032
「恢飢探査機が開発中ということは分かった」
「はい」
ラストラッシュは短く返事をしていた。
「それで、俺に向かって殺意の念を飛ばしてた奴は誰だよ」
旺伝は先程からそれが気になって仕方が無かった。
「そうですね。教えて差し上げましょうか?」
「当たり前だ。ここまできて教えてくれないなんてナンセンスにも程があるぞ」
「それでは言いましょう」
「ああ。言ってくれ」
旺伝の目が光る。答えを教えてくれと。
「その正体は日本支部の社長さんです」
日本支部の社長だというのだった。
「日本支部……? ここが本部じゃないのか」
「いいえ。クライノート社の本部は魔法界にありますよ」
その名の如く、魔法が発展している異世界のことだ。この地球上には無数の異世界が存在していると言われているが、その中の一つに入る。
「ってことは、この会社は日本支部の社長さんのものか?」
「ええ。きっと挨拶をしてこないから怒っているのでしょう」
挨拶一つで怒り心頭だと言うのだ。日本支部の社長は。
「参ったな。確かに日本支部の社長と挨拶を交わしていないのはマズい……。ここの社長の許可を取らずにふんぞり返って寝ていたってことだし」
「そういうことですね」
ラストラッシュも「うんうん」と呟きながら首を縦に動かしていた。
「でもそれだけで殺意の念を送り飛ばしてくるか?」
「彼女は根っからの武士ですからね。挨拶には厳しいのでしょう」
ラストラッシュの一言に何故か疑問を感じたのだが、その疑問の正体を知るのにはそう時間はかからなかった。
「彼女……? 日本支部の社長は女だったのか」
「ええ。彼女は私に心酔してしまっています」
「そういう余計なことは言わなくていいんだよ」
旺伝は突っ込みを入れていた。
「ですから、挨拶もしない無礼な貴方が秘書に任命されたことについて殺意を向けているのではありませんか?」
それがラストラッシュの思いついた答えらしい。
「何故だか分からんが、そんな気がしてきたぜ」
旺伝も同じ意見のようだ。後でちゃんと挨拶をしておかないと大変な事になると感じた旺伝は、寝る前に何とか社長を探し出して一言詫びを入れようと決意していた。
「女性の嫉妬は恐ろしいですからね」
「俺も経験がある」
「貴方は女性経験が豊富そうな顔をしています」
「顔で判断するなよ。顔で」
「違うのですか?」
「いや、あってるけど」
恥ずかしくなって、思わず頬を紅くしてしまう。
「まだ17歳なのに」
「そいつは余計だぜ。俺の親父も性欲だけは凄いからな」
性欲のすさまじさは父親譲りだというのだ。
「貴方のお父さんですか」
「名前だけなら知ってるだろう。魔法界に本部を置くような男なら」
「はい。ご存知ですよ」
ここでも、ラストラッシュは頷いていた。
「魔法界に行くと、玖雅って苗字だけで即バレだからな。こっちの世界の方が指を差されなくて体が軽いぜ」
魔法界に玖雅という苗字の人物は五本の指もいない。だからこそ、旺伝の正体はすぐさまにバレてしまう。
「貴方のお父様の名前が出たので一応聞いておきますが、借金はお父様に払って貰うというのは如何でしょうか?」
「ナンセンスだ。親に頼るようじゃ人間的に情けない」
旺伝は親の力を決して頼らないのだと言っていた。
「やはりそうですか。では、御自身の力で頑張ってください」
「分かったよ。それで、何か月働けばいいんだっけか?」
「三か月です」
「ってことは、月給50万円か」
ラストラッシュの秘書の月給は50万円だというのだ。そこらの薬剤師や公立高校の教師よりも多く貰っている。
「ですから、借金を返済した後でも雇用は続けて差し上げますよ」
「前にも断るって言っただろ。正社員なんてナンセンスだ」
1月50万円の仕事をいとも簡単に払いのけた。それだけ、正社員という肩書が嫌なのだ。
「そうですか。では正式に三か月で雇用終了ということで宜しいですか?」
「頼む」
「分かりました」
「で、この三か月俺は何をすればいい?」
「それは随時説明致します。これから忙しくなりますよ」
ラストラッシュはポケットの中から手帳を取り出して、それを旺伝に見せた。すると、手帳には今日の予定が分刻みに書かれたいたのだった。これなら5時に会議というのも納得である。
「やっぱり社長って奴は忙しいんだな」
旺伝はそうだと感じたのだった。




