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退廃した世界を渡る詐欺師  作者: 須賀いるか
一流の詐欺師
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弱者の戦い2

 唐突にだが、ドマ鉱山と呼ばれる地名について少し語らせて欲しい。

 ドマ鉱山は僕の住む都市を後ろ盾する宙人そらびとの企業プルートスが保有するレア金属が産出される鉱脈なのだが、近年はコストのほうが大きく近く閉山される予定の場所だった。

 おおよそアングラでホットな話題に取り立たされるはずのない情報だったのだが、宙人の企業カロルがプルートスからドマ鉱山が全盛期だった頃の額で買収を行うという情報がリークされると、その裏事情を巡って色々な憶測が無責任に飛び交うこととなった。

 この地上は宙人が文字通りさいの目状に分割して権利を管理しており、宙人の企業間での売買など珍しい話ではない。けれど、宙人の価値観の基準は一貫して営利至上主義であり、ドマ鉱山のように価値のなくなったモノに大金を出すとなればどうしても悪目立ちしてしまう。

 明るいところでは新技術の確立によるコスト問題の解消、暗いところでは戦争しょうひの取り付け等、色々と議論をされながら注目されていたのだが、件の報道および商談はつつがなく事を終え、単なるカロル側の調査不足、情報不足なのではという結論が出され、この話題も次第に風化されそうになった頃、面白い情報がリークされる。

 担当者がカロルへの亡命を図ったという噂である。なにやらいよいよ持ってキナ臭いと再び騒がれはじめた。出所も真偽も不確かな情報だったのだが、気になって僕自身も少し本腰を入れて探ることにした。

 そもそもアングラでリークされる情報の9割は嘘である。だいたい信頼の置ける情報はそれなりの対価を払わねば得られはしない。例外中の例外として、リークする側に何らかの意図が隠されている場合はそれに含まれないのだが、そんな謀略はだいたいが釣り針が大きすぎて誰もかかりはしない。

 まぁ、今回は釣られることにしてみたのだ。本当にきまぐれに。

 調査すると亡命うんぬんに関しては不明慮、おそらく嘘だとは分かった。ただし商談の場における記録が一切削除されていたことに気付いた、動画も写真もすべてだ。ついでに証文とよばれる紙媒体の契約書を宙人は残すらしいのだが、どうもその所在が確かではないことも分かった。

 手段については直接宙人の舟に乗り込んで調べた。密航がばれると処刑、宙人のネットワークを覗いた形跡や電子金庫バンクを覗いた場合も処刑。今回はやっていないが、データ改竄でもしようものなら、アクセス元の企業が他の宙人のコミュニティから排除されるほどに重い罰がある。

 それなりの覚悟をもって調べたという事実が伝わればいいと思う。それこそ文字通り命を賭けてだ。

 調査の結果、僕の判断としては現状、プルートス側がいつでもこの商談を・・・ドマ鉱山の買収を無かったことに出来るようになっているということが分かった。

 とまぁ、金と政治が響きあう永田町物語りはひとまず筆を置こう。ロボット要素まったくねぇな。


 閑話休題


「で、どうして私から逃げてたのかしら?」

「なに、マリーといちゃこらデートしてたのに嫉妬でもしたのん。ちょーうざいんですけ・・」


 げんこつ!


「-っ、いやほら・・・前のレジスタンスが襲撃予定だったのがドマ鉱山だったのを知りまして」

 奈ミねーちゃんを茶化そうとしたら盛大な口撃(物理)を頂いたので、軌道修正をした。

 大魔王なみねーちゃんに肩を叩かれた後、僕らはゴルベット孤児院の壁に背を預けて会話のやり取りをする羽目になった。

 マリーやアニキも事情を察したのか特に詰問することなくそれぞれの作業に戻っていった。なに、生贄にされた?マリーはそんなことしない、天使だもん。セルカさんのお手伝いで超忙しいに決まっている。ああ、アニキはクズなのでそうかもしれない。

「ドマ鉱山?知ってどうするの」

 格好はタンクトップの上に薄いピンクのカーディガンを羽織り、下はいつものロングスカート。あとまぁ瞳の色を隠すようにサングラスをかけているくらいだった。サングラスの隙間から赤い瞳が僕を詰問する。怒ってはいないようだが、少し焦りの表情が見て取れた。奈ミねーちゃんは想定外のことをされると切り返しの語気が早口になる癖がある。

