第十一話 ヴァンパイアタウンの探索
キールの街、国に頼ることなくヴァンパイアを倒す私設組織”ギルド”の本拠地である。昔はそれほど大きな街ではなかったがヴァンパイアの出現以降ランス・ボウがキールにてギルドを結成、それ以降キールはギルド本拠地としてみるみる発展していき今では一大都市である。
そのキールの入口にデミはいた。もう太陽は登っており入口が開いていてもおかしくはないのだが入口はまだ閉ざされたままである。
「中とは連絡が取れないのかい!」
ギルドのメンバーの女性が声を上げる、この女性は本来モニの村のギルドメンバーであるベルーだ。今から数分前にデミがキールの入口についた頃には既に結構な数のギルドメンバーが入口を固めていた。なんでもキール内部との連絡が取れなくなってしまったのだという、そのため周囲の村のメンバーや他の町に出向いていたメンバーがこうして集まっているのだ。
「デミ、あんたはどう思う?」
ベルーはデミに声をかけてきた。デミのことは既にモニの村から知らせが来ているのでスムーズにことが進んだ。
「私に聞くということはヴァンパイアに関することですか?」
「・・・なんでもない」
キールの街がヴァンパイアによってやられたとベルーは言いたいのだろうか。キールの街はジョウォル以上に巨大でしかもギルドの本拠地である、ギルドメンバーも大勢いるこの街がそう簡単にやられるとは思えない。ナーカの村ですら壊滅するのに10程のヴァンパイアが必要だった。キールを壊滅させるには一体どれほどのヴァンパイアが必要だろうか。
しばらく経つと馬に乗った一団がやってきた、彼らもキールの街の調査にやってきたのだろう。デミはそのうちの一人に見覚えがあった。
「ハル!」
その一人は紛れもなくハルだった。数日ぶりに会う、そして会いたかった人物にデミは明るくなる、キールの中にいるのではないか心配だった。
「デミ・・・よかった、無事だったんだね・・・」
ハルは馬から飛び降りるとゆっくりデミのもとに向かう、目は少し潤んでいた。
「“無事だった”じゃないよ!ハルのおかげでアッツいトンネルを通る羽目になったりサルに追っかけ回されたり盗賊に間違われたりいろいろ大変だったのだから!」
小さくなっているハルに前のめりになりながら言いたいことを言い終えるとデミの視界がぼやけてきた、涙が出てしまったようだ。
ハルはジョウォルの学校内で取り押さえられたがデミの逃走後にハルが予想できなかったことが起こった、学校の仲間である保安官候補生たちが応援に来たのである。ルームメイトのサツはデミの救出作戦に参加する予定がなかったのだが緊急事態を知らせる高い鐘の音が鳴ると駆け出した。ハルがしくじったと感じて思わず助けに行ったのである、そして振り返ってみれば候補生全員がサツの後ろを走っていた。候補生の中では既にデミがキショーに送るのをハルが阻止する作戦があると伝わっていたのだ。仲間のピンチに自分のことを忘れて仲間たちはハルに向かった。
まだまだ未熟な候補生であったが数では有利だった、ハルを開放すると学校内の馬を使いモニの村まで走った。ジョウォルの街は大混乱だったという。
ハル達は万が一デミがとらわれてしまった時を想定してキショーとの中継地点であるモニの村に向かう、デミが通る可能性がある上にモニはギルドが守る村である、運が良かったらギルドに身柄を守ってもらえると思った。
モニのギルドメンバーであるシキ、ウノ、ベルーは彼らをギルドに迎える事に決め本拠地であるキールにベルーの同伴付きで向かわせた。シキとウノはデミを発見次第キールに向かわせる役目を負った。
候補生がキールにたどり着くとすんなりギルドに入れてもらえた。ギルドのリーダーであるランスは彼らの目が良かったという、晴れてギルドの仲間入りを果たした候補生はギルドの守る各町に散っていった。ハルはキールのすぐ北にあるキキの村に派遣されたという。
