諦め
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まあそんなことあって私達は一度親睦を深める会としてある依頼をこなすことになったのだが、その内容は私とケイトの二人で指定のモンスターを全て狩ってくるというものだった。
四人で一狩り行くかと思えばまさかの二人で森の中である。それも特段仲良しとかでもなけば、逆にさっきまで喧嘩してギクシャクした相手とである。
意味わからないしなんならその依頼者は仲間であるガルゼンとマリーナさんだからな。まるで仕組まれてたみたいに事が進んでいて怖いくらいだよ。
「内容は《ジャイアントメルトピード》と《アイリスブルーム》、《閻魔コオロギ》を倒してくること……えっ?」
依頼内容が書かれた紙を眺めていたケイトが「え、正気?」と言わんばかりに目を見開いていた。そこは【デッドレコード】さんに文を読んでもらったので間違いはないのだが、何故ケイトがこんな表情をしていたのかが解説を通してわかった気がした。
《ジャイアントメルトピード》ランクC-
〈高熱を放つ角を持つ大ムカデ。角を巧みに利用し、獲物である《カイライムシ》の殻を溶かして食べる。高温の身体を活かして冬場でも活発に動き回り、手当たり次第に休息をとっている獲物に襲いかかるといった非常に獰猛な性格である。〉
《アイリスブルーム》ランクC
〈虹を意味する花であり、様々な状態異常を引き起こす多用な霧を発生させるモンスターでもある。花そのものに毒性はないが、前述の能力故に食用には向いていない。〉
《閻魔コオロギ》ランクC
〈高い跳躍力と鋭い牙で獲物を仕留める巨大な蟋蟀。高い運動能力に物を言わせて動くもの全てに噛みつく凶暴性があり、彼らが生息する草原は《閻魔コオロギ》以外の動物が存在しないとさえ言われている。
獲物を失った彼らはやがて同族食いへ発展し、爆発的に増えた数を失う。〉
いや、無理だろこんなの。全部Cランクに乗ってる奴らを相手にしろとか正気かよ、と私は舌打ちする。
まあ確かにガルゼンの防具はBランク上位の《ニーズヘッグ》の物を使っていて、彼からすればこれくらいの相手など別に何でもないのだろうとは思う。思うんだけど、今のこっちの戦力はCランクの《アインベル》とD+ランクのモンスターを呼び出せる錬金術士の二人だけである。
なんだあれか、このくらい二人で狩れないとこの先やってけないよという忠告か。これまで格上ばかりに挑んできたが、別に同格だから楽だろうとかそんな甘い考えは一切ないし、寧ろ《ジャイアントメルトピード》の角に焼かれて《アイリスブルーム》の状態異常に苦しんだ挙げ句、最終的に《閻魔コオロギ》に咬みちぎられるという散々な結果になるんじゃないかと想像している(主にケイトが)。
ほぼ同格のアタッカーが二種類とトリッキーなヤツが一つ。魔法もそこまで熟してなければ近接戦闘も得意とは言い難い私がケイトを庇いながら戦えるかと言われたら、出来なくはないだろうけどかなり厳しい。というか一人でも厳しい。
「確かにどれもこの大陸一帯に住まうモンスターですが、今まで戦ったことないですぅ……。」
ケイトは顔を青ざめてそう呟いていた。依頼に書かれたモンスターの恐ろしさに震えているのだろうか。いや、言うまでもなくガタガタと全身を震わせて恐怖におののいてましたね。気持ちはわかるんだけど、この様子だと全くもって戦力にならなそうだよなあ……。
「はあ……もう私がやるしかないじゃんか。」
私はそう吐き捨てるように愚痴を漏らし、武器の右手を軽く振っていた。暫くぶりの戦闘になるし、リハビリも兼ねて行きたいところだが、流石に同格相手に単身で挑むには荷が重いリハビリだと感じた。手頃な相手とやらに出会えると嬉しいが、この森の地形も把握していないからあまり迂闊には動けない……
「無理です……僕じゃ無理……無理です……。」