「いや、まだプルトース側の採掘作業が続いているでしょ。なんなら地質調査すら極秘でやってる」

「しかも、商談は無かったことになるからね」

 事も無げに奈ミねーちゃんは言った。一方的な商談の破棄、なにやら政治の匂いがする。

「以前、レジスタンスを襲撃をした指揮官ね。ステップアップが・・・宙人の企業のそれなりのポストが約束されているの。あとひとつくらい成果を挙げられれば」

「ふぅん。無能だけど世渡り上手な感じなのかな」

 前回の戦争を見る限り、電子情報戦に負けてからの撤退は散々だったし被害もそれなり。とても有能と呼ばれるには程遠い存在だった。

「レジスタンスは戦闘員のPTSDが酷くてね。2割ほどの損耗率。傍から見ればあの戦争の評価は引き分けなのよ」

 僕から見れば勝利に見えた戦争だったが、事後処理を含めると痛みわけだったらしい。奈ミねーちゃんは孤児院の前で騒ぐガキんちょどもに視線を向けながら呆れたように言った。

「・・・奈ミねーちゃん、電子情報戦に手を出してたの?」

「直接ではないけれど、ツールとして起動すれば相手が対処するまでは制圧し続けられる程度のものを提供はしたわ。誰かさんのおかげで最終的に台無しにはなったけれど」

 素直な肯定だった。そしてさらっと嫌味を言われたが優しいまなざしが言葉とは裏腹によくやったと褒めているように感じた。なにこれ、明日槍でも降るのかしら。

 ちなみに、電子情報戦はスタイルによって現場への影響は変わる。例えば僕が行うスタイルは疑心を原点としたスタイル。最終的にシステムへの不信感を募らせ暴走を促すのを目的としている。

 一方、奈ミねーちゃんのスタイルは恐怖を原点としている。一度簡単に講義を受けたことがあるが対象の視界を塞ぎ、情報に偏りがある状態で、つまり一方的な殲滅が行われていると思わせ前線を恐慌状態に持っていくことに重点を置いている。

 以前の戦争を振り返ってみれば、オープンチャンネルで援護を要請するようなことをしていたが、屈強なはずのレジスタンスがオープンチャンネルで助けを求めるなんてありえない。あれこそダミーで流された偏りのある情報だ。目をふさがれた状態で壊滅、逃走、絶命の報告の連続。そんなものを聞かされ続ける兵士にとって、それは拷問に近い。次第に心を折られ、結果的に目には見えない損耗率を叩き出すだろう。

 えげつない。鬼、悪魔、奈ミねーちゃん。

 顔に出ていたのか、おでこにデコピンされた。

「まぁいいわ。ドマ鉱山の防衛戦が近く起こる予定なの。流ガレにはそこへ傭兵という形で参加してもらいたいの」

 なるほど、わからん。詳しく聞かねばなるまい。奈ミねーちゃんもちょっと期待した視線でこちらを見ている。お約束はしないといけない(真剣)。

「なるほど、くわしく」

「思ったより正規軍に被害が出てね、傭兵枠に余りがでたの。用意した手駒だと足りないからあなたの出番よ。頑張ったのが悪い」

「なるほど、さびしく」

「兵隊さんたちがたくさん動けなくなったの。でも私には流ガレ、貴方しか頼れる人がいないの。お願い私を助けて。兵隊さんのお手伝いをしてあげて」

 おおう、思ったより気持ち悪かった。姉の意外な一面を見て衝撃を受けた。けれど奈ミねーちゃんは僕の心中を知らずまだ催促するように視線を向けている。やるの?

「・・・なるほろ、やらしく」

「正規の兵士さんはすっかり萎えちゃってさぁ。そこでアナタの出番。若いんだから何度でもイけるでしょ。私を満足さ・せ・て(はーと)」

 艶やかな声色とは裏腹に渾身のドヤ顔だった。うぜー。

「わたしもっ。私もやります、流ガレ!」

「違うよ、ミュモル。あんな大人になっちゃいけない」


 げんこつ!


 今まで大人しくしていたミュモルに切実な声色で諭す僕に不条理が襲った。暴力系ヒロインの時代は終わったんだよ。今は不思議ちゃんが流行り!時代の流行に逆行するのはよくない。(戒め)

「とにかく、機体はこちらで用意するわ。活躍はしなさい、けれど負けるのよ。これは命令」

 僕の正面に立ち、前かがみで下から覗き込むように僕を射竦める。胸チラ、胸チラしてるから。あとブラはブルーだった。心底どうでもいい。

「・・・政治に付き合うつもりは無いんだけどなぁ」

「あら、そう。でも権力っていい響きよ?」

 うんざりする僕を慰めてるつもりなのか、奈ミねーちゃんは眉根を寄せて苦い表情で言い放った。


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