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第十九話 人鬼戦争Ⅰ

 ルル村、首都ギダムの南にあるヴァンパイアタウンには現在ヴァンパイアが一体もいない。なぜならここのヴァンパイアはすべてギダムの周辺にあるヴァンパイアスポットに向かったからだ。ここのヴァンパイアだけでなく国中のヴァンパイアが首都に向かっている。

 ルコは人間たちにヴァンパイアの存在を認めてもらうためにキールやアキュスをはじめとした街を攻め入ってきた。人間たちはヴァンパイアを無視するわけにはいかなくなった、人間たちはヴァンパイアを人類最大の驚異と考えヴァンパイアに立ち向かうのだ。ある意味ルコの思惑通りになっている。

人間たちもギダムにヴァンパイアが集結しているのは既に気づいている。ギダムにはこれまた国中から保安官やギルドメンバーが集まっていた。


「イリバ先生、こんな事態に居なくてすいませんでした」

ギダムの保安部本部にナナがやってきていた。

「ナナちゃん忙しいところごめんね。スウからでしょ?森は大丈夫だった?」

ナナはスウの町からキショーに戻ろうとしたが大勢の保安官を見かけて話を聞き、ギダムまで来たのだ。

「保安官と一緒だったので大丈夫でした。ただ森はヴァンパイアで寿司詰め状態でした」

「それはそうでしょうね」

一緒にいたロンドが会話に加わってきた。イリバの一声で牢屋から出てきたのだ。

「先生、この人は?保安官には見えませんが・・・」

「ああ、この人は・・・」

「ロンドです。昔キショーにいました」

イリバが紹介する前にロンドが名乗った。イリバがセリフを取られて悔しそうだ。

「私はナナネルズ、ナナでいいわ。同じ年くらいなのに卒業生なの?」

「ゲッホ、ゴッホ!ロンドは飛び級の超頭のいい子だったの。いろいろあったんだけど今回は来てくれたわ」

ここで喋らなければ喋る場所が無くなってしまう気がしたので無理やり喋ることにした。イリバは察しがいいようでちょうど本部には全員集合の金が響き渡った。

「私たちも行かないといけないのかな?」

ナナが窓から外の広場を見ると何千人もの保安官やギルドメンバーが集まっていた。

「行ってもいいけど別に大丈夫だわ。私たちは戦うわけではないし・・・それにあんなむさ苦しいところヤでしょ?」

「そんな理由でいいものなのでしょうかね・・・」

ロンドはやれやれと窓の外を見ていた。


「全員注目!」

総司令官ミクスが大声を上げ、集まっている全員の目線がそちらに向けられる。ミクスの横にはベルーもいた。

「我々保安部とギルドは今まで同じ目的でありながらいがみ合っている関係だった!」

集まっている人々の最後尾にはジョウォルで教鞭をとっているテルトもいた。普段はジョウォルにいる彼女も今回はギダムに出向いたのだ。

「しかし!知っての通り今はいがみ合っている場合ではない!我々人類の驚異であり最大の敵であるヴァンパイアが今まさに首都ギダムを攻め入ろうとしているのだ!」

それはこのギダムに集まっている人すべてが感じているだろう。人々の目がより強いものになった。

「今こそ2つの組織が手を取り来るべきヴァンパイアとの“戦争”に立ち向かわなければいけない!そうこれはヴァンパイア“退治”ではなくヴァンパイアとの“戦争”だ!」

ハルがこの中にいた。一度キキ村まで戻ってきたが首都を守るためにギダムまで来たのだ。ギルドメンバーの中には保安部と共闘することに反論する者もいたがベルーがうまくまとめてくれた。「首都が落ちればお前らの守りたいものは丸裸だ」と・・・