私はちらりとケイトの様子を窺う。こんな頼りないナリだけど、ここ周辺の地形は頭に入っているだろうと期待を込めてのつもりだ。実際彼も後がないのはわかっているだろうし、目的もなくここまで歩かせるほど落ちぶれている訳でもなさそうだしうん。多分大丈夫だ(淡い期待)。
「ま……まずは手を出さなければ攻撃してこない《アイリスブルーム》から……ううでも……」
しかしオドオドしすぎて頼りないなぁ。しかもねちねちと延々独り言を呟くもので、隣にいる分結構腹立つ。別にケイト一人でやる訳じゃないんだからこっちに相談してくれればいいのに。
「どうせ……どうせ一撃じゃ仕留められないよ……僕のスキルじゃ……無理だよ……。」
「……。」
わざと聞こえるように言ってんのかこいつは、隣に私がいることも忘れて弱音を吐くケイトに少しずつイライラが募る。別に一人でやれって言われてないだろうが、なんでそうやって抱え込むんだよ。
「うう、痛いのは嫌だぁ……けど毒とかならまだマシかな……やっぱ近づきたくないよぉ……」
「……。」
痛いのが嫌なのは同じだが、私は今すぐこいつから離れたい。こんなのと隣なくらいならいっそ一人で終わらせた方が早い気がするんだが。
「……やっぱり僕なんかが冒険者になっちゃ駄目だったんだ……ガルゼンさんに憧れてたけど、僕なんかじゃ……」
いや別にそんなこと誰も言ってないんですけど。なんでそうやってすぐに出来ないって言うんだよ……そういうの凄く嫌いなんだよね、まあ好き嫌いは別に関係ないんだけどさ。
「死にたくない……もう嫌でs」
「煩い気が散る。」
あまりにむかついたもので私はついそう口に出してしまった。隣で呪詛みたく延々愚痴溢されていい気分なんてするわけない。これ以上我慢するのも限界だったので舌打ちしながらわざと目を逸らした。
「死にたくないなら戻ってなよ。一緒にいるだけ迷惑だから。邪魔、帰れ。」
「迷惑って……んな!!」
自分の事を客観的に見れないのかケイトが反発してくるけど、実際迷惑だからね。こっちのやる気まで削いでくる脚を引っ張るタイプの人間だからそれ。自覚してないとかマジかよと思うがそれが当たり前だと根付いてしまったのだろう。コンプレックスとか色々な苦労あって歪んだ性格になってしまったのだろうと同情はするけどハッキリ言って邪魔だ。金はやらん。
「貴女に僕の何がわかるって言うんですか!!」
「ちっ……邪魔。」
ケイトの自分被害者ですアピールをするケイトにいちいち口を出すのも面倒になり、私は一言「邪魔」と切り捨てるように呟くだけのBOTと化した。
「邪魔。」
「……。」
私の呟きに無言になるケイト。キッと私を睨み付けてはいるが、歩みを止める気配はない。無理だ無理だなんて思ってるくらいなら止まればいいのにと思うけど、一体何が彼の原動力になっているのだろうか。その姿は止まりたいのに止まれないといった感じに近い。
「邪魔……。」
「……。」
意地でも反応しないつもりなのか、先程の独り言すら聞こえない。じっと目線を合わせようとすれば、ケイトがわざとらしく逸らしてくる。完全に喧嘩をした小学生みたいなやり取りだけど、私だって降りるつもりはない。
「邪魔。」
「……。」
「まじで邪魔……」
「もうなんなんですかさっきから!!」
そんなやり取りを暫くした後、ついにケイトが折れてキレかかってきた。この感じだと完全に独り言は無意識だったみたいだが、不快なもんは不快だし邪魔でしかない。間違ったことは言ってないよ。
「はあ……それ、こっちの台詞なんだけど。」
「はあ!?なんですか、そんなこと言って楽しいんですか……?」
……楽しくてやってる感じじゃないだろ見てわからないのかよ面倒くさいな。そっちがやって来た事をそのまま返しただけですけどなにか?
「そうやって皆馬鹿にするじゃないですか!!なんなんですか!!実力不足だからって貶して楽しんでるんですか!」
「──ああ、そうだよ。」
そこまで筋違いな事を言われ、まともに反応するのがバカらしくなってきた。怒りとか通り越してここまで来ると呆れる。もう何を言っても無駄なのだろうか、と私は乾いた笑いを浮かべていた。




