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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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S級探索者降臨

 SNSを開くと、昨日よりさらに増えていた。


 新しい切り抜きの再生数が十二万を超えている。

「……じゅ、十二万!?」

 レンはスマホを持ったまま固まった。

 昨日の夜は二万だった。

 寝ている間に六倍になっていた。


「なんでだ、一体‥」

 コメントを流し見する。

「このチャンネルのコメ欄が毎回カオスで目が離せない」

「精霊王シルフィードさんの応援が癒しすぎる」

「ロールプレイ勢なのにアドバイスが的確すぎて草」

「EランクがDランク上位を倒した動画。コメ欄の神様たちと一緒に見ると面白い」


 一番引用されていた投稿を開くと、こう書いてあった。

「このコメ欄の常連たちのやり取り面白いのに、配信登録者少なすぎ、全員見て」


「……いや、主は僕なんだけど‥」

 レンはそっとスマホを置いた。



 配信開始。

 今日の視聴者数は最初から百を超えていた。


【古代龍バハムート】が入室しました

【魔王ゼルディア】が入室しました

【精霊王シルフィード】が入室しました

【戦神アレス】が入室しました

【死神ネクロス】が入室しました

【賢神ソフィア】が入室しました

【雷神トール】が入室しました


【新規さん】:きた!常連さんたちだ!

【新規さん】:古代龍バハムートさんおはようございます

【古代龍バハムート】:……おはよう

【新規さん】:返事してくれた!!

【新規さん】:バハムートさんって意外と優しい

【古代龍バハムート】:優しくはない

【新規さん】:そういうとこが好きです

【古代龍バハムート】:…………

【精霊王シルフィード】:バハムートが照れてる!!

【古代龍バハムート】:いや、照れていない


「バハムートさん、人気者になってますよ?」


【古代龍バハムート】:不本意だ

【魔王ゼルディア】:私は人気はないのか

【新規さん】:ゼルディアさんは「暇だからな」の人として有名です

【魔王ゼルディア】:いや、そこで有名になりたくはなかった


「ゼルディアさんが珍しく落ち込んでる」


【精霊王シルフィード】:大丈夫だよゼルディアさん!暇ってことは平和ってことだから。

【魔王ゼルディア】:フォローの方向が違う気がするが……まあいい



 今日も地下三階を進む。

 目標は北エリアの踏破だ。

 コメントが流れるスピードが昨日よりさらに速くて、レンはそれを横目で追いながら歩いた。

「えーと、今日も地味に進みます。北エリア、まだ踏んだ事ないところなんで慎重に行きます」


【新規さん】:北エリアって協会のマップにも載ってないところですよね

【賢神ソフィア】:そうだ。このダンジョンの北側は地形が複雑で探索が遅れている

【新規さん】:ソフィアさんなんで知ってるんですか

【賢神ソフィア】:知識を蓄えてきたからだ

【新規さん】:何年ですか

【賢神ソフィア】:一万年ほど

【新規さん】:設定ガチすぎて笑う

【新規さん】:でもなんか信じてしまう‥


「私も最初からずっとそう思ってます」

 そのとき、コメント欄に見慣れないアカウントが入ってきた。


【kirishima_arisa】が入室しました


 レンは名前を見て、首を傾げた。

(kirishima_arisa……?)


【新規さん】:え

【新規さん】:霧島アリサさん?

【新規さん】:S級探索者の??

【新規さん】:本物?

【kirishima_arisa】:本物です

【新規さん】:うおおおおお


「……あの、霧島アリサさんって?」


【新規さん】:世界ランキング九位のS級探索者です

【新規さん】:登録者五百万人

【新規さん】:え、なんでここにいるんですか

【kirishima_arisa】:切り抜き見て気になったので


「え、あ、ありがとうございます……!」

 レンはなんと言えばいいかわからず、とりあえず頭を下げた。

 ダンジョンの中で一人でお辞儀している絵面になった。


【新規さん】:ダンジョンの中でお辞儀してる

【kirishima_arisa】:真面目な人なんですね

【精霊王シルフィード】:真面目だよ!!

【kirishima_arisa】:精霊王シルフィードさん……ですよね。コメ欄でよく見ます

【精霊王シルフィード】:知ってくれてた!!嬉しい!!

