最終話 嘘の代償
最終話は、美月・澪亜・玲奈の主要人物三人の視点になります。
二ヶ月近い夏休みも明け、中間考査も終了。
付き合い始めて一ヶ月、バイトや大学でも美月とはよく顔を合わせているが、恋人となった俺の生活で1番変化があった事といえば、二人でお金を出し合って、借家に引越した事だろう。家賃は五万円。今までのアパートの家賃は二万六千円だから、折半で少し安くなったかな。
「美月、おはよう!」
「・・・おはよう」
寝起きの美月は、テンションが低い。しかし数分もすれば・・・
「ごっはっん!ご〜は〜ん!!」
こうなる。まるで駄々っ子だ。最初こそ、普段のイメージを覆すギャップに面食らったものの、慣れてしまえばそれすら愛しい。
「はい、どうぞ!」
「いただきます!!」
専ら、料理は俺の担当。今日の朝食は、アジの開きに味噌汁に目玉焼き。朝はやっぱりごはんだろう。
お互いの好みは、面白い事にほとんど一緒だから、こっちとしても楽ではある。ちなみに俺の担当は、料理の他に洗濯と掃除。平たくいうなら家事全般。ただし、朝のゴミ捨ては美月の仕事で、生活費の全般も、美月が出してくれている。
これが夫婦なら、夫が主婦の仕事をし、妻が会社に出勤て構図だ。
「いつも済まないな。私も手伝うから・・・」
起床から15分、いつもの美月に戻った。
「いや、好きでやってるから。それに生活費はいつも美月が出してるだろ、寧ろ感謝してるよ」
俺に出来る事は、家事くらいだ。それにバイト代のみで生活してる俺にとっては、感謝しても足りない。俺に出来る全てを、美月に捧げるつもりでいる。
「それより、今日は学園祭だろ!こんなにのんびりしてていいの?」
「・・・あ・・・」
完全に忘れてたらしい。美月は学園祭実行委員長で、副委員長に村瀬先輩と黒崎先輩の二人がいる。余談ではあるが、黒崎先輩は田尻の恋人に。村瀬先輩と仲根は、良い方向ヘ進展中。頑張れ、仲根!
「それじゃ、先に行く。戸締まりを頼むな。後、忘れ物は・・・」
「・・・?」
ニヤリと口元を歪ませ、美月は俺に近付く。その顔は、まるで近所の悪戯っ子みたいだ。
「行ってきますのチュー!!」
「おわぁっ!・・・ん・・・」
不意打ちだ。いきなり抱き着いてきた美月は、強引に唇をくっつけた。
「んふふ、幸せ・・・」
「光栄です・・・」
再度ギュッと俺を抱きしめて、美月は先に家を出た。・・・あれ?どのみち学校で一緒じゃね?
「・・・ま、いっか」
食器を洗い、早々に着替える。実行委員ではないが、それとは別に、早めに学校ヘ行く理由が、俺にはあるのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
AM9:27
現在、大学本校舎中庭。さすが県内一の規模、学生や一般のお客さんの数が多い!さてと・・・早いうちに見つけ・・・・・・・・・・・・あ、いた!
「相模!」
「!?・・・あ、海棠くん!」
理由とは他でもない。相模玲奈の身柄確保及び保護である。さすがに変装してるから早々バレはしないだろうとは思っていたが、この人間の数・・・バレてしまえば、会場が混乱する。
「よく分かったね!?」
「ん・・・勘!」
大体学生とは、友人を連れてたりする。しかし、単独で行動してるうえ、辺りをキョロキョロと見回してる姿は、ぱっと見、不審者か相模だろう。それだけの理由で、後は勘だ!
「そんじゃ、今日はよろしく!」
「こちらこそ、よろしくね!」
俺は相模さんを連れて、美月達のいる会場裏の控室へと急いだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
学園祭中央ステージ裏、控室
「ん〜・・・・・・」
「・・・」
「む〜・・・・・・」
「・・・」
「う〜・・・・・・」
「「うるさい!!」」
穂乃果と沙那のハモりツッコミが炸裂!いや・・・まぁ・・・ごめん。
「彼女ってか、保護者だよね。完全に」
「・・・同感」
「いや、彼女だから!」
私がそわそわしてる理由・・・それは澪亜がまだ控室に来てないという事と、澪亜が学園祭に相応しいサプライズゲストを連れて来ると言ったまま、私達、責任者にも教えてくれてない事の二つ。
「うが〜・・・!!」
「美月、うるさい!」
お!?この声は・・・
「澪亜!」
「ゲスト連れて来ましたよ!・・・さ、入って!」
澪亜の後ろから、ヒョコッと顔を見せた女の子を見て、その場にいた実行委員が全員硬直・・・え?マジで??
