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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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候補者と代行者1


 翌朝、ユイは協会に誰よりも早く来た。

 始業は九時だ。ユイが来たのは七時半だった。

 理由は単純で、誰もいない時間に調べたいことがあったからだ。

 自分のデスクに座って、昨日見つけたファイルのことを思い返した。


「候補者は自覚のないまま成長する。これが制度の前提である」

 一文だけ。黒塗りになっていなかったのはそこだけだった。

 でもその一文が、ずっと頭に引っかかっている。

(制度。候補者。自覚のないまま)


 ユイはパソコンを開いた。

 今日は別の経路から調べてみるつもりだ。



 協会のデータベースには、大きく分けて三つの層がある。

 一般職員がアクセスできる「公開層」。

 一定の権限を持つ職員がアクセスできる「制限層」。

 そしてユイを含むほとんどの職員がアクセスできない「機密層」だ。

 昨日見つけたファイルは「制限層」の端にあった。


 閲覧制限がかかっていたのは、ファイルの中身だけで、存在自体は制限層の権限があれば見えた。


 つまり意図的に隠されたわけではなく、単純に古くて誰も見ていなかったファイルだ。

(だから残っていたのかもしれない)


 ユイはキーワードを変えて検索した。

 「候補者」ではなく、「代行者」で。

 一件だけヒットした。


 ファイル名は「DAP_初期報告書_内部資料_ver1」。

 二十年前の日付。

 作成者は「調査委員会」とだけ書いてある。

 ユイはファイルを開いた。

 今度はパスワードが要求されなかった。


 ファイルの中身は、思ったより長かった。

 でも多くの部分が黒塗りになっていて、読めない。

 読める部分を拾っていくと、こういう内容だった。


「ダンジョンの出現は、外部要因によるものと推測される。その目的は現時点では不明だが、調査委員会は以下の仮説を提案する」


「仮説:ダンジョンは、特定の人間を成長させるための舞台装置として機能している可能性がある」

「その特定の人間を、本報告書では便宜上「代行者候補」と呼称する」

 ユイは読む手を止めた。

(舞台装置。成長させるための)


 続けて読む。

「代行者候補は複数存在する可能性がある。現時点での確認数は不明だが、調査委員会は最低二名以上が存在すると推測している」


「代行者候補の特徴として、以下が挙げられる」

「一:ダンジョンの魔力への異常な親和性」

「二:ジョブクラスを超えた戦闘能力の発現」

「三:自覚のないままの成長」

 ユイは画面から目を離した。

 手が震えていた。

(一、二、三、全部)


 全部、レンに当てはまる。


 ユイはしばらく画面を見つめてから、田中係長に電話をかけた。

 始業前だが、係長は大抵早く来ている。


「係長、少しよろしいですか」

「どうした、天城。こんな朝に」

「見ていただきたいものがあって」

 五分後、田中係長がユイのデスクに来た。

 ユイがファイルを見せると、係長は黙って読み始めた。


 長い沈黙が落ちた。

「……知らなかった」

 田中係長が静かに言った。

「係長も知らなかったんですね」

「ああ。こんな資料が残っていたとは」

 係長はもう一度ファイルを読んだ。


「代行者候補の特徴。一、ダンジョンの魔力への異常な親和性」

「はい」

「二、ジョブクラスを超えた戦闘能力の発現」

「はい」

「三、自覚のないままの成長」

「はい」

 係長はユイを見た。


「神代くんのことを考えながら読んだか」

「考えました」

 田中係長は椅子を引いて、向かいに座った。

「俺も同じことを考えた」

 二人はしばらく黙った。

「どうしますか」とユイが聞いた。

「上に確認する。このファイルの出処と、知っている人間がいるかどうか」


「知っている人間が協会にいると思いますか」

「いるかもしれない。二十年前に調査委員会を作れるくらいの組織が動いていたなら、今も何かが続いている可能性がある」


「その場合、神代くんは」

「分からない」

 田中係長は眼鏡を外して、目を押さえた。

「ただ、一つだけ言える」

「何ですか」

「神代くんが自覚のないまま成長しているなら、それを無理に教える必要はないかもしれない。でも」

「でも?」

「知った上で動けるようにしてやりたい。それが大人の役割だろう」

 ユイは頷いた。


「アリサさんにも話しますか」

「話した方がいい。あの人も絡んでいる話だ」


 同じ日の昼、ユイはアリサにメッセージを送った。

「話したいことがあります。今日時間ありますか」

「あります。どこにしますか」

「協会の近くのカフェで」

 三時間後、ユイとアリサは小さなカフェで向かい合っていた。


 ユイがファイルの内容を説明すると、アリサはコーヒーのカップを持ったまま、しばらく固まった。

「……代行者候補」

「はい」

「それがレンくんだと」

「断言はできないですが、特徴が全部当てはまります」

 アリサはカップを置いた。


「複数存在する可能性がある、とも書いてあったんですよね」

「はい。最低二名以上と」

「二名」

 アリサが少し眉をひそめた。

「颯真さんのことを考えましたか」

「考えました」

「私も考えました」

 二人は少し黙った。

 アリサがゆっくり言った。


「颯真さん、昨日レンくんに会いに来て、荒らしの件を認めました。でも理由は「確かめたかった」と言っていた」

「何を確かめたかったのか」

「たぶん」

 アリサは窓の外を見た。


「代行者候補かどうかを」とユイが続けた。

「そうだと思います」

 また沈黙が落ちた。


「レンくんに話しますか」とアリサが聞いた。

「田中係長は「まだ断言できないうちは慎重に」と言っていました」

「私はどちらでもいいと思っています。ただ」

 アリサがユイを見た。


「あの人は、たぶん自分で気づきます。そのうち」

「なぜそう思うんですか」

「なんとなく」

 ユイは少し苦笑いした。


「アリサさんまで「なんとなく」を使うようになってる」

「うつりました」

「レンさんの配信効果ですね」

「そうですね」

 二人は少し笑った。

 その笑いが落ち着いてから、アリサが言った。


「とりあえず、今日は私は普通に配信を見ます。何か変わったことがあれば共有しましょう」

「はい」


「コメ欄の常連たちが、何か知っている可能性も高い」

「バハムートさんが昨日「知っている」と言いましたよ。初めて否定しなかった」

 アリサは少し目を細めた。


「やっぱり、あの人たちは“知ってる“」

「ですよね」

「ロールプレイ勢、じゃないですね。もう」

「ないですよね。とっくに」

 二人は同時に同じことを思いながら、カフェを出た。

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