またデミについては候補生やシキからの手紙によりデミを保護対象と決めた。ヴァンパイアを狩るためにデミを活用するとのことである。しかしデミを研究後に殺害すべきと考えている保安部との摩擦を考えて正式にギルドに迎えずにあくまで外部協力者とする予定だ。しかしあくまでも予定である、リーダーであるランスとの連絡が取れないので現状どうすることもできない。
「そういえばデミ、雰囲気変わった?」
「雰囲気?どういうこと?」
デミはハルから鏡の盾を借りると自分の姿を見た。確かに以前自分の姿を見たときよりもより見た目が変わっている。赤と青のオッドアイだった目は両方とも赤色になり髪も少しあった金髪がさらに少なくなっていた。改めて自分の体を見ると青い斑点が薄まって水色になっているがその広さは増えている。最近自分の体を見る機会がなかったので気づかなかったがヴァンパイアぽい部分が増えていた。
デミが鏡の盾をハルに返すと横ではキールに入る準備を始めていた。機械仕掛けの扉は内側しか開けられないように見えるが不測の事態に備えて外からも開けられるようになっていたらしい、メンバーが地面に隠されたマンホールのようなものを開いてレバーをひねるとゆっくりと扉が開き始めた。
扉が開かれるのと同時に皆が構える。入口付近の影などにヴァンパイアが複数いたのだ。
「本当に落ちちまったのかい・・・」
ベルーを含めてギルドのメンバーは絶望の表情になった。キールほどの街が本当にヴァンパイアによって壊滅されたのである。
「とにかく入口のヴァンパイアを焼くぞ」
ベルーは指揮をとり始めた。ちょっとしたカリスマのあるベルーは即席チームの事実上のリーダーとなっている。ベルーの合図にギルドの面々は鏡の盾を使いヴァンパイアを焼き始める。昼間にヴァンパイアを倒す必要があるときはヴァンパイアを日光の当たる場所に誘導するか遠くから鏡の盾で焼くのが一般的だ、太陽剣を用いるよりも倒すのに時間がかかるが安全に倒すことができる。30分ほど経って入口の影に陣取っていたヴァンパイアを焼き尽くすことができた。
「いいかい?避けられるヴァンパイアは避けるんだよ!どうせ奴らは寝ているし起きていても日向にはこない!」
入口だけでも10程のヴァンパイアがいたほどである、広いキールの街にどれだけのヴァンパイアがいるのかは予想がついた。現在は朝だがそれでも大量のヴァンパイアを倒すには危険が伴う。メンバーはベルーの言葉に頷いた。
「調べられることは2つ、まずは奴らの侵入ルートを探ること。もう一つは期待しないけど生存者や仲間たちの記録を探すこと。夕暮れに集合して馬を走らせてキキの村に向かう、馬で1時間位の距離だから日没までには十分間に合う。それではいいね、解散!」
ベルーの掛け声にハルは大きな返事をしたが返事をしたのはハル一人だけだった。周りのメンバーがクスクスと笑いながら適当に2~3人のチームで散っていく。
「はぁ、ハルだっけ?ここは保安部じゃないんだよ分かるかい?」
ベルーがハルに近づくと頭をパフパフたたく、ハルの顔は長く風呂に入っていたかのように真っ赤になっていた。
「あたしとハルとデミ、このメンバーでうろつくよ」
ベルー先に進む、ハルとデミは一瞬顔を合わせるとベルーについていった。
一言でいえばキールの街はヴァンパイアだらけであった。住居内や倉などの中はヴァンパイアが何匹もかたまっていた。ヴァンパイアの多くは眠っていたがまだ朝だったためか一部起きているヴァンパイアもいる。しかしヴァンパイアといえども日向には出ることができない、通りすぎるデミ達に向かってうなり声を上げるしかなかった。
「ヴァンパイアだらけですね。ここまで多いと正確な数が分からないです」
周りを見ながら歩くデミが思わず口にした。キールに入り込んだヴァンパイアは軽く1000はいるだろう。道には日が昇るまでに隠れきれなかったヴァンパイアの炭が至る所にあった。
