の悪魔ですね?」


 ラストラッシュも花火大会の現場にいたので、知っているようだ。旺伝の中に巣食う山羊頭の悪魔の事を。


「忌々しい呪いだぜ。まったく」


「その精神安定剤は特別仕様という訳ですか?」


「東日本から命からがら逃げだした俺を助けてくれた奴が医者でよ。そいつから毎月貰ってるのさ。こいつを」


 そう言うと、旺伝はポケットの中に精神安定剤の瓶をしまった。


「しかし、ポケットの中に入れておくのはいいものなのでしょうか?」


「細かいこと気にするなよ。社長のくせにナンセンスだぞ」


 ナンセンスだというのだ。細かい男は。


「申し訳ございません。陳謝致します」


 ラストラッシュは最敬礼していた。それは深深と。


「分かればいいんだよ。分かれば」


 このやり取りだけを見ていれば、どちらが社長なのか区別がつかない。


「では早速参りましょうか」


「それじゃ、車で行こうぜ」

 

 旺伝は気軽に言ったつもりだが、ラストラッシュの目がギラギラと光っているのがかいまみえた。


「何を仰る。貴方は車の免許を持っているのですか?」


「……バイクの免許ならあるぞ」


 旺伝は財布を取り出して、バイク免許を取り出した。すると、ラストラッシュは眼鏡を持ち上げてまじまじと免許を見つめていた。


「そうですか。ではバイクで行きましょう」


 即決だった。嫌味一つ言わず、自分もバイクで行くのだと口にしていた。


「ちょい待てよ。社長がバイクで研究所の視察って大丈夫なのか?」


 常識的に考えられないと、旺伝は感じていた。しかし、


「平気も平気ですよ。さあ、行きましょう」


 ラストラッシュが先頭で歩き始めたので、旺伝も腑に落ちないままだが、着いて行くことにしたのだった。



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