【古代龍バハムート】:……ほう

【kirishima_arisa】:バハムートさんも。よく名前見ます

【古代龍バハムート】:…………そうか

【新規さん】:バハムートさんまた照れてる

【古代龍バハムート】:いや照れていない


 レンは気を取り直して前を向いた。

「あの、霧島さん、ゆっくりしていってください。本当に地味な配信なんですけど」


【kirishima_arisa】:地味な方が参考になることあるんですよ

【kirishima_arisa】:昨日のアイアンウルフ戦、見ました。あの回避、独特ですね


「えっ、何か変でしたか」


【kirishima_arisa】:変じゃないです。むしろ理にかなってる。どこで覚えたんですか


「特に覚えてないんですよね。気づいたらそう動いてました」


【kirishima_arisa】:……そうなんですか

【新規さん】:S級が気になってる

【新規さん】:これ大事じゃないですか

【新規さん】:登録者数百人いないチャンネルにS級が来てる状況がすごすぎる



 北エリアの入口付近で、レンは足を止めた。

 通路の先が、やけに静かだ。

「……気配がない。でもなんか、嫌な感じがする」


【古代龍バハムート】:止まれ。罠だ

【賢神ソフィア】:床の石の色が違う。踏むな

【kirishima_arisa】:あ、本当だ。見落としてた

【新規さん】:S級が見落としたのをロールプレイ勢が先に気づいた

【新規さん】:いや、どういう状況


「あ、本当だ。ちょっと待ってください」

 レンはしゃがんで床を確認した。

 言われてみれば、前方三メートルほどの石の色が微妙に違う。

「迂回します」

 壁沿いに大きく回って、罠を避けた。


【kirishima_arisa】:バハムートさん、ソフィアさん、よく気づきましたね

【古代龍バハムート】:この程度は見れば分かる

【賢神ソフィア】:ダンジョンの石の特性を知っていれば当然だ

【kirishima_arisa】:……何者なんですか、みなさん

【魔王ゼルディア】:ロールプレイ勢だ

【kirishima_arisa】:そうは見えないんですよね

【魔王ゼルディア】:…………

【新規さん】:S級に見抜かれかけてる

【死神ネクロス】:面白くなってきたねぇ


「霧島さん、みなさん設定がすごく作り込まれてるんですよ。私も最初は驚きました」


【kirishima_arisa】:そうですか……(疑問は残るが)


「括弧書きで心の声入れてきた」


【新規さん】:S級でも疑うよそりゃ

【新規さん】:コメ欄の情報精度が高すぎる

【精霊王シルフィードさん】:えへへ



 北エリアを半分ほど進んだところで、今日は引き返すことにした。

 奥の気配が重すぎる。

「今日はここまでにします。奥、なんかいる気がするので」


【古代龍バハムート】:正しい判断だ

【賢神ソフィア】:北の最奥には中型のボス個体がいる可能性がある。準備してから来い

【戦神アレス】:ボスか。楽しみだな

【死神ネクロス】:私も少し楽しみだ

【戦神アレス】:今回だけは同意する

【新規さん】:戦神と死神が珍しく仲良い

【kirishima_arisa】:ボス戦、見てみたいです

【kirishima_arisa】:また来てもいいですか


「もちろんです。ぜひ」


【kirishima_arisa】:登録しました

【新規さん】:S級が登録した!!

【新規さん】:チャンネルの格が上がった

【新規さん】:登録者何人になった


 画面の隅の数字を確認した。

 登録者:百二十七人

「……百二十七人だ」


【精霊王シルフィード】:すごいすごい!!!

【古代龍バハムート】:ようやくまともな数になってきた

【魔王ゼルディア】:遅すぎたくらいだ

【新規さん】:常連たちがずっと信じてたのがなんかいい



 配信終了後、レンはスマホを開いた。

 SNSに通知が来ていた。

 霧島アリサのアカウントから、一件。


「渋谷第三ダンジョンの神代レンくんの配信、面白かったです。コメ欄の方々も含めて。次のボス戦、楽しみにしてます」


 リポスト数、三万二千。

「……アリサさんが拡散してる」

 レンはしばらく画面を見つめた。

 なんだか、流れが変わり始めている気がした。



 分析室。

 ユイはモニターを眺めながら、呟いた。

「霧島アリサまで来た」

 木村さんが振り返る。


「え、本当に? あのS級の?」

「コメント欄に普通にいました」

「すごいじゃないですか」

「それだけじゃなくて」

 ユイはデータを開いた。


「アリサさんが見落とした罠を、コメ欄の常連たちが先に指摘してるんですよ」

「……S級が見落とした罠を?」

「しかも映像情報だけで。現地にいるわけじゃないのに」

 木村さんはしばらく黙った。


「……それ、普通じゃないね」

「ですよね」

 ユイはファイルに書き込んだ。

【コメント欄の常連:S級探索者が見落とした罠を映像のみで事前察知。情報精度の説明不可能】


 だんだん、ただの「要観察メモ」では収まらなくなってきた。



 異世界のどこか。

 精霊王シルフィードが興奮気味に言った。

「アリサさんって人、いい人そうだった!」

「S級探索者か」とバハムートが低く言う。

「腕は確かだな。罠に気づくのは遅かったが」

「あなたが速すぎるだけだ」とゼルディアが返した。


「そうか」

 賢神ソフィアが静かに口を開いた。

「レンの周囲に、人間側の目が集まり始めている。探索者、研究者、協会」

「それで?」とトールが言う。


「物語は加速する、ということだ」

 バハムートは何も言わなかった。

 ただ窓の外を見るような仕草をして、呟いた。


「……次のボス戦が楽しみだな」

 それは珍しく、本音だった。


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