「キールと連絡が取れないと聞いたとき、あたしはモニに帰ったばっかりだったよ。あんたが既にキールに向かったと聞いて初めはあんたを疑ったのだけど・・・」
その言葉にハルはベルーを睨みつけていた。
「私はヴァンパイアと意思疎通できませんよ」
「今のところはね」
ベルーはデミに顔を向けずに答えた。
キールの壁の一角にはギルドメンバーたちが集まっていた。そこにデミ達も加わる。
「ベルーさん!ちょうどいいところに来ました、こっちに来てください!」
メンバーの一人がベルーを呼び掛けた。
「これは・・・」
壁の近くには人が通れるほどの大きさの穴が1つあいていた。デミはそれを見るとアレバの荒野を思い出す。バロックたちは無事だろうか・・・
「ヴァンパイアが壁越しに穴をほってそこから侵入した・・・デミ、あんた穴を掘ることはできるかい?」
「デミを疑うのですか!」
ベルーの問いかけにハルが反論する。
「そうじゃない、ヴァンパイアがどれだけ穴を掘れるか知りたいだけだ!あんたは考えすぎだ!」
デミは2人をなだめると早速穴を掘ってみることにした。自分でも驚くくらいに高速で掘ることができた。数時間あれば壁をくぐるような穴を掘ることができるだろう、トンネルを掘るまで試してみたかったが「もうわかったからいい」とベルーに止められた。
何はともわれヴァンパイアの侵入方法は地面にトンネルを掘って侵入したと考えていいだろう。皆が納得する中ベルーは一人考え込んでいた。何か引っかかるところがあったのだ。
第一にヴァンパイアが1000を超える量で一斉にキールに押し寄せたことである。アレバの荒野やキキの村の途中にある洞窟など周辺にはヴァンパイアスポットがいくつかあるためヴァンパイアが集団で押し寄せることは考えられる。しかしいくらなんでも数が多すぎる。
次に侵入のために穴を掘ったことである。ギルド本拠地のキールは壁も扉も頑丈に作られている。扉は機械仕掛けでやっと動くようになっており人の力では到底開けられない。ヴァンパイア達が一斉に体当たりしても壊れることはないだろう、そのためにヴァンパイアは穴を掘って侵入したのだろうがヴァンパイアにそれほどの知恵があるのだろうか?そしてそこまでしてキールに入る必要があったのだろうか。まるでヴァンパイアが仲間を増やすためではなくキールをつぶすために大掛かりな計画を立てて行動したことになる。穴の場所も問題で穴の掘られた場所は畑であり地面は柔らかい、壁の周囲の他の部分は舗装されておりヴァンパイアといえども掘れないし掘れたとしても時間がかかってしまう。畑の場所を狙って掘ったとしか思えなかった。
最後に穴の数である。穴はヴァンパイア一体ずつなら通れるほどの大きさだがヴァンパイアが侵入することができても一つの穴では少しずつしか入ることができない。ギルドのメンバーはヴァンパイアを抑えつつ何らかの方法で穴をふさぐことができたはずである。
ベルーはこの3つの疑問点を保留にしておくことにした。結論を急いでは真実にたどり着けない。
散らばっていたメンバーは1つに固まってギルドの本部を目指した。何か情報が残っているはずである。敷地内に入り鳥小屋を見ると鳥小屋は破壊されていた、周りの町にヴァンパイア襲来の知らせが届かなかったのはそのせいであろう。壊れた鳥小屋の中にはハトは一匹もいなかった。
「ふわぁぁ」
デミはよたよた歩きながら大あくびをした。昨日アレバの村から脱出するために体を動かしそのまま一睡もせずにここまで来たのだ、デミの就寝時間はとっくに過ぎている。
「デミ、眠ったらどうだい」
ハルは眠そうなデミを見ると心配そうに声をかけた。デミは手を振って大丈夫と答えたがベルーは「ヴァンパイアはもう寝る時間だ」とデミを休ませることにした。寝る場所には本部の守衛室を選んだ、狭い小屋だったが椅子が一つあり若干だが日よけにもなる。デミは椅子に座ると目をつぶった。