「よいか!今のところ沈黙を守っているヴァンパイアだがいつ攻めてくるか分からない!昼間でも油断するな!」

“昼間でも”とはデミを警戒しているのだろう。

「各自持ち場に戻り警戒しろ!解散!」

「ハッ!」

保安部のみが返事した。ギルドのメンバーがあたふたしたのはしょうがない。


 窓から見ていたロンドはため息をついた。

「最後の敬礼なんですか・・・バラバラじゃないですか・・・」

「まあしょうがないわねぇ・・・勝てるかしら?」

「いっちゃっていいのですか・・・」

ナナがイリバにツッコミを入れた。専門家がそんなことをいうのはいろいろ問題があるような気がする。

「だってぇ外のヴァンパイアは推定10万よ。加えてこちらはせいぜい1万・・・」

「そんなに差があるのですか!?」

ナナは目を見開いた。10倍の差があるのだ。

「しかし勝てる見込みはあるでしょう。チームワークがよければの話ですが・・・」

「ルコだね・・・」

ロンドの言う勝つ見込みはすぐにわかった。

「例のヴァンパイアクイーン・・・ヴァンパイアの大群はおそらく彼女の指示で動くでしょう。チームワークと数は上でしょうが彼女をどうにかできれば勝てます」

「そうね、知能はこちらが上でしょうしそれにこっちには新しい武器もある」

イリバがわざとニヤリと悪人ずらした。

「新しい武器?」

「テルトがその武器を使った訓練をみんなにしていたわ、突貫工事だけど問題ないでしょう。一番の問題は2つの組織を無理やり溶接してくっつけて外れてしまわないかどうか」

「は、はあ・・・」




 デミはギダムの南からギダムに向かっていた。名も無き村からルル村まではルコと共にいたがルル村に着くとルコはギダムに向かっていった。名も無き村でルコから過去のことを聞いてからはお互いに喋らなかった。ルル村に着くなりルコは北の方に向かっていったが何も言わなくてもデミはルコがギダムを攻めに行くのはわかっていた。

「ヴァンパイア、ヴァンパイア、ヴァンパイア・・・」

デミはミシル森の中、ヴァンパイアをかき分けて歩いていた。森の中を切り開いて作った道はギダムを守るためにやってくる保安官やギルドメンバーが通る、うっかりその道を歩いていたデミは通りかかった保安官に殺されそうになった。そのようなことがあったので今は道のない森のど真ん中を歩いている。森の中は祭り中の商店街の如くヴァンパイアで混み合っている。おそらくルコが帰ってきた今夜にギダムを攻め入ってくるだろう。

「はぁ、はぁ・・・・・・・ヴァンパイア・・・」

ヴァンパイア以外の単語が浮かばなくなってきた。森の木々よりヴァンパイアの方が視界に入ってくる。

「ふぅ、やっと見えた・・・首都ギダム・・・」

新鮮な風がデミの体を抜けてきた。ここはミシル森とクナ谷のちょうどあいだに位置する高台、ギダムの周辺が見渡せるここはこれからおこる戦争を見物するには一番の場所だ。ルコがここに居るのかと思ったが当てが外れた。最もルコにあったところでどうすればいいのかわからない。

デミはこの戦争にどちらに加担すればいいのかわからなかった。“友達”といったルコはきっとデミを迎え入れてくれるであろう。しかしデミは今も人間として生きたいと思っている、この戦争で人間に付けば人々は迎え入れていくれるのか?デミは元の金髪が全て黒髪になり、肌もすべてが薄い青色になっている。今や完全にヴァンパイアの姿となっているデミを人間に迎え入れてくれるのか自信がなかった。




「作戦会議といってもねぇ・・・」

イリバをはじめとした専門家3人は本部の一室で作戦を練ることになったのだが・・・

「先生の言いたいことはわかります。今回相手をするのはヴァンパイアではない・・・人間の指示を受けて行動している以上はヴァンパイアも人間です。つまり僕たちがやっているのは無意味なことで・・・」

発言したロンドはもちろんイリバとナナもこの会議は無意味だと思った。彼らの研究しているのはあくまでもヴァンパイアでありヴァンパイアの行動予測もあくまでヴァンパイアの生体や本能をもとにして導き出されている。そこにルコという人類の手が加わっているのでヴァンパイアの行動に生体やら本能やらは関係なくなる。つまりこの戦争はヴァンパイアの生体から予測するのではなく実際の戦争で用いられる戦術論で予測するのが正しい。

「でもぉミクスは私たちに期待しているしぃ・・・」

この会議でナナだけが理解していないものがあった、それはロンドが抱えている状況だ。ナナだけがロンドの置かれている状況に気がついていない。




 事の発端はアレバの村で起こった。リーダーのバロックにカノン、ボレロそしてロンド・・・アレバの荒野で人知れずに4人はヴァンパイアを倒していた。デミがその4人と出会った時にデミと4人は盗賊と思われて捉えられてしまう。そのうちバロック以外は逃げ出すことに成功したがバロックは仲間を逃がすために残った。残された仲間はリーダーを救出する為に再び村に向かった、デミは仲間の間に割り込むことは良くないと思いそこから去っていった。3人は村に向かっていったが村の広場には血の海ができていた、その中心はバロックだった。バロックは既に殺されていた、間に合わなかった。

 それから残された3人はアレバを去ることにした。リーダーを殺したこの村を救う意味なんて無かった。直後にアレバの村がヴァンパイアタウンになったようだが3人にはどうでもよかった。ロンドとボレロは別の場所でヴァンパイアを倒すことにしたがカノンだけはそれに反対した、カノンは父親替わりのバロックを殺した人間に対して敵意を出していた。カノンの実の両親はヴァンパイアによって殺されたのだがその悲しみ以上にバロックを殺された怒りの方が強かったのだ。カノンはロンドとボレロと一緒に行かず別れてしまったので今どこにいるかわからない。

