2話
駅に向かう途中、時々悲鳴やガラスの割れる音、銃声が聞こえてくる。葵は走りながら身震いをした。
『推定138センチ。子供。攻撃対象外。兵士ノ到着ヲ待テ』
「うわーん!おにいちゃーん!」
何かが飛び去る音を聞いて左を見ると、ランドセルを背負ったまま、男の子が倒れていた。もう1人の男の子は、その子に縋って泣いている。2人ともランドセルは雨除けカバーで金具を隠していた。…なのに。
(おしゃれスニーカーの、キラキラ……。だからか)
「11歳なのに、おっきいから死んじゃったよう…!」
葵達は、その子を抱きしめて、家まで送り届けたくなる衝動を堪えながらも走り続けた。
駅の近くは倒れている人だらけだった。葵とカナが来る前に、選別は終わっていたようだ。2人は割れた窓ガラスや照明に気を付けながら、店内に入った。
「スニーカー、あったっ!お金はカウンターに置いておこう。小銭は光らないようにお札を折って挟んで……」
「私も隣のスポーツ用品店でジャージ見つけました。店員さんはレジ裏で隠れてたので、そっとお金を手渡してます」
(家が無事かは分からないけど、手芸屋さんでドアや窓に貼る布も買えたらいいんだけどな。近くに無いんだよね。家族は、弟の留学先の大学に旅行がてら行ってるから、ひとまずは安心だけど……)
葵は靴屋の店内に隠れながら手芸屋の場所を検索した。
(スマホ、なんでまだ使えるんだろう……。ありがたいけど。今のうちに連絡しておこう)
機械音がしないか耳を傾けながら、家族グループへメッセージを入れた。
(お土産に、美味しいビール買ってきてねって言ったけど……。もう会えないのかな)
『お願い、絶対日本に帰らないで!やばいの。難民申請とかなんでもして。生きて!』
既読がつくと、母から何度も着信がきた。他の家族からのメッセージも来るが、スマホをトートバッグにしまった。話している間に気付かれるのが、怖かった。
(ずっとここにいるのも危険かもしれない)
『ホルモン値、測定。妊娠初期、可能性大。保護シマス』
「嫌っ、来ないで!?」
出口の方に歩いている時に女性の悲鳴が聞こえた。
(この声、まさかっ!?)
「いやああぁ!!」
ロボットの箱の中が開き、カナを掴んでコックピットのような席に収納するのが見えた。
『兵士ノ元ヘ、1時間輸送シマス。手スリ持テ。飲食物、簡易トイレ、隣席』
「カナさんを返して!」
ダンッ!
葵がロボットに向かって走り出した瞬間、発砲音がした。パラパラと天井の破片が降り注ぐ。
思わず目を閉じてその場にへたり込む。髪に粉塵がかかった。目元を拭うと、ジャージの袖が真っ白になった。
『保護対象ヘノ、接近ヲ確認。警告。次ハ、ナイ』
ロボットは、背中からプロペラを出すと飛び去って行った。
「あ、あああ……」
『はじめまして。カナって呼んでね?私より年下の女の子、初めて入って来たから仲良くしたいな。
よろしくねー』
『葵ちゃん、管理部門に用事?……今日はちょっとピリピリしてるみたい。
急ぎじゃないならお昼休みの後がおすすめかもー』
(もう、あの綺麗な笑顔が見れないの……?)
(カナさん――)
足が震えて、動かない。葵はカナを乗せたロボットが見えなくなるまで、ただ見つめる事しか出来なかった。