ギルドの本部にある建物の内部は窓から中を覗いてみるとヴァンパイアがうじゃうじゃいた、大きな建物なのでヴァンパイアがたくさんいるのもうなずける。その中ベルーが入口前に何かがあることに気がついた。手紙がある、四隅には小石が置いてあり風で飛ばされないようになっていた。誰かが意図的にここに置いたのだろう。
ベルーはそれを手に取るとみんなに聞こえるように読み始める。
“日没から約一時間後に突如サルのヴァンパイアが入口に現れる、侵入経路は不明。入口周辺のメンバーはサルを追うがそのサルは囮だったようだ、別のサルが入口のレバーを押した。開かれた扉の外では数え切れないほどのヴァンパイアが待機していたらしくまるで大波のように押し寄せてきた。現在ヴァンパイアの侵入をこれ以上増やさないために入口を封鎖する作戦を行っているが状況は厳しい。今後のために一時的なギルド本部をキキに置く、次期リーダーはブレイ、不可ならベルーとする。-ランス・ボウ-”
この手紙はランスがおいたものだろう、読み終えたあとは皆黙り込んでいた。ランスは恐らく生きていない、ギルドはリーダー不在になってしまった。ランスはリーダーではあったがギルドの発足者との理由でリーダーになったため腕は並み程度だ。むしろ年齢が40を超えているため劣ってきているといってもいい。
この手紙でわかったことがある。ヴァンパイアの侵入ルートはトンネルではなく単純に入口だった。トンネルを使って入ってきたのはサルのヴァンパイアが2体だけ、サルがギルドメンバーの気を引きつつ入口を開放、待ち構えていたヴァンパイアが押し寄せる寸法だ。この戦法はモニの村でも未遂であったが使われたという、アレンジがあるとはいえ同じ戦法にやられるのは反省ものだ。
「これだけがわかっただけでも収穫だ、本部の中は危ないし後は壁と入口を重点的に調べて退散するよ!」
ベルーを先頭にギルドのメンバーは本部から撤収した、デミがまだ守衛室で眠っていたが彼女はヴァンパイアに襲われることはない。帰るときに起こしてあげればいいだろう。ギルドメンバーは壁と入口を重点的に操作し始めた、本部内をもっと捜索したいが中がヴァンパイアだらけでは危険が伴う。
「むう、むにゃう?」
デミは少しだけ目が覚めた。寝ごこちいいとは言えない場所なので熟睡とは行かないようだ。半開きの目で窓から外を見ると何やら小さい人影が走っていくのが見えた。それを見たデミはすっかり目が覚めてしまいその人影を追ってみることにした。
さきほど見えたのはヴァンパイアではない、昼間ヴァンパイアが日のあたる道を好んで走るわけない。生存者の可能性があるし早急に見つけたほうがいいだろう。
デミから数メートル先の道で先ほどの影らしきものが横切るのが見えた、女の子のようだ。生きている人間がいる。デミはその女の子が向かった場所に走った。
子供の足はそれほど速くないためデミすぐに追いつくことができた。
「まって!」
デミの言葉に子供は振り返る。10才くらいの女の子は体の大きさに不釣合いな黒いクロークを羽織っていてこれまた大きなリボンで首元を止めていた。小さな冠をかぶった顔はこちらを向いているが本当にデミを見ているのかはわからない、おしりの下まで伸びた長い髪は結んでおらずまるで氷柱のようにすべて地面を指していた。一言で言うなら異質な感じのする子だ。
「怖がらないで、もう大丈夫だから。お名前は?」
デミは女の子に近づくとしゃがんで名前を聞いてみた。女の子は1ミリも表情を変えずに無言のままだ。少しだけデミが焦る。
「私はデミ、あなたのお名前は?」
デミ名乗るともう一度名前を聞いてみた。女の子は少しだけ顔をデミに向けるとついに口を開く。
「るこ・・・ボクはるこ・・・」
外国人のようなカタコトの言葉でその女の子は静かに喋った。幼い声なのに氷のような響きだ。子供相手に思わずたじろいでしまった。