「は、はじめまして!レイナです!今日はサプライズゲストという事で招いて下さって、ありがとうございます!!」
ウワッ!?本物??
「あ、あの・・・」
「澪亜っ!ギャラが!ギャラが!!」
「むろん、ノーギャラ」
マジで!?しかし・・・大物すぎだろ!!
「委員長、挨拶!」
「あ、ああ・・・はじめまして!委員長の九曜美月です!すみません、海棠からはサプライズゲストが誰なのか教えてもらってなくて・・・正直、びっくりしてます!!」
「海棠くん、教えてなかったの?」
「サプライズだから」
あれ?なんかすっごく仲良しっぽい・・・なんかレイナさん、すっごい澪亜を見つめてるし!
「あの・・・海棠とはどういう関係ですか?」
「実は、中学の同級生で・・・私の初恋の人なんです!」
え?・・・ええぇっ!?
「は、初恋・・・」
「あの、九曜さんでしたっけ?・・・海棠くんの、彼女さん・・・ですよね」
「ええぇっ!?どうして・・・」
困惑する私に、レイナさんは私の胸元を指差した。胸元には、澪亜から貰った真珠のネックレス・・・・・・・・・あ、そういえばコレって・・・
「私が海棠くんにあげたネックレスです。海棠くんが好きになった人にプレゼントするようにって!」
「あ!」
レイナさんの言葉で、澪亜との関係につじつまが会う。サプライズで連れてきたレイナさんは、澪亜の同級生であり、今やカリスマモデル。更に澪亜が言ってたネックレスを作った本人である。
私は、小さく息を吐き、今度はしっかりとレイナさんを見つめ、こう言った。
「改めて自己紹介します。学園祭実行委員長で、海棠澪亜の彼女の、九曜美月です!!よろしくお願いします!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
PM1:30 会場特設ステージ裏
ふぁ・・・き、緊張してきた!
海棠くんの彼女・・・すっごい綺麗だったなぁ・・・。ちょっと悪戯で海棠くんは私の初恋の人だって言ったら、やっぱり慌ててた。・・・けどさ、二人の雰囲気に、私は入れないよ・・・。同窓会で吹っ切れたなんて言ったけどさ、ホントはちょっぴり・・・もしかして・・・?なんて淡い期待も手伝って、海棠くんからのメールで出演を決めた。
ま、ここまで来れば、私も大概のバカ。結局、二人の仲に割り込むなんて出来なかったし、イヤミの一つも出て来なかった・・・。
「やっぱり、諦めろって事だよね・・・」
独り言を零し、私は準備に取り掛かる。ロックテイストなファッションに着替え、学園祭実行委員の皆さん、そして海棠くんが準備してくれた最高の舞台に今、私はゆっくりと足を進める・・・。
「レイナさん、お願いします!」
「ハーイ!!」
裏方さんの合図で、私はステージに立つ。正面に、海棠くんと九曜さんの姿。
(二人とも、見ててね・・・)
嫉妬は、無い。今はただ、純粋に二人を応援できる。二人のために、精一杯頑張るから・・・見ててね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
PM2:45
ロックからバラードまで、全力でステージを盛り上げるレイナ。その姿は、俺達を含む観客全てを魅了していく・・・
「凄い・・・」
感嘆の言葉を呟く美月の声も、熱気を帯びた観客に掻き消される。俺は黙って頷き、そのステージの一点だけを見つめていた。
「みんなーっ、盛り上がってるーっ!?」
イエェーイ!!!と一緒になって観客と盛り上がる相模さん・・・いや、レイナか・・・。
ライブなんて初めてだが、自然と体は動き出す。隣の美月は・・・あ、踊ってる!?
「みんな、ありがとーっ!!!最高!!」
全ての曲を歌い終えたレイナだったが、ステージを降りる気配が無い。
「今の曲が最後だったけど、実はみんなに聞いて欲しい歌があるの!」
え?どういう事だ?そんな事、一言も・・・
「実は、昨日書き上げたばっかりで、まだ音楽の段階までは言ってないから、アカペラだけど・・・」
そう言って、ひと呼吸置いたレイナは、再び言葉を紡ぐ・・・。
「みんな、聞いてくれる?」
オオォ!!!
