登録者3人のEランク配信者
配信系の作品作ってみました。
よろしくお願いします
ダンジョンが世界に出現してから、二十年が経った。
最初は混乱した。当然だ。
地面から突然、異空間への入口が生まれ、中からモンスターが這い出てくるのだから。
各国政府は対策に追われ、軍を動員したが、それでも被害は止まらなかった。
だが人類はたくましい。
五年もすると「探索者制度」が整備され、十年後には「ダンジョン資源」が世界経済を動かすようになった。
そして今や、探索者はスポーツ選手と同じ扱いだ。
チャンネル登録者数一千万人超えのトップ探索者が、年収数億を稼ぐ時代。
ダンジョン配信は、現代最大のエンターテインメントになっていた。
――そんな世界に、一人の少年がいる。
「……よし。今日も行くか」
神代レン、十七歳。
探索者ランクはEで、チャンネル登録者数は三人。
同時視聴数はほぼゼロ。
配信タイトルは毎日ほぼ同じだ。
「Eランク探索者、今日も地下二階」
我ながらひどいタイトルだと思う。
でも正直に書いたらこうなった。
レンはヘッドセットを装着し、専用のドローン型配信端末――通称「ダンカメ」を起動させた。
小型のドローンがふわりと浮き上がり、内蔵カメラがレンを捉える。
「えー、始まりました。神代レンのダンジョン配信です」
コメント欄には誰もいない。
今日も静かなスタートだった。
◆
渋谷第三ダンジョン。
都市型のダンジョンの中では規模が小さく、最深層でもせいぜい地下十階程度。トップ探索者は見向きもしない、いわゆる「初心者向け」だ。
レンは地下一階の通路を慎重に進む。
スライム、ゴブリン、コボルト。E~Dランクの魔物が出現するエリアだ。
戦闘力は高くないが、油断すれば刺されるし、噛まれるし、だいたい普通に死ぬ。
「今日は地下二階の新ルートを確認しに来ました。昨日の配信でコメントが……あ、ゼロか。まあ、自分でルート考えます」
画面の隅に表示される視聴者数は「1」だった。
管理用の自動アカウントだろう。事実上ゼロだ。
レンはため息をつき、前を向いた。
と。
コメント欄が、動いた。
【古代龍バハムート】が入室しました
「……?」
レンは画面の隅を見た。
視聴者数が「2」になっている。
(新規さんかな)
最近たまに来る謎の人たちがいる。名前がやたら厨二っぽい感じの、ロープレ勢だろうか。
「あ、いらっしゃいませ。ゆっくりしていってください」
【古代龍バハムート】:…この配信は何だ?
(あ、コメントきた)
珍しい。
「え、えーと、Eランク探索者の日常配信です。渋谷第三ダンジョンを毎日潜ってます」
【古代龍バハムート】:Eランクとは最弱か?
【古代龍バハムート】:暇だから見てやる
「あ、ありがとうございます……」
なんか上から目線だな、とレンは思ったが、久々のコメントに少し嬉しくなった。
そのとき、また通知が来た。
【魔王ゼルディア】が入室しました
【精霊王シルフィード】が入室しました
視聴者数「4」。
「お、おおー。一気に来た」
【魔王ゼルディア】:お、バハムートがいる。珍しい
【古代龍バハムート】:貴様こそ何をしている
【魔王ゼルディア】:同じく暇だ。
【精霊王シルフィード】:わたしもー!この子なんか気になるね!気になるね!
「えっ、知り合い同士なんですか」
【古代龍バハムート】:知り合いではない
【魔王ゼルディア】:まぁ、腐れ縁だな
【精霊王シルフィード】:うん!なかよしだよー!
コメント欄が初めて賑やかになった。
レンは困惑しながらも、なんだか楽しくなってきた。
(RP勢だとしてもキャラ作り込んでるな……)
◆
地下二階への階段を降りたとき、前方の通路でゴブリンが三体固まっているのが見えた。
「んー……三体か。一対一なら倒せるけど、まとめて来られたら面倒だな」
レンは立ち止まって観察する。
慎重なのが彼の性格だった。
無理な戦いはしない。それが長生きの秘訣だと思っている。
【古代龍バハムート】:三体程度、突っ込めばいいだろう
【魔王ゼルディア】:右端から各個撃破しろ
【精霊王シルフィード】:まずHP確認してー!
「あの、三者三様すぎるんですが……」
【古代龍バハムート】:何を悩む?
【魔王ゼルディア】:右だ
【精霊王シルフィード】:右ー!
「二対一で右ですね」
レンは右端のゴブリンへ向かって、ゆっくりと迂回するように移動し始めた。
壁沿いに静かに進み、視野角の死角に入ったところで一体だけを引き離す。
剣を抜く。
一合。二合。三合。
ゴブリンを仕留めると、残り二体が気づいて向かってきた。
「来た……!」
レンは後退しながら、一体ずつ相手をする。焦らず、確実に。
ゆっくりとしたペースだが、確実に仕留めていく。
三体目が倒れる。
合計で二分ほどの戦闘だった。
【古代龍バハムート】:遅い
【魔王ゼルディア】:まあ、死ななかっただけ良しとしよう
【精霊王シルフィード】:やったー!!すごいすごい!
「遅い言わないでください。これが私のスタイルなんで」
【古代龍バハムート】:……まぁ、悪くはない
「あ、ありがとうございます」
褒められた気がした。
‥多分。
◆
三十分後、地下二階の奥でレンはルート確認を終え、帰路についた。
コメント欄では途中から四人目が加わっていた。
【戦神アレス】が入室しました
【戦神アレス】:噂を聞いて来た。なんだこの配信は
【古代龍バハムート】:暇つぶしだ
【魔王ゼルディア】:なぜかやめられない
【精霊王シルフィード】:ねー!この子かわいいよね!
【戦神アレス】:かわいいとは何だ、戦士だろう
【精霊王シルフィード】:かわいいはかわいいだもん!
コメント欄が賑やかすぎて、レンはもはや全部追えていない。
「えーと、今日の配信はここで終わります。新ルート、ちゃんと確認できてよかった。また明日来ます」
【古代龍バハムート】:また来る
【魔王ゼルディア】:明日も見てやる
【精霊王シルフィード】:通知オンにしたよー!!
【戦神アレス】:…次は正面突破を試せ
「いや戦神さん、正面突破は死ぬんで」
【戦神アレス】:それが戦いというものだ
「違います」
レンは苦笑いしながら配信を終了した。
本日の最終視聴者数:5人。
チャンネル登録者数:3人(変動なし)。
コメント数:47件(全員同じ人たち)。
いつもより三百倍くらい賑やかな配信だった。
(ロープレ勢、わりと良い人たちだな)
レンはそう思いながら、ダンジョンの出口へと歩いていった。
一方、その頃。
異世界某所――
「……面白い人間だ」
魔王ゼルディアは呟いた。
バハムートが億劫そうに頷く。
「次の配信はいつだ」
「明日だと言っていたな」
「……通知を設定しておくか」
古代龍が神妙な顔でそう言った。
精霊王シルフィードは既に楽しみではしゃいでる。
戦神アレスだけが腕を組み、真剣な表情で一言。
「あの戦い方……鍛えれば、化けるぞ」
誰も同意しなかったが、全員が同じことを考えていた。
―― 次の配信が、楽しみだ。




