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第十四話 水上要塞アキュスⅠ

コンコン・・・

首都ギダムの保安部のある扉がたたかれた。

「いいぞ、入れ」

「失礼します。ミクス指令、たった今知らせが入りました」

「何だ?」

「ギルドの本拠地であるキールですが・・・3日ほど前にヴァンパイアによって壊滅したようです」

「キールが?そんなバカな・・・」

ミクスは部下の顔を凝視した。

「こちらとしても情報が錯綜していまして・・・ただ周辺の町ではキールが落ちたと噂になっています。実際ギルドの奴らもキキ村に集結しているようですし・・・」

「保安部に楯突く奴らが消えたのはいいがキールがやられたとするとヴァンパイアは巨大都市をも壊滅させることができるとの証明になる・・・」

「安全と思われたここも警戒が必要です。最近見られるヴァンパイアの集団行動も気になりますし・・・」

この数カ月ヴァンパイアが群れをなして襲う事態が増えている。行動にも統率がとれているように見えるため保安部やキショーではこの集団化を一番の問題としている。

「まあともかく、2つにわかれてしまった対ヴァンパイア組織を1つにする絶好の機会だ。ランスに首都召喚命令をだせ。それと3番隊をキールに調査団を派遣する。頼んだぞ」

「かしこまりました」

部下が出て行って総指令室は一人になる。ミクス・バーン・・・彼は保安部のトップである総司令官だ。




「デミ、久しぶりだな!」

港に着いたデミの肩をチュートは叩いた。

デミは大きく歓迎されていた。ハルも驚きである。

「大した歓迎ね」

ナナはつまらなさそうにあくびをすると降りた船に再び船に乗り始めた。

「あれ?ナナは帰るの?」

デミは思わず振り返る。ここまで来た意味がないじゃないか。

「私はアキュスに用事はないしそれにママに呼ばれているの。スウの町で落ち合いましょ」

船上で控えめに手を振っていた。少し機嫌が悪いようだ。賑やかなのが苦手なのだろうか?




