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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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ボス戦に向けての準備

 翌朝。

 レンはダンジョンに向かう前に、探索者協会の売店に寄っていた。


 回復ポーションを三本、魔力回復薬を二本、携帯食料を適当に。

 レジに並びながら、スマホを確認する。

 SNSのフォロワーが昨日より二千人増えていた。


「……増えるのが速いな」

 探索者協会の売店は、ダンジョン用の消耗品が揃っている小さな店だ。

 探索者たちが出発前に立ち寄る場所で、朝はそこそこ混んでいる。

 レジを済ませて振り返ったところで、声をかけられた。

「ねえ、神代くん?」

 振り返ると、白衣を着た女性が立っていた。

 二十代くらい。眼鏡。手にデータパッドを持っている。

「えっと……」

「天城ユイといいます。協会の分析室で研究員やってます」

「あ、はい」

「配信、見てます」

「ありがとうございます」

 ユイはレンを上から下まで見た。


 見た目は思ったより普通。

 特別強そうでも、特別大きいわけでもない、普通の青年だ。


「少し聞いてもいいですか?」

「あ、はい」


 ユイはレンを見ながら確認する。

「アイアンウルフ戦の立ち回りってあれどこかで習ったんですか?」

「えっと、特には」

「ということは独学?」


「なんとなく、そう動いた方がいい気がして」

 ユイはメモを取った。


「雷魔法は?」

「トールさんのスパチャで取得して、バハムートさんとソフィアさんに教えてもらいました」

「ふむふむ、コメ欄の常連の方々に」


「はい」

 ユイはしばらく何か考えてから、顔を上げた。

「今日ボス戦に行くつもりですか」

「準備してから行こうと思って、今日は偵察だけにしようかと」

「賢明だと思います」

 ユイはデータパッドに何かを打ち込んだ。


「一つ提案なんですが、戦闘データのログ、詳細版を取らせてもらえませんか。協会の公式計測器を使えば、通常の配信ログより精度の高いデータが取れます」


「私のデータが何かの役に立つんですか」

「たぶん」

「たぶん、ですか」

「正直に言うと、あなたの行動パターンが既存のデータと合わなくて、研究者として気になってます」

 レンは少し考えた。


「別にいいですよ。計測器ってどんなやつですか」

「小型のセンサーです。ベルトに付けるだけで邪魔になりません」


 レンは「それなら問題ないです」と答える。


「ありがとうございます」

 ユイは少し表情が緩んだ。

「そういえば配信、面白いですよ。コメ欄も含めて」


「ありがとうございます。コメ欄は僕もよくわかってないんですけど」

「それが一番気になってます」

 レンはなんとも言えない顔をした。



 配信開始。

 今日の同時接続は開始三十秒で百八十を超えた。


【古代龍バハムート】が入室しました

【魔王ゼルディア】が入室しました

【精霊王シルフィード】が入室しました

【戦神アレス】が入室しました

【死神ネクロス】が入室しました

【賢神ソフィア】が入室しました

【雷神トール】が入室しました


【kirishima_arisa】が入室しました


【新規さん】:アリサさんも来た!!

【新規さん】:常連全員集合してる

【kirishima_arisa】:おはようございます

【精霊王シルフィード】:アリサさんおはよう!!

【kirishima_arisa】:シルフィードさんおはようございます。今日はボス戦ですか


「今日は偵察だけにしようと思ってます」


【戦神アレス】:え、なぜだ

【賢神ソフィア】:準備不足でボスに挑むな。当然の判断だ

【戦神アレス】:……まあそうだな

【死神ネクロス】:珍しく引いた

【戦神アレス】:今日は同意する

【新規さん】:戦神さんが大人しい

【新規さん】:成長した?

【戦神アレス】:成長ではない。戦略だ。

【新規さん】:それ‥同じでは


「ありがとうございます戦神さん。ちゃんと準備してから行きます」

 レンはベルトにユイから借りたセンサーを付けてダンジョンへ向かった。


【新規さん】:ベルトに何か付けてる

【新規さん】:新しい装備ですか


「協会の研究員さんに計測センサーを付けてもらいました。データを取ってもらうことになって」


【新規さん】:研究対象になったとか

【kirishima_arisa】:天城さんですか?


「知ってるんですか?」


【kirishima_arisa】:協会の分析室でダンジョン行動分析やってる人ですよね。優秀な研究員です

【新規さん】:S級が知ってるレベルの研究員に目を付けられてる

【新規さん】:このチャンネル色々やばくなってきた



 地下三階、北エリアの入口。

 今日は戦わず、ひたすら観察だ。

 レンはゆっくり奥へ進みながら、気配を探った。

「静かですね。でも昨日より空気が重い気がする」


【古代龍バハムート】:気配の読み方が上手くなっている

【賢神ソフィア】:一週間でここまで伸びるか

【魔王ゼルディア】:普通ではないな

【雷神トール】:だから言っただろう

【kirishima_arisa】:普通ではない、ってどういう意味ですか?

【魔王ゼルディア】:……ロールプレイだ

【kirishima_arisa】:(また間があった)


「霧島さんも括弧書きで心の声入れてくれるようになってる」


【kirishima_arisa】:うつりました、失礼。

【新規さん】:配信の文化に染まってて好き


 奥へ進むにつれて、通路が広くなっていった。

 二十メートルほど歩いたところで、レンは足を止めた。

 前方の空気が、明らかに違う。


「……いる」

 暗闇の中に、何かがいる。まだ距離はある。でも確実に気配がある。

 大きい。アイアンウルフより重い気配だ。


【古代龍バハムート】:見えるか?


