表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/46

閑話 IF-桜の下の本音

 どれくらい歩いただろうか。


 気づけば、さっきの場所に戻ってきていた。

 校舎裏。

 桜の木が一本だけ立つ、小さな空き地。


「……何やってんだか」


 自分で呟いて、少しだけ笑う。

 もう終わったはずなのに。

 帰るって言ったはずなのに。

 それでも、足はここに向かっていた。


 理由なんて、分かりきっている。

 未練だ。


 どうしようもないくらい、くだらない。

 それでも。


 それでも、ひとつだけ。

 言っておかないといけない気がした。

 このまま終わったら。


 きっと、ずっと引きずる。

 魔王だろうがなんだろうが関係ない。

 そんなのは関係なくなるくらいには──


 好きだった。


「……はあ」


 大きく息を吐く。

 その時だった。


「……あれ?」


 聞き覚えのある声。

 振り返ると、そこにいたのは──


「なんで戻ってきてるの?」


 さっき別れたはずの、あいつだった。


「それ、こっちの台詞」


 思わず返す。

 あいつは少しだけ困ったように笑った。


「忘れ物、取りに来たの」


 そう言って、手に持っていたスマホを軽く振る。


「そしたら、なんかまだいたから」


「……偶然だな」


「ね」


 短いやり取り。

 けれど、その空気はさっきよりもずっと静かだった。

 さっきまでは、“終わった後”の空気だった。


 今は違う。

 何かが始まりそうな、そんな空気。


 風が吹く。

 桜の花びらが、二人の間をゆっくりと舞う。

 まるで時間が、少しだけ巻き戻ったみたいに。


「……なあ」


 気づけば、口が動いていた。


「さっきの話」


「うん?」


「あれさ」


 言葉を探す。

 うまくまとまらない。

 当たり前だ。


 こんなの、言うつもりじゃなかった。

 でも。


 ここまで来たら、もう止まれない。


「俺もさ」


 喉が、少しだけ詰まる。


「好きだったよ」


 言った。

 言ってしまった。


 ずっと飲み込んできた言葉を。

 全部、吐き出した。


 あいつの目が、大きく見開かれる。


「……え?」


 間の抜けた声。

 それが妙に現実味を帯びていて、少しだけ笑いそうになる。


「なんで今さらって顔してるな」


「だって……」


 戸惑いが、そのまま表情に出ている。

 そりゃそうだ。

 終わった話のはずだったんだから。


「いや、まあ」


 頭をかく。


「言うつもりなかったんだけどさ」


 本音だ。

 最後まで、言わないつもりだった。

 このまま全部、なかったことにして終わるつもりだった。


「でも、なんか」


 うまく言葉にできない。

 それでも、続ける。


「このまま終わるの、ちょっと嫌だった」


 それだけだった。

 理由なんて、そんなもんだ。

 魔王とか、人間とか。


 そんなの関係ない。

 ただの、意地だ。


「……そっか」


 あいつは小さく呟いた。

 視線を落として、何かを考えている。

 その沈黙が、やけに長く感じた。


「‥ごめん」


 やがて、そう言った。


「やっぱり、私は──」


「分かってる」


 食い気味に言う。

 それ以上、言わせたくなかった。


 聞くまでもない。

 答えはもう、出ている。


「別に、どうこうしてほしいわけじゃない」


 これは、本当だ。

 奪うつもりも、壊すつもりもない。


「ただ、言いたかっただけ」


 それだけで、十分だった。

 少なくとも。

 何も言わずに終わるよりは、ずっといい。


「……うん」


 アイツは、静かに頷いた。

 その表情は、少しだけ泣きそうに見えた。


 気のせいかもしれない。

 いや、気のせいでいい。

 そうじゃないと、困る。


「ありがと」


 ぽつりと、そう言う。

 何に対しての礼なのかは、分からない。

 でも、きっと。


 この時間に対してだ。

 この関係に対してだ。


「……こっちこそ」


 そう返す。

 それで、会話は途切れた。

 風が吹く。


 桜が散る。

 ひらひらと舞う花びらが、視界を埋める。

 まるで、幕引きみたいに。


「じゃあな」


 俺は、そう言って背を向けた。

 もう、やることは終わった。

 言いたいことも、全部言った。

 これ以上ここにいる理由はない。


「……うん」


 小さな声が、背中に届く。

 振り返らない。

 振り返ったら、終われなくなる気がした。


 一歩、また一歩と歩き出す。

 そのたびに、何かが剥がれていく。

 音も、温度も、記憶も。

 全部。


 全部、遠ざかっていく。

 それでいい。

 それで、いいはずなんだ。


 だってこれは。

 最初から終わるための時間だったんだから。


「……これで、本当に終わりだな」


 誰にも聞こえない声で、そう呟く。

 桜が散る。

 その下で、恋が終わる。


 それだけの話だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