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愚兄が魔王を継ぎました。~ツンデレ魔導士奮闘記~  作者: まあ
第三部 ラグシア、宮廷魔術師になる。
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第六二話

「……義姉上、少しよろしいでしょうか?」

「ラグシア、どうかしましたか?」

「先日、頼まれた物をお持ちしたのですが……日持ちをするものを選んできましたので時間ができたら、シーリング家に」


 スピアとシルドから協力を仰げた翌日、ラグシアは何事もなかったかのように王城へと上がり、宮廷魔術師の職場に顔を出す。

 頼まれていた通りロクシードの甘味を買ってきたのだけど梱包紙にはロクシードの文字などがかかれているため、ラグシアは王城に持ってくる事を躊躇したようで都合が良い時にシーリング家の屋敷に来るようにと頭を下げた。

 ユフィは話を聞いてすでに待ちきれなくなってきているのかそわそわとし始めるのだが、ラグシアは公務を放っておいて良いとは思っていないため、彼女に声をかける事無く、自分の仕事に戻ろうとする。


「ラグシア、もう少し何か反応はないのですか?」

「……ありません。義姉上は現在、シーリング家の領地内の魔獣調査の任を受けているはずです。私としてはそちらの任を優先していただきたいと思っています」

「それは確かにそうなんですけど……そうですね。もう1度、シーリング家の当主と打ち合わせをしてきた方がよろしいですね。確認は大切ですから、ラグシア、行きますよ」


 すぐにシーリング家に行きませんかと言ってくれない事が不満なのかユフィは頬を膨らませるのだけれど、ラグシアにとっての優先順位は公務の方が高い。

 それでも、ユフィはまだ見た事のない甘味に思いを馳せているようでラグシアの手を取る。


「……そう言うわけにはいきません。義姉上」

「大丈夫です。今日から、ラグシアも私の補佐をしてくれるのですから、すぐに終わります」


 ラグシアはユフィを説得しようとするのだけど、非力な彼は義姉であるユフィにすでに引きずられている。

 ユフィは他の宮廷魔術師にシーリング家の領地に行って行くと伝えるとラグシアを引きずって出て行ってしまう。

 王城内の長い廊下ではラグシアがユフィに進言をしているのだけれど誰も彼の味方になる者はいない。


「……ラグシア、振り回されているね」

「言うな。このままで良いはずがない。宮廷魔術師になったわりには先日から、まともに調べ物も仕事もしていない気がするのはなぜだ?」

「リズ、ずいぶんと嬉しそうですね。良い事があったんですか? 先日のラグシアとのデートが楽しかったですか?」


 ユフィの転移魔法でほとんど働かずにシーリング家の屋敷に戻ってきたラグシアを見て、リズは苦笑いを浮かべる。

 ラグシアも働いていない自覚があるようで眉間にしわを寄せているのだがユフィは気にする事無く、リズと挨拶を交わす。

 彼女はロクシードに行った時にスピアとシルドから家族が無事だと言う事を知らされたためか、どこか楽しげであり、ユフィは小さく首を傾げる。


「……ですから、デートと言った物ではないと」

「ラグシア」

「もう、それで良いです」


 ラグシアはデート扱いされるのが納得いかないようでため息を吐くのだがユフィに睨まれてしまい、諦めたのか小さく頷いた。

 その表情は疲れた感じであり、リズはその表情を見てくすくすと笑っている。


「それで、リズはどうしたんですか?」

「えーとですね。このお屋敷に新しい家族が増えるんです」

「……失礼しました」

「待て、アル殿!! それは勘違いです!! これはリズの言い間違いだ」


 二人の姿にユフィは柔らかい笑みを浮かべた後、改めて、リズに何があったのかと聞く。

 リズはシルドから両親をシーリング家に送って貰えると言われた事を話そうとするのだけどその言葉は不適切であり、たまたま、通りかかったアルは気まずそうにこの場から逃げ出そうとする。

 アルに気が付いたラグシアは彼が勘違いしていると察したようで大声で彼を引き止める。


「だ、大丈夫です。以前から、ラグシア様とリズさんは恋仲と聞いていますし。デュメル様がガーランド家を継ぐのですから、シーリング家にご子息ができる事は大変喜ばしい事です」

「私はもう、伯母になるわけですか」

「ち、違います。言い間違いです」

「いつもはラグシアに積極的にアプローチしているのに、自分がその立場になると弱いんですね」


 引き止められ、アルはラグシアに他言しない事を約束するのだが、ラグシアは必死にそうではないと説明する。

 二人の様子にユフィは楽しそうに笑いながら、リズへと視線を移すとそこで初めて、リズはラグシアとアルの会話の意味がわかったようで大きく首を横に振って先ほどの言葉を否定して行く。

 リズの慌てる様子にユフィはくすくすと笑う。


「保護されていたリズさんのご両親がガーランドに来るんですか。それは良かったですね」

「そ、そうです。決して、おかしな意味ではないです」

「はい。シーリング家は現在、人手が足りないため、リズのご両親が領地運営を手伝ってくれるのは喜ばしい事です。この件はすでに父上達にも了承を得ています」


 ラグシアとリズの必死の説明にアルは状況を理解してくれたようで勘違いしてしまった事にバツが悪そうに視線をそらす。

 彼の態度にリズは誤解が解けたと安心したのだが、疲れが一気に出てきたのか大きく肩を落とした。

 ラグシアはリズの両親には領地運営を手伝って貰うのだと念を押し、アルはもう充分に理解したと言いたいのか大きく頷く。


「でも、こう言うのって、他の人が聞いていて、ラグシアとリズがアルさんを引き止めている間にすでにお屋敷中に広がっているんですよね」

「……義姉上、恐ろしい事を言わないでください」

「そうですよ」

「でも、先ほどのラグシア達の姿をたくさんの使用人達に見られていましたよ」


 ラグシアとリズがアルに必死に説明している間にユフィは近くを通りかかった使用人達と目があったようで他の者達が勘違いしていないかと首を傾げた。

 彼女の言葉にラグシアとリズの眉間には深いしわが寄り、二人はユフィに頭を下げた後、廊下を進んで行く。


「アルさん、申し訳ありませんが」

「……当主様は書斎にいると思いますのでご案内させていただきます」


 取り残されたユフィはアルに案内を頼み、アルはこの状況で断れるわけもないため、小さく頷くと彼女を書斎まで案内する。


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