「見えないですけど、気配はします。でかい」


【賢神ソフィア】:北エリアのボスはアーマーベアだ。体に魔力の鎧をまとった熊型の魔物。Cランク相当

【新規さん】:Cランク!?

【新規さん】:レンくんEランクじゃないですか

【kirishima_arisa】:Cランクは正直きつい。装備と準備次第ですけど


【戦神アレス】:やれるな、余裕

【精霊王シルフィード】:いや、準備してからね!!

【戦神アレス】:確かに準備してからならやれる

【新規さん】:戦神さん今日ほんとに大人しい


「Cランクか……」

 レンはしばらく気配を観察してから、静かに後退した。

「今日は引きます。ちゃんと準備してから来ます」


【古代龍バハムート】:正しい

【魔王ゼルディア】:賢明だ

【死神ネクロス】:今日も仕事なしで何よりだ

【新規さん】:死神さんの安堵が毎回面白いね

【kirishima_arisa】:賢い判断だと思います。Cランクは舐めると危ない

【新規さん】:S級の霧島さんが言うと説得力がある



  配信はまだ続いていた。

 ダンジョンを出てから、レンはベンチに座ってメモを広げた。

 アーマーベア。Cランク相当。体に魔力の鎧。

「魔力の鎧がある、ってことは物理攻撃が通りにくいかな」


【賢神ソフィア】:その通りだ。魔力属性の攻撃を組み合わせる必要がある

【雷神トール】:雷が有効だ

【古代龍バハムート】:鎧の継ぎ目を狙え。首の後ろと脇腹が薄い

【kirishima_arisa】:私もアーマーベアと戦ったことあります。動きは遅いけどパワーがすごい

【新規さん】:S級の体験談が聞けてる

【新規さん】:このチャンネルの情報密度やばい


「ありがとうございます。今日はここで準備リストを作ります」

 レンはメモに書き始めた。

 ポーション追加。

 魔力回復薬追加。

 雷魔法の練習。

 鎧の継ぎ目への剣の通し方。


【精霊王シルフィード】:レンくん真面目だなあ

【古代龍バハムート】:それでいい

【魔王ゼルディア】:準備を怠る探索者ほど短命なものはない

【新規さん】:魔王さんが良いこと言った

【魔王ゼルディア】:いつも良いことを言っている

【新規さん】:「暇だからな」の人が

【魔王ゼルディア】:それはそれだ


「ゼルディアさんのキャラが定着しちゃってますね」


【魔王ゼルディア】:不本意だ

【古代龍バハムート】:私も同じ気持ちだ

【新規さん】:二人が珍しく気が合ってる



 配信終了。

 本日の最終同時接続数:二百十四人。

 チャンネル登録者数:二百八十九人。

 コメント数:三千件超。

「二百八十九人……」

 一週間前、三人だったのに。


 レンはしばらく数字を眺めた。

 不思議だった。

 自分は何も変わっていない。毎日同じダンジョンに潜って、慎重に進んで、コメ欄の常連たちと話している。

 それだけなのに。

(次のボス戦、ちゃんとやろう)


 メモを閉じて、立ち上がる。

 明日から三日、準備に使うことにした。



 分析室。

 ユイはセンサーのデータを確認していた。

 数値がモニターに並んでいく。

「……やっぱりおかしい」

 魔力の流れ方が、Eランク相応じゃない。

 体のステータスは確かにEランクだ。

 間違いなく。


 なのに、魔力の運用効率だけが中級探索者を超えている。

「まるで、体がまだEランクのままで、中身が追いついていないみたいだ」

 ユイはレンが帰り際に言った言葉を思い出した。

「なんとなく、そう動いた方がいい気がして」

 気がして、で動いた回避が、Dランク上位のアイアンウルフを仕留めた。


 気がして、で使った雷魔法が、習得早々に発現した。

「この子、本当に何者なんだろう」

 ファイルを更新する。


【仮説②:身体ステータスと内部情報処理能力が乖離している。前者はEランク相当、後者は計測不可能域に近い。原因不明】


 保存して、画面を閉じた。

 ボス戦のデータが楽しみだと思いながら。



 異世界のどこか。

「準備をしてから来る、か」と魔王ゼルディアが言った。

「当然だ」とバハムートが返す。

「でもCランクのボスにEランクが挑むのは、普通じゃないぞ」

「普通じゃないのはあいつ自身だろう」


 精霊王シルフィードがそわそわしながら言った。

「ボス戦っていつになるの?」

「三日後だと言っていたな」とソフィアが答えた。

「三日後かあ……」

「待てないのか」

「待てる。でも楽しみすぎて落ち着かない」

 バハムートはため息をついた。


「三日くらい待て」

「わかってる。わかってるけど」

 トールが腕を組んで言った。

「ボス戦、何を与えようか考えているところだ」

「スパチャか」とゼルディアが言う。

「タイミング次第だが」


「あまり与えすぎるな」とバハムートが釘を刺す。「自分の力で倒すことに意味がある」

「分かっている」


 トールは短く答えた。

 でもその目は、すでに三日後を見ていた。


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