囮にされた少女。最弱の無職と落ちこぼれヒーラーの出会い
アリサとの密会から一夜明けた翌日。
レンはいつも通り、渋谷第三ダンジョンで配信を開始した。
【古代龍バハムート】が入室しました
【魔王ゼルディア】が入室しました
【精霊王シルフィード】が入室しました
【死神ネクロス】が入室しました
【賢神ソフィア】が入室しました
【雷神トール】が入室しました
【kirishima_arisa】が入室しました
【ダンジョンオタク_ケイ】が入室しました
【探索者見習い_ハル】が入室しました
「おはようございます。今日は地下三階の南エリアを探索します」
【精霊王シルフィード】:おはよう!!
【kirishima_arisa】:おはようございます。昨日ぶりですね。
【賢神ソフィア】:南か。魔物の質が変わる。注意しろ。
順調に地下二階を抜け、地下三階への階段を降りようとした時のことだった。
タタタタタッ!
下から、血相を変えた三人の探索者が駆け上がってきた。装備を見るにCランク前後のパーティだ。
「おいお前、下には行くな!」
すれ違いざまに、一人の男が叫んだ。
「南エリアにアイアンウルフの群れが出た! うちのパーティは壊滅寸前だ……『荷物持ち(ポーター)』を囮にして、俺たちだけで逃げてきたんだよ!」
三人の背中は、逃げるように階段の上へと消えていった。
レンは足を止めた。
(囮にして、逃げた?)
【古代龍バハムート】:……聞いたか
【戦神アレス】:行くか
【精霊王シルフィード】:レンくん、危ないよ!
静まり返る通路の奥から、微かに声が聞こえた。
泣き声と悲鳴だ。
「……ちょっと、確認してきます」
レンは迷わず階段を駆け下りた。
◆
地下三階の奥。行き止まりの通路。
大きなリュックを背負った少女が、へたり込んでいた。
「……っ、こないで、こないで……」
彼女の前に、Dランク上位の魔物『アイアンウルフ』が二体、涎を垂らしながらじりじりと距離を詰めている。
レンは一瞬で状況を把握した。
「おい!」
レンは声を張り上げ、アイアンウルフの注意を引いた。
二体の殺意が、一斉にレンへと向く。
【古代龍バハムート】:二体同時だ。一体を先に引きつけろ!
一体が飛びかかってきた。
レンは紙一重でその凶爪を躱し、すれ違いざまに右手に収束させた『雷』を至近距離から叩き込む。
ドガァンッ! と轟音が鳴り、一体が吹き飛んでよろめく。
だが、息をつく暇もなく二体目が背後から迫っていた。
(速い……!)
レンは前転して刃をかわし、立ち上がると同時に剣を構えた。
無防備に突っ込んできた二体目の脇腹へ、下からすくい上げるように剣を突き立てる。
ずぶりと肉を裂く感触。二体目が光の粒子となって消滅する。
すぐさま反転し、立ち上がろうとしていた一体目に向き直る。
今度は手加減しない。限界まで練り上げた雷を叩き込み、完全に沈めた。
静寂。討伐時間、わずか十数秒。
「……はぁ、終わった」
【精霊王シルフィード】:よかったよかったよかった!!!
【ダンジョンオタク_ケイ】:二体同時をあんな速さで処理するの、絶対にEクラスの動きじゃないですよ!
【kirishima_arisa】:……あの三人、置いていったんですね。(最低だ)
【新規さん】:アリサさんの括弧書きに怒りが見える
レンは剣を収め、へたり込んでいる少女に近づいた。
彼女は真っ赤な目で、信じられないものを見るようにレンを見上げていた。
「……助けて、くれたんですか?」
「はい。怪我はないですか?」
「ない、です。でも……」
少女の唇が震えた。
「置いていかれました……みんなに」
ぽろぽろと涙をこぼす少女に、レンは自分のアイテムボックスからポーションを取り出して手渡した。
「今は安全です。一緒に地上に戻りましょう。僕が隣にいます」
その言葉に、少女はしゃくりあげながら何度も頷いた。