「なるほどアキュスか、入港証を得るために来たんだな?」

プロの町の保安官詰所は相変わらず料理をしない感であふれていた。チュートはデミ達を詰所に招くと一人奥の方に入って行った。

「飲み物はコーヒーとグリーンティーどっちがいいかい?」

「グリーンティー?緑のお茶ですか?」

ハルが首をかしげた。グリーンティーは以前飲んだあの緑紅茶のことだろう。

「私も飲んだけどハルにはお勧めよ。あ、私は水でいいです」

「その時点でいやな予感しかしないけど・・・はぁ、グリーンティーをお願いします」

好奇心もありハルはグリーンティーを頼んだ。もう横でデミがニヤニヤしている。

「アキュスにいくなら後で町長のところへ行かないとな。まあ話は通しておくさ」

水と2つの緑紅茶をトレーに載せてチュートが戻ってきた。

「ありがとうございます。ところでプロの保安官は今一人なのですか?」

「ああ、保安官不足だからな、期待の新人もこの間一斉に脱走したというし・・・」

ハルはチュートの目をそらした。ティーカップに口を付ける。

「ブッは!」

案の定吹き出した。

「あっはっはっは!」

横ではデミも別の意味で吹き出していた。

「やっぱりこのお茶は好き嫌いが激しいようだな・・・」

チュートだけは平然としていた。

「それにしてもデミ、よく無事だったな。“へなちょこなヴァンパイアを捉えよ”と知らせを聞いたときは心配したぞ」

「まぁいろいろありまして・・・今はギルドに世話になっています」

デミはコップの水に口をつけた。

「しかしギルドも壊滅したと連絡が来たぞ・・・なるほど、それでアキュスか・・・」

チュートは一人で納得していた。

「たしかあそこにはギルド所属の剣豪がいたな、名前は・・・」

「ブレイ・クリティです」

名前の思い浮かばないチュートの代わりにハルが答えた。

「そうだった、ギルドも大変だな」

「最も存続できるかが心配ですが・・・」

ハルは頭を抱えていた。




「あんたと本当に直接会うのは初めてだな」

入港管理所でハリスが忙しそうにしていた。

「はじめまして町長」

「一応あんたが気絶している時に会ったのだがまあいい、アキュス行きだがヴァンパイアちゃんは無理だ」

ハルに入港証を渡すとデミに向かっていった。

「そんなに厳しいのですか?」

ハルがそれを受け取る。

「ただでさえ指名手配状態なのだぞ?入れてもらえるわけないじゃないか」

確かにその通りである、まぁしょうがない。

「まぁアキュスに用があるのは僕だけなので問題ないです」

「しょうがない、私は船で待ってようかな・・・そのままナナが待っているスウに行きたいし」

「スウ、西の港町か。まああそこは田舎だし誤魔化せるだろ、荷物か何かに偽装して・・・」

「また箱の中か・・・」

デミはガックリと何もしていないのに疲れた顔をした。

「船はここの町から出すし大丈夫だ。そのままスウまで送っていく」

ハリスはデミに一枚の紙を渡した。そこには“生もの”と書かれていた。

「私は生ものか・・・」




翌朝、デミは眠くなる前に出発することにした。船上で眠ることができる。

「よろしくお願いします」

ハルは船長さんに挨拶した。

「ロミだ、アキュスに送っていくよ」

「よいしょっと・・・ロミさん、これもお願いします」

デミは後で自分が入る木箱を船に積んだ。何も入っていないのだが意外に重い。

木箱を積み終わるといよいよアキュスに向けて出港だ。


「ロミさん、少し気になったのですが・・・」

出港してまもなくハルが切り出した。まだプロの港が見えている。

「どうした?忘れ物か?」

「おっちょこちょいね・・・」

デミがハルにジト目を向けていた。

「いや、違うから。プロの港ですけど船が少なくないですか?」

「よく気づいたな・・・実を言うとおととい大型船5隻が行方不明になったんだ」

「遭難ですか?」

「いや、無人の船だ。天気は良かったし流されたことは無いと思うが・・・」

天気が良かったら波も安定している。普段はしっかりロープに固定されているので流されるようなことはない。

「そうなると盗難?」

デミは残された可能性を考えてみた。

「そうでないことを祈るよ。盗まれたら海賊とかに使われてしまう」

「このへんで海賊は聞いたことがないですけどね」

結局現状船が消えた理由はわからないようだ。




船の上でご飯をを食べて2~3時間、既にデミは船の上ですやすや眠っていた。

「見えてきた、アキュスだ」

ロミが船の前方を指した、その先にはまるで巨大な鉄の卵のような島が海に沈んでいる。

「もう着きましたか、てっきり夕方までかかると思っていましたが」

“前回”とは違い船の上でゆっくりできるだろうと思っていたハルは少し残念がった。

「まあ、こんなもんだ」

「“水上要塞”との異名は聞いたことありますがその名のとおりですね」

近づくにつれ卵の中程に規則正しく点があるのがわかった。よく見るとそれはひとつひとつが大砲だった。

「昔の戦争では実際に要塞だったからな、入港チェックが厳しいのもその流れだし」

「デミを隠したほうがいいですか?」

ハルはすやすや眠るデミの方を見た。本当に気持ちよさそうに寝ている。

「チェックが厳しいといってもほぼ形だけだ。心配するな、船の中を見られることはない」

ロミはガッハッハと笑っていた。




船を降りてハルが入港証を見せると本当に簡単にアキュスに入ることができた。簡単なボディチェックを受けたのが気になるが特に船の中を検査されることもなくハルは目当ての人であるブレイ・クリティのもとに向かった。