「ありがとう!!・・・その前に、一つ聞いて欲しい事があるの・・・実はね、つい二ヶ月前に、私の初恋は終わりました。意地張ってホントの事言えなくて・・・」
「・・・玲奈」
「素直に気持ちを伝えてたら、もしかして今も、その人と一緒に居られたかもしれない・・・・・・だから、みんなは私みたいになって欲しくない。少しの勇気で、好きな人、恋人に、気持ちを伝えよう!!・・・それじゃ、歌うね!聞いて下さい・・・嘘の代償」
嘘の代償・・・。それは何を意味する言葉なのか、俺にはわからない・・・。けど、その歌声・言葉は、聞く者の心に響く。
美しく、哀しく・・・
「・・・これが、歌なのか・・・?」
〜私は何故、ここにいるの・・・?何故、貴方の側に私がいないの・・・?〜
「・・・相模・・・」
〜もう、ダメなんだ・・・もう、昔には戻れない・・・〜
誰も、声を発しない・・・いや、出せないのだ・・・。
〜あの日、素直に伝えれば・・・私達は今も・・・〜
さりげなく、俺は美月の手に触れる・・・美月はステージに視線を向けたまま、指を絡めて手を握る。温かくて、優しくて・・・
〜現実を受け止め切れなくて、走って、走って、走って・・・〜
手を握り返したら、美月は視線をこっちに向けて、
「大好き・・・」
小さく呟いた。
〜泣いたっけ・・・。時間は心を癒してく。街で見た貴方の隣、笑う彼女・・・〜
視線の先で、初恋の女の子が歌っている。切なく、哀しく、美しい歌を・・・
〜いつか貴方を思い出に出来たら、私はきっと、こう言うだろう〜
〜・・・ずっと好きでした・・・〜
〜笑いあえるその日まで、貴方は貴方のままでいて・・・〜
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それは、彼女なりの精一杯の言葉だろう・・・歌に託し、彼女はこの会場にいる一人の相手に向けて、歌ったのだ・・・。
「澪亜・・・」
「・・・・・・」
無言でこっちを向く澪亜の目に光る、涙・・・。私も何も言わず、澪亜の肩を抱いた。
「・・・行ってこい」
「・・・え?」
「初恋の相手なんだろ?あの歌は、お前だけの歌なんだよ・・・」
何を馬鹿な事、言ってるんだろうか・・・せっかく恋人になれたのに、私は澪亜と彼女をくっつけようとしてる。
「ほら、行け!」
「・・・・・・」
ガシッ!
「なっ!?・・・ふっ!?」
無言で私の手を掴んだと思った瞬間、澪亜は人目も憚らず、私の唇を塞いでいた・・・
「・・・俺の事、嫌いですか?」
「そんな訳ないだろっ!!私は、お前だから好きになったんだ!」
「じゃあ、二度とそんな事、言わないで下さい・・・」
その時の澪亜は、悲しみと苦痛に顔を歪めているように感じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大歓声の中、私のライブは無事に終わった。控室に戻ると、一組の恋人が、私を迎えてくれた。
「お疲れ様、今日はありがとう!」
「うん、こっちこそありがとう!!」
いつの間に準備されたのだろうか、九曜さんは大きな花束をプレゼントしてくれた。白い薔薇の、花束を・・・
「玲奈、好きになってくれて、ありがとう・・・そして、ごめん・・・」
「ううん、私こそ・・・九曜さん、海棠くん、絶対幸せになってね!私も、頑張るから・・・!!」
初めて、素直にそう言えた・・・。それは、私にとって、恋が一つ終わった事を意味してる。・・・でもね、悲しくないんだ。それは次に進む為の、ステップだと思うから・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「澪亜・・・」
「ん?」
「こんな事言ったら、悪いが・・・私は、お前が罰ゲームで人を信じられなくなった事を、神に感謝してるんだ・・・」
「・・・どうして?」
「もし、そんな事なくお前が生きてきたのなら、私はお前に会う事も、お前に恋する事も、なかったかもしれないからな・・・」
全ては、あの罰ゲームがきっかけだろう・・・。
嘘の代償・・・それは、一つの恋の終わりを告げ、新しい恋を生み出したのだ・・・。
レイナには悪いが、私はこの出来事に感謝してる。
今度は私から、さりげなく澪亜の手に触れる。
すると・・・ほら、温もりが伝わってくる。
「澪亜!」
「はい?」
もう、私はお前の虜なんだ・・・だから聞いてくれ・・・
「・・・愛してる・・・」
本日をもって、嘘の代償は完結しました!・・・正直、しんどかったぁ!!話の構想が曖昧で、何処をどうしよう?澪亜の友人達は今後、どう澪亜と絡ませていこうか?なんて考える日々を送り、本日めでたく執筆終了・・・。今作の初投稿から約二ヶ月、振り返ると、あっという間でした。そして、私が実家した事といえば!
「シリアス向いてねぇ!!」
の一言に尽きます。それでも完結を迎える事が出来たのは、外ならぬ読者の皆様のおかげだと実感しております。
最後に、もう一度言わせて下さい・・・
「ありがとーう!!」
文章でしか言えないのが、寂しいですが、ホントに感謝しております!!自作はまだ未定となっておりますが、これからも矢枝真稀とその作品をよろしくお願いします!!
真稀!