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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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傲慢なる大悪魔と、概念の簒奪(さんだつ)

第三十五階層の雨の廃都で、過去の英雄の魂を無事に解放した僕たちは、確かな足取りで上層へと進んでいた。


前回の涙を誘うような悲哀に満ちた空気はすっかりと晴れ、星の泉で得た万全のコンディションと、深まった仲間との絆が、僕たちの背中を力強く押していた。


 第三十六階層から第三十九階層にかけての道のりは、もはや僕たちにとって「脅威」と呼べるものではなくなっていた。


 溶岩が渦巻く迷路も、底なしの毒沼も、襲い来るSランクの魔物の群れも、すべてが完璧な連携の前に数分で瓦礫の山へと変わっていく。


 神々の指導によって極限まで圧縮された個々の力は、いかなる理不尽な環境も強引に突破するだけの『絶対的な暴力パワー』となっていた。


 そして、塔への突入から十五日目。

 僕たちは、十分の四の到達点である【第四十階層】の重厚な扉を蹴り開けた。


「……随分と、悪趣味な成金趣味の部屋ね」

 霧島さんが、呆れたように周囲を見渡す。

 そこに広がっていたのは、床に真紅の絨毯が敷かれ、壁には金銀財宝が飾られた『豪華絢爛な魔王城の玉座』だった。


 天井からは巨大なシャンデリアが吊るされ、塔の中とは思えないほど甘ったるい香水の匂いが充満している。


 そして、その部屋の最奥。

 真紅の玉座に深く腰掛け、片手に血のようなワインが入ったグラスを揺らしている「男」がいた。


『――よくぞここまで辿り着いたな、脆弱なる人間の虫けらどもよ』

 タキシードを着こなし、頭に二本の捻じれたヤギの角を生やした、端正な顔立ちの悪魔。


 だが、その体内から放たれる魔力は、第二十階層の偽天使や、第三十階層の紫晶の魔帝をも凌駕する、圧倒的な『格の違い』を証明していた。


大悪魔公アーク・デーモン・デューク……。地獄の最深部に封じられているはずの、魔王の側近クラスですわね」


 シャルロットさんが細剣を抜き、優雅な微笑みの裏に鋭い殺気を込める。

『いかにも。我は塔の十分の四を統べる大悪魔公、ゼパル。

……さて、貴様らのような下等生物が、我が美しき玉座を汚した罪。万死に値するが……』


 ゼパルはグラスのワインを飲み干し、嘲笑うように口角を吊り上げた。

『今ここでひれ伏し、我の靴を舐めて命乞いをするのなら、永遠の奴隷として生かしておいてやらんこともないぞ?』


「Hahaha! 冗談は顔だけにしておけよ、角付き野郎!」

 レオンさんが一歩前に出て、巨大な戦斧を肩に担ぐ。

「俺たちは急いでるんだ。さっさとその玉座から降りて、道を空けな!」


『……愚かな。己の分を弁えぬ猿どもめ』

 ゼパルが冷酷な瞳で僕たちを見下ろし、パチンッと指を鳴らした。


『ならば、その傲慢な心をへし折ってやろう。……我の固有スキル、とくと味わうがいい』

 その瞬間、玉座の間の空間がぐにゃりと歪んだ。


『――《概念簒奪コンセプト・ユーサーペーション》!!』

「なっ……概念、簒奪だと!?」

 アーサーさんが驚愕の声を上げる。

 魔法やステータスを物理的に奪うのではない。

 対象が持つ「力」「防御」「魔法」といった『概念ルールそのもの』を対象から強制的に引き剥がし、己のものとする神話級の反則スキル。


『まずは、貴様のその「力」の概念をいただこう!』

 ゼパルがレオンさんに向けて手をかざす。


 レオンさんの肉体から、目に見えない「闘気と筋力の概念」が赤い光の帯となって引きずり出され、ゼパルの手元へと吸い込まれていく……はずだった。


『……ん? な、なんだこれは……重い……!?』

 ゼパルの顔から、余裕の笑みが消え去った。

 レオンさんから引き出そうとした赤い光の帯が、ゼパルの手の中で凄まじい重力を持ったように暴れ出し、引き寄せることができないのだ。


「へっ……俺の闘気は、もう外には出さねえように『極限圧縮』してあるんだよ。……他人のコンセプトを盗むなら、それなりのキャパを用意しとくんだな!」


 レオンさんがニヤリと笑う。

『バ、バカなッ! 下等な人間の闘気が、我が霊的な容量キャパシティを上回るだと!? ぐおおおおおッ!!』


 バキバキバキッ!!

 レオンさんの『圧縮された力の概念』の異常な密度に耐えきれず、それを吸い込もうとしたゼパルの右腕が、内側から弾け飛んで無惨に千切れた。


「次は私から奪ってみるかしら?」

 霧島さんが、わざとらしく神刀を構えてみせる。

『クソッ、小癪な! ならば貴様の「魔力」の概念を――』


【賢神ソフィア】:フハハハハハハッ!! 傑作だ!! なんという無様な悪魔よ!


【雷神トール】:ギャッハッハ! 神々のことわりで限界まで圧縮された領域の概念を、たかが下位の悪魔が引き出せるわけがなかろう! 胃袋が破裂するぞ!


【戦神アレス】:さあ、どんどん奪って自滅しろ! 最高の見世物だ!

 ダンカメの向こうで、神々が腹を抱えて大爆笑しているコメントが流れる。


『な、何がおかしい! 貴様ら、一体何者だ!? なぜ人間の枠を超えた概念を内包している!?』

 右腕を失い、冷や汗をダラダラと流すゼパルが、先ほどの傲慢さはどこへやら、恐怖に顔を引き攣らせて後ずさった。


「人間の枠を超えた?……そうですね、いろいろと優秀なコーチが付いているので」

 僕が一歩前に出る。


「どうします? 僕の『魔法』の概念、奪ってみますか?」

『ヒィッ……! ク、来るな! 《暗黒地獄炎ヘル・フレア》!!』


 パニックに陥ったゼパルが、簒奪を諦めて巨大な漆黒の炎を放ってくる。

「遅いですよ」


 僕は剣を抜き、紅蓮の炎、黄金の雷、激流の水をコンマ一秒で融合させた。

「――《三絶・水雷火砲トライ・エレメント・ブラスター》ッ!」


 僕の放った極彩色の魔力の奔流が、ゼパルの漆黒の炎を紙屑のように吹き飛ばし、そのまま大悪魔公の胴体を玉座もろとも完全に消し飛ばした。


『ア、アリエナイ……我ガ、コンナ虫ケラドモニ…………』

 首だけになった大悪魔公が信じられないという顔のまま、光の粒子となって消滅していく。


「……まったく、口先だけの三流悪魔でしたわね」

 シャルロットさんが、呆れたように扇子を閉じる。

「Hahaha! 最高のストレス発散になったぜ! これで四十階層クリアだな!」


 レオンさんが、粉々になった玉座の破片を蹴り飛ばして笑い合った。

 かつてなら絶望的な強敵だったはずの大悪魔公。


 しかし、理不尽な反則スキルすらも、自らを極限まで鍛え上げ、神の理に触れた僕たちにとっては、もはや自滅を誘う展開にしかならなかった。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……。

 大悪魔公の玉座が消え去った奥の壁が開き、見慣れた『星空の扉』が姿を現す。


 暴力の階層の区切り。

 それはつまり、第四十一階層における、塔のルールに基づく五度目の『知の試練』の始まりを意味していた。


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