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第14話 邂逅(かいこう)

 月光が参道を照らし、ハイヒールの音が静寂を叩く。久しぶりの満月に長鳴実門《ながなきみかど》のテンションはMAXだ。今日は会社を辞めた初日。自由になった喜びに、いつもより酒が進む。

 21時から23時までの2時間が、月狐との創作講義の時間だ。


「あたし、今日から無職なの」

「ほぉん、覚悟した訳やな。ただ、時間を確保できたんはええけど、生活できるん? 漫画の専門学校も行くんやろ? 何百万って掛かるやん」

「ちょっとは貯金してるし、退職金も出ると思うから多分大丈夫!」

「随分と甘い見通しですね。そんな杜撰(ずさん)な計画で何が大丈夫なんですか?


 実門は後ろから聞こえた声に振り返る。

紺の角帽を被り、青いジンベエに緑の羽織を着た短パンの少年が立っていた。

首からはメモ帳と万年筆をぶら下げ、懐中時計を引っ掛けている。

上芝結《かみしばゆい》と名乗った。


「毎晩、奇声を発していた主はあなたでしたか。いつもここの通りを車で走っていたので気になっていたのですが、喋る小狐もいるとは。不思議な空間ですね」


 実門は月狐の正体がバレたことを気にしたが、当の本人は嬉しそうに目を細めた。


「前に100万円くれた参拝者がいるって言ったやろ? それ、この子や」

「出来ることは何でもするのが合理的ですからね。神に願うのも悪くはないと考えただけです。それにしても前回はいなかったですね。何故、今日は出てきたんですか?」

「ウチは月が出ている時しか実体化できひんねん。神通力が弱まってしもてるからな」

「――で、オレの願いは叶えてくれるんですか?」

「どんな夢や?」

「小説家になるという夢です」


 結はメモ帳と万年筆を手に持ち、すらすらと何かを書く動作をした。実門は結の元へ走ると手を取り、月狐の側にやってきた。


「あたしと同じ作家志望じゃない! 丁度良いわ。一緒に教えてもらうっていうのは、どうかしら?」

「ウチはええけど……」

「オレは特別な力を期待しているんですけど。レッスンって結局、この小狐の知識や知恵を教わるってだけですよね。それならプロで実績のある講師に習った方が合理的です」

「……言われてみればそうね。でも、月狐は物語の勉強のために神通力を投資して10年間も頑張ったのよ? 信じる価値はあると思うわ」

「信じる? 感情論ですね。それにあなたはもう立派なご年齢とお見受けします。退職金とか言ってましたけど、数年働いただけの会社からもらえる金なんか僅かでしょう。全体的に甘いですよ。このバニラの香水も鼻に付きます」

「あなたこそ、大人に向かって生意気ね。中学生なのに、こんな夜に出歩いて悪い子だわ」

「これでも高一ですよ。塾の帰りです」

「塾なんてこの近くにあったかしら?」

「正確に表現すると個人的に、知人の学者に勉強を見てもらっているんです」

「へぇ、凄いじゃない! でも、高校生の割には小さいのね」

「早々に判断すべきではないですよ。これから背が伸びる可能性は高いですから」

「待機万歳ってやつ?」

「大器晩成です。それにしても、小狐の形状をしているとはいえ、こうして神様に

出会えたのは奇跡かもしれないですね。しかも、物語の神様だとか。オレの夢を叶えるのに役立つかもしれない」

「多分、めっちゃ役に立つで。期待してええと思う」

「ただ、時間は有限です。オレもこの勉強会に参加します。が、期間は1年としましょう」

「面白いやんけ。1年で結の小説家への道を照らしたるわ」


月狐は神通力が消えるまで1年。

実門は母親の寿命まで残り1年。

結は月狐に付き合う期限が1年。


「あたしの名前は長鳴実門《ながなきみかど》。友達にはミカって呼ばれているわ」

「オレは上芝結《かみしばゆい》。結と呼んでください。あなたのことはミカさんと呼びます」

「ミカさんかー、何か堅いわね。『ミカ姉(ねぇ)』っていうのはどうかしら?」

「ミカ姉ですか。別に構いませんが、姉のように慕うつもりはありませんので」

「ウチは月狐でええからね」

「いえ、月狐先生と呼びます。但し、役に立たないと思ったら、もうここには来ませんので」

「あたしはお月ちゃんって呼ぶから!」

「何て呼ばれてもかまへんけど、ちゃんと尊敬しぃや。一応神様なんやから」

「御利益のない神様よね!」

「創作術が御利益や。月見神社やない。今日から月見物語神社や!」

「なるほど。

安産祈願・学業成就・安全祈願……そして、この神社は『創作成就』ってとこですかね」

「流石、結。すぐに思いついたわね!」

「考えるのが得意なだけです」


 その時、花火が上がった。小さいが色鮮やかだ。側の公園で若者が打ち上げて遊んでいる。実門は自分の物語が始まるオープニングだと瞳に火の華を映した。

 それぞれ残り1年。3人の偶然が絡まり合いながら進んで行く。

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