ブレイの屋敷はすぐにわかった。西洋の建物が多い中、ひとつだけ東洋風の建物があったからだ。

「ごめんくださーい」

ハルは門から声をかけてみた。しばらくしてブレイらしき男が現れた。細身ながらその引き締まった筋肉や目つきは只者ではない雰囲気を発していた。

「ギルドのものか?」

「はい、ハルと申します」

「はあ・・・まあいい、中には入れ」

ため息が気になったがとりあえずハルは屋敷の中に招かれた。


「なるほど、キールが落ちたか・・・」

ブレイはハルからキール陥落とランスが亡くなったことを伝えた。

「ランスさんは生前、ブレイを次期リーダーに指名すると言っていました」

ブレイは暫く口を閉ざしていた。表情が動かないところを見ると悩んではいないようだった。むしろ自分の考えが決まっているようにも見えた。

「ランスの奴、私が断ると知って指名したな・・・悪いがその指名には答えることができない。他をあたってくれ」

「しかしそれではわざわざアキュスに来た意味がありません」

このままではタダの無駄足になってしまう。ハルとしては何らかの収穫をしてギルドに貢献したかった。

「ハルといったか、お前はギルドに入ってどれほど立つ?」

「まだひと月たっていません」

ハルは正直に答えておいた。少し見栄を張って1年とか言いたかったがすぐに見破られてしまいそうだったのでやめた。

「なるほど、私のことは何も知らないということか」


ブレイは東方の国の出身だ。ブレイ・クリティはこの国に来た時に付けた名前で実際の名前ではない。ブレイが成人になる時に祖国で移民と先住民による内戦が始まった。ブレイは先住民側の志願兵としてこの内戦に加わるとその才能が開花した。その剣で次々に敵兵を倒していったのだ。やがてブレイは先住民側の英雄として称えられるようになった。しかしブレイの活躍虚しく先住民側は敗戦してしまう。ブレイは移民側から追われるようになりやがてこの国に名前を変えて逃れてきた。

ランスはブレイが東方の英雄であることをすぐに見抜いて彼をギルドに招いた。東方の国の英雄がギルドにいることはギルドの存在をアピールすることにつながるからだ。ブレイは自分の腕ではなくタダの客寄せパンダに使われる事を嫌った。結果島であるアキュスにこもってヴァンパイアに関わらないことをアピールしている。泳げないヴァンパイアがアキュスに来ることがないからだ。

ちなみにブレイはギルドに入るなどと言ったことはない。世間的にはランスのせいでギルドに所属していると知られているようだが・・・


「え?じゃあギルドのメンバーじゃないのですか?」

「決まっているだろう。だからリーダーになるのを断るといったんだ」

そういえばランスの手紙には“ブレイが無理ならベルーがリーダー”みたいなことが書いてあった。なるほど、そういうことか。




時刻は既に日没を迎えていた。船の上で眠っていたデミも既にお目覚めの時間だ。

「ハル遅いな~」

正直デミは起きたことを後悔していた。待つとはとても退屈なものだ。

「まあ、どっちにしろ出港は明日だしな。今ハルが帰ってきても意味はないぞ」

「ふへえ・・・」

ロミの言葉は重りとなってデミに乗せられた。夜は人が眠る時間帯、デミは起きる時間帯、デミは一人ぼっちで夜を過ごす羽目になる。

「ん?こんな時間に船か?」

「あ、ホントだ。遅いですね」

沖合から5隻の大型船がやってきた。あれ?5隻の大型船?どこかでそんな話を聞いたような気がする。

「なんか大勢乗っていますね・・・」

夜目の効くデミは船に溢れんばかりに人が乗っていることに気がついた。明らかに異常だ。夜に人を大勢に乗せてアキュスにやってくる。普通に考えておかしい。

「違う、あれ人じゃない・・・」

船が近づくに連れてデミの顔が凍りついていった。

「人じゃない?」

暗くてまだ影にしか見えていないロミがデミの顔を覗き込んだ。

「あれ・・・ヴァンパイアだ・・・」


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