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第51話


「そうか、それはいい。ならば、風のウノで歴戦の勇者・アレック・ヴェルビント、お前に任せる。この後の流れを言うから、一度で覚えろ」


 アレックは俺から視線を逸らさず、引きしまった表情で一言一句聞き逃さぬよう耳を傾ける。


「巡礼者らの列に紛れて教会に入ったら、俺たちが偽のぼや騒ぎを起こし一般巡礼者を全て教会の外に退避させる。直後、俺がオルベルの街を覆うように防護障壁を展開する。障壁は無形で無色、たとえウノでも能力に劣る者はその存在すら感じることはないだろう。だが、曲がりなりにも勇者の名を冠したお前なら察知できるはずだ。それに、道中のように風魔力を注ぎ続けろ。高濃度でなくていい、絶えず注ぎ続けることが重要だ」


「任せろ。俺はここまで、この不屈の持久力でやってきたんだ!」


 聞き終えたアレックは、力強く胸を張った。


 不思議なことに、今目の前にいるアレックは、俺が知るこれまでの奴とは別人のように見えた。


「……確かに。やられてもやられても倒れないゴキブリ並みの生命力で、めっちゃ弱いくせに『勇者』と呼ばれるまでになったんだもんね」


「うん、セイ! うちのリーダーなら、きっと打たれても打たれても、細く長く魔力を注ぎ続けるよ!」


「うちのリーダーに……いや、パーティにお誂え向きの役目だな!」


「ああ! オイラたちも手伝うぞ!」


 四人はフォローになっているんだかいないんだかよく分からない台詞と共に決意を叫び、アレックを引っ張ってくると五人で円陣を組んだ。


「エイエイオー!!」


 やれやれ。仲がいいんだか、悪いんだか。


 とはいえ、過去にあれだけいいようにしてやられながら、奴に役目を与えてみせる俺もまた相当お人好しなのかもしない。


「お兄ちゃん! そろそろ正午になるよ」


 その時、車内からチナが降りてきて、俺を手招く。


「ああ、すぐに行く!」


 チナに答え、円陣を解いたアレックたちに向き直る。


「お前たち、オルベルの守りは頼んだ」


「任せとけ!」


 五人から力強い返答を得て、俺たちはウノ教徒らの本拠地である聖魔法教会へと踏み込んでいった。






 聖魔法教会への入場は、スムーズだった。一般開放しているとはいえ猫も杓子も入場可能というわけではなく、門前での身分照会が必須となる。


 俺たちはアルバーニ様が用意した紹介状によって、早々に門戸をくぐることができた。


 入場するとすぐに、本棟の一部に燃料と火を放つ。見る間に炎が燃え上がった。


「火事だ!」


 巡礼者らが叫べば、訓練された職員らは炎と煙が立ち込める中、手早く巡礼者を避難誘導していく。同時に水属性の魔導士らが中心となって消火を試みるが、大量の燃料と共に放火したため、炎の勢いはなかなか収まらない。


 正午に迫る召喚の儀に出向いてしまっているのか、そもそも駆けつけてくる高位の魔導士の数自体が圧倒的に少なかった。このことも追い風となって、ついに職員らも消火を諦めて避難を開始した。


「アルテミア!」


 不要な延焼は俺たちの望むところではないから、全員が避難していったのを確認すると、即座にアルテミアに指示を出す。


「ええ!」


 アルテミアはいまだ延焼に至らぬ本棟の壁に手を宛がい、延焼部に無重力を作り出す。


 無重力下では気体の温度による対流が生じない。そのため、アルテミアが無重力環境を作りだせば、炎は酸素不足でいくらもせずに消えた。


 俺たちは鎮火を確認すると、充満する煙が姿を隠してくれている間に、屋外礼拝施設に続く最短ルートを走りだす。アルバーニ様が入手してくれた教会の見取り図はすでに脳内に叩き込んでいた。そして地下施設への入り口は、屋外の礼拝施設には不釣り合いなほど大きな礼拝像の真下だ。


「この下だ。この先は階段になっている。チナは俺に負ぶされ。セリシアとアルテミアは足元に注意して俺に続け」


 礼拝像の足元にある一メートル四方の戸を引き開けて、下に続く薄暗い階段に踏み出す。


 あえて、光源は持たなかった。五メートルほど行けば、すぐに開けた地下施設に行き当たることを知っていたからだ。


 壁の感触を頼りに、足音を忍ばせて進む。奥からはずっと、祈るような声が聞こえていた。


 案の定、いくらもせずに空間が開け、薄暗さの中にほんの僅かな明るさを感じるようになる。足を止め、目を凝らせば、魔導士らの公式の長衣とは違う揃いのローブを羽織った三十人ほどが、奥の祭壇に向かって祈っていた。


 祈りの声が段々と高くなったと思ったら、ローブ集団から六人が進み出て祭壇に上がり、豪奢な台座に設えられた黒水晶に六人揃って手を添える。


 その動きでひとりのローブが僅かにずれて、フードの隙間から長い赤毛が覗いた。目にして、ピンとくる。暗がりでもそれと分かる、腰まである鮮やかな赤毛は――。


「やめろイライザ! 他の者もすぐに水晶から手を離せ!! さもなくば、デラに体内魔力を食いつくされるぞ!」


 ――ブワァアアアアアーーッッ!!


 俺が叫んだのと同時、黒水晶は木っ端みじんに砕け、中から大量の黒い霧が放出されて六人を包み込む。六人を包んだ霧は渦となり、とぐろを巻きながら天井を打ち破って上空に打ち上がった。


 ……遅かった!! 召喚がなされてしまったか!


「床に伏せて!!」


 アルテミアが鋭く叫ぶ。


 黒い霧が発生させる凄まじい威力の上昇気流が地下施設の天井や壁はもちろん、教会の敷地内のありとあらゆる建築物を巻き上げていき、歴史ある聖魔法教会本棟もガラガラと音を立てて崩れてゆく。


 アルテミアが床を介して発動させた重力制御によって、俺たち四人と黒水晶に触れていたイライザたち六人を除くローブの集団は吹き飛ばされずに済んでいた。


 アルテミアの新魔力がなかったら、ローブ集団は全滅していただろう。


 召喚の儀は遂行され、デラはそれに応えた。ただし俺の睨んだとおり、次元獣の王・デラは人間の浅知恵で対抗できる存在ではない!


 黒い霧の中から上空に次元を割って現れた禍々しく黒光りする城を見上げ、俺はギリリと歯噛みした。


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