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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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古代龍と語る夜

配信という祭りが終わり、喧騒が引いた後の部屋は、ひどく広くなったように感じられた。  


九条颯真を見送り、サクラと別れ、一人になったレンは、電気もつけずに窓辺に立っていた。

窓の向こうには、眠らない街・渋谷のネオンが海のように広がっている。  

候補者制度。三つ目の勢力。十年前の悲劇。

そして、宿命のライバルとして隣に座った颯真の震える指先。    

今日得た情報の断片を脳内の棚に並べようとしても、最後の一片がどうしても収まらない。

(「まだ早い」……あの言葉の意味は一体‥)    


レンは窓から離れ、ベッドに深く沈み込んだ。暗闇の中でスマホの画面だけが、青白く彼を照らしている。  

少し迷ってから、彼はその「神」に指を向けた。

「バハムートさん、今話せますか?」

返信は、瞬きする間もなく届いた。

【古代龍バハムート】:ああ話せる。

「今日の話、聞いていましたよね。一つだけ、ちゃんと教えてほしいんです。今夜だけでいいから」


【古代龍バハムート】:……何を聞きたい。

レンは一呼吸置き、ずっと心の隅で疼いていた問いを投げた。


「なぜ、バハムートさんは僕を選んだんですか?」


そこから、長い沈黙が流れた。  

画面が消えそうになるたび、レンは指で画面をなぞる。一分、二分。  


やがて、画面の向こうで巨龍が深く息を吐いたような、そんな錯覚を覚えるほどの長文が届き始めた。

【古代龍バハムート】:……今夜だけだ。話してやる。



【古代龍バハムート】:まず、お前に問う。今日の話を聞いて、お前は「怖い」と思ったか。

「怖いとは少し違うんですけど……重い、と思いました。僕一人の人生じゃないんだなって」


【古代龍バハムート】:それでいい。整理できぬ夜があるのは、お前が「生身の人間」である証拠だ。

【古代龍バハムート】:いいか、レン。我々の世界でこの議論が始まったのは、人間界にダンジョンが現れるより、ずっと前のことだ。

バハムートの語る言葉は、重く、深く、レンの意識に沈んでいく。

 

【古代龍バハムート】:我々は長く生きすぎた。ゆえに、人間界の愚行も、争いも、飽きるほど見てきた。

【古代龍バハムート】:介入派のハデスたちは言った。「人間は弱すぎる。導く者がいなければ自滅する」と。

【古代龍バハムート】:だが、我々静観派は信じたかった。人間は、誰に教わらずとも自分の足で立ち、失敗から学び、泥を払って立ち上がる生き物だと。


「それが、僕を選んだ理由に繋がるんですか?」


【古代龍バハムート】:そうだ。我々が探していたのは、特別な才能を持つ者ではない。

“誰にも見られていなくても、自分であり続けられる者“だ。


【古代龍バハムート】:九条颯真は、介入派が望む「完璧な先導者」として成長するだろう。

だがお前はどうだ?

レンは自分の手元を見る。そこには、ただの探索者の手がある。


【古代龍バハムート】:お前は自分が候補者だと知らず、神々に見られているとも知らず、ただ毎日ダンジョンに潜った。

慎重に、時に大胆に、なんとなくの直感だけで、正しい道を選び続けてきた。

【古代龍バハムート】:誰かに与えられた強さではなく、お前が自分で手に入れた「日常」こそが、静観派の正しさを証明する唯一の光だったのだ。


レンの胸に、熱いものがこみ上げる。

「でも、僕はただ……おにぎりを食べて、潜ってただけですよ」

【古代龍バハムート】:それがいいのだ。お前がお前であり続けること。それが何より困難で‥何より尊い。


【古代龍バハムート】:いいか、レン。候補者とは強さを競う道具ではない。“人間はどうあるべきか“を示す鏡だ。

バハムートの言葉は、最後に少しだけ、その峻厳さを崩した。


【古代龍バハムート】:……それとな。制度や理屈は正直どうでもよかった。

【古代龍バハムート】:最初に画面越しにお前を見たとき、「こいつが気に入った」と思った。俺の理由は、それだけで十分だ。


暗い部屋で、レンは思わず小さく笑った。  神様にしては、あまりに人間臭い告白だったから。


「……ありがとうございます、バハムートさん」


【古代龍バハムート】:礼などいらん。……さっさと寝ろ。明日も、お前は「お前」として生きるのだろう?



同じ時刻。  

高層マンションの一室で、九条颯真もまた、スマホの青い光の中にいた。  

彼の脳内にある、精密な「整理棚」は、今夜に限って機能不全を起こしていた。

「……ハデス。起きていますか」


【冥王ハデス】:眠れないか。颯真。

「はい‥俺に、何が欠けているというんでしょうか」

颯真の声は、微かに震えていた。  

期待に応え続け、最強を維持し、孤独を飼い慣らしてきた天才。

その鎧に、神代レンという異分子が亀裂を入れていた。


【冥王ハデス】:……三つ目の勢力は、我々にとっても不確定要素だ。介入も静観もしない、ただの「穴」のような存在。


【冥王ハデス】:だが、焦るな。今日、レンとおにぎりの話をしたのだろう。

「……あいつは、何も怖がっていないように見えました。自分を見ている人間たちを信じ切っている。それが、少しだけ……」


羨ましい。その言葉を、颯真のプライドが飲み込む。  

だが、ハデスはすべてを見透かしたように続けた。

【冥王ハデス】:今からでも、遅くはないぞ。 「……?」


【冥王ハデス】:俺もお前を、役割だけで見てきたわけではない。ただ、不器用なだけだ。……今日は寝ろ。整理は明日、俺が手伝ってやる。


颯真は目を見開いた。  

冥王と呼ばれた冷徹な守護神から漏れた、あまりに不格好な「情」。

「……ありがとうございます」

【冥王ハデス】:ふん。礼などいらん。寝ろ。


スマホを置いた颯真は、ゆっくりとベッドに横たわった。  

隣の部屋に誰かがいるわけではない。

だが、スマホの向こう側に、そして今日出会ったあの「おにぎり少年」の心の中に、同じように眠れない夜を過ごす者がいる。    

その事実だけで、彼の孤独は少しだけ、夜の闇に溶けていった。



異世界のどこか。

「言っちゃいましたね」  

シルフィードが、ニヤニヤしながらバハムートの顔を覗き込む。


「うるさい。事実を言ったまでだ」

「ハデスさんも、随分と甘くなりましたねえ」  ゼルディアが面白そうに鼻を鳴らした。


「三つ目の勢力が動き始めた以上、我々も『役割』に固執している場合ではないということだ」  ソフィアが静かに釘を刺す。


バハムートは、遠く人間界の夜景を映す水晶を見つめていた。  

そこには、小さな部屋で安らかな寝息を立て始めた二人の候補者の姿がある。

「戦うことになるのか、それとも別の道があるのか……。それは、まだ分からん」

「バハムートさんが『分からない』なんて、本当に珍しい夜ですね」

「……そうだな。だが、悪くない夜だ」

巨龍は静かに目を閉じた。  

運命の歯車は加速している。だが、今夜だけは、ただの「親」として、子らの安眠を願いたかった。


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― 新着の感想 ―
流石にレンも考えはするか…颯真のように神に望まれた訳ではなくとも生まれた時から候補者として生き方定められてたようなものだし。 というかおにぎりの話多いな!?神の間でおにぎりの具派閥とかないだろうな(笑
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