「ルコちゃんだね。もう大丈夫だよ、ギルドの人が来ているから一緒に行こう?」
デミはルコの目を必死で見ながら答えるがルコは表情を変えなかった。
「ルコ大丈夫?私が怖い?」
自分の見た目でルコが怖がっているのかと思いデミは聞いてみるがルコは表情も口も動かないままだった。もう一度デミが話しかけようとしたときだ。
「ボクのコトはダイジョウブ、キミは?」
その言葉にデミは呆気にとられた。自分のことは大丈夫かということか?デミがそんなことを考えているうちにルコは歯をカチリと鳴らすと急に走り出した。
「ルコ!待って!」
デミは立ちあがるとルコを追おうとするがそれと同時に横に立っていた住居からヴァンパイアが3体飛び出してくる。まだ日は高いのにどうして外に出てきたのだろうか、道をふさがれてしまいルコを見失ってしまった。
「ベルーさん!」
ヴァンパイアが勝手に焼けていきデミはルコを探しているとベルーを見かけた。
「デミ、どうしたんだい?」
「ルコが・・・女の子がいました。でも見失ってしまいました!」
「生存者!?分かったみんなで探そう!」
それと同時にギルド本部のほうから轟音が響きわたる。
「こんどはなんだい!」
ベルーは本部に向かった。ルコのことも気になるが音を聞きつけてみんな集まっているだろう、デミも本部に向かうことにした。
ギルド本部はすでにメンバー全員集まっていた。問題のギルドの本部だがその一部が崩れていた。
「ハル、何があったの?」
デミはハルを見つけると分かり切ったことを聞いてみた。
「見て分からないの?本部の建物が崩れたんだよ」
中にいたヴァンパイアが暴れたのだろう。中にいたヴァンパイアの一部が太陽に悶えていた、何故暴れだしたのだろうか。
「とりあえずこの件は後でいい!デミが生存者を見かけたらしいから全員で探すよ!」
ベルーはメンバーにルコの捜索を指揮した。
その後の時間をすべてルコの捜索にあてたがルコは見つかることがなかった。まだ日はあるがこれ以上残ってしまうとキキの村に帰還する前に夜が来てしまう。2次被害の危険性があったためルコの捜索は打ち切られた。
重い空気の中、キールの街の扉が閉められる。街中に大量のヴァンパイアがいるためヴァンパイアが近隣の町に拡散しないようにする為だがそれはルコを見殺しにすることでもあった。メンバーはやりきれない表情をしていたが恐らくデミが一番悔しかっただろう。
苦しい空気の中、東の方角から声が聞こえてくる。
「はあ~やっとキールの街に着いた~」
ルコの声でもメンバーの声でもない。全員が声のした方向をみると一人の少女が立っていた。ブレザー型の制服に身を包み艶のある長い髪をポニーテールにまとめている。デミと同じか少し下の年齢に見える。
「デミ、あの子がルコ?」
ハルが首をかしげながらデミに聞く。
「10才くらいの女の子と言ったでしょ!あの子じゃない」
デミとハルがやり取りをしているとベルーが鉄の剣を抜いて少女に向けた。
「あなた、キショーの大学の人ね・・・何の用?デミをさらいに来た?それともあたしたちを笑いに来たの?」
胸元の刺しゅうはキショー大学のエンブレムだ。剣を向けたままベルーが少女に近づこうとするとキールのメンバーが制止する。それを見た少女はニコリと笑った。
「やっぱり分かってくれる人は分かってくれるんだね。うれしいな」
キショーの大学は国立なので研究によって得られる成果は保安官しか知らされない。その為ギルドもキショーに関しては厳しいポーズをとる。しかし学生のすべてが保安部派という訳ではなく卒業後にギルドの門を叩く者もいる。彼女は在学中でありながらギルドに加担しているのだろう、まるでちょっとしたスパイだ。
少女はくるりと一回転すると少し前かがみになって得意げな顔で名乗り始めた。
「私の名前はナナネルズ・ポンシーエ、察しの通りにキショーの学生よ」
少女は一団を見ると再びニコリと笑った。