 バロックが殺されカノンが抜け、残りの2人はヴァンパイアを倒しながら旅を続けていた。その旅の途中で2人は保安官に捉えられてしまった。殺し屋だったボレロは今も手配書が出ており見つかれば拘束されるのは当然のことだった。

 イリバは元教え子であるロンドとその仲間のボレロを助けるためにここに引っ張り出してきた。ロンドはこの戦争で活躍しなければボレロもろとも罪を負うことになってしまう。意地でもロンドは実績を残さなければならなかった。




「とにかくヴァンパイアであることには変わりありません。攻めてくるとしたら夜です」

ロンドは当たり前のことを発言した。冷静を装っているが内心焦っている。

「天才と聞いたけど随分当たり前なことを言うのね・・・」

「ロンドはブランクがあるからねぇ」

イリバはロンドをフォローしておいた。

「これも当然ですが攻め入ってきた場合は守りに集中すればいいです。一晩耐えればヴァンパイアは退却する、少しずつですが数が減っていくでしょう」

「籠城作戦?食料が持つか心配ね・・・それにキールの時のように何かしらの策を考えている可能性が・・・」

ナナはキールやアキュスの時のようにヴァンパイアが何かしらの策を練っているのではないかと予想していた。

「ナナちゃん、それに関しては心配ないわ」

「どうしてそう言えるのですか?」

「キールやアキュスの時とは違ってこちら側の準備が満タンよ。それに森や谷からここまで1キロほど離れているからヴァンパイアが来てもすぐに見つけられる」

キールの時はサルのヴァンパイアを中に浸入させて扉のすぐ外にヴァンパイアを待機させていた。アキュスの時も船にヴァンパイアを大量に乗せて来た。この2つに共通するのは大量のヴァンパイアを一気に投入してくるところだ。おそらく今回も一気に攻め入るような戦法をかけてくることが予想される。何かしらの策があったとしても実行するときは本隊が臨戦状態に入るために動きがあるだろう、この超警戒状態ではヴァンパイアの些細な変化でも見つけることができるしこちらも体制を整えることができる。

「本当に大丈夫ですか?」

「聞いたでしょ?新たなヴァンパイアに対抗する武器を・・・」

「・・・はい」

「先生の“一度に大量に攻めてくる”戦法が今回も使われるなら相手の出方がわかります」

しばらく考え込んでいたロンドがひとつの仮説を立てた。

「仮に少数のヴァンパイアが初めに来たならばそれは囮か工作員です」

「あら、成果物ができたじゃない」

イリバはパチパチと小さな拍手を送った。




ゴーン・・・ゴーン・・・

夕暮れのあとすぐにギダムにヴァンパイアの襲来を知らせる鐘が鳴り響いた。しかし兵たちに出撃の命令は出されていない、ギダムに接近してきたヴァンパイアが少数であったためだ。


「俺が一番槍か、使うのは太刀だが・・・」

ブレイは馬でヴァンパイアの元まで向かっていた。やがて3体のヴァンパイアが見えてくる。ブレイは愛用の太刀を抜いて構えた。

「はぁ!」

馬上からすれ違い際に1体の首を正確に切り裂いた。そのまま馬を飛び降りてヴァンパイアの胸を突き刺す。怯んだところをすかさず両足を切断した。残る1体も余裕の表情で首をはねたヴァンパイアに反撃の隙を与えさせない華麗な斬撃。

「ぬるいな・・・」


 別の場所ではテルトが兵たちに指示をしていた。合図一つで突撃できる体制だ。

「さすがイリバ先輩とその教え子ですね・・・」

イリバの目線の先ではヴァンパイアのうめき声がいくつも聞こえてきた。「少数のヴァンパイアが来たらそれは囮か工作員、最低限の人員だけで対処し敵本体の動きに十分気をつけること」イリバからの助言だ。

「テルト隊長!正面のヴァンパイアが動き始めました!大群です!」

「いよいよですね・・・総員!迎え撃ちなさい!」

テルトが右手を上げた。

「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ヴァンパイアの大群を迎え撃つべく兵たちが進軍しはじめた。




 デミは相変わらず高台の上で高みの見物を続けていた。

「いよいよ始まるんだ・・・」

高台の下でヴァンパイアの大群と人間の兵たちが動き始めるのが見えた。2つの大群はぶつかり始める・・・


パァン!パパァン!


「・・・・!」

空気の弾けるような音がいくつも聞こえてきた。

ここからではよく見えないが音だけは聞こえてくる。何なんだあれは!

デミは高みの見物をやめた、ルコは!?ルコは!?ルコがいるとしたらあの大群の中央!

デミはまだ待機しているヴァンパイアたちをを掻き分けて駆け出した。


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