コミュ力格差
その後暫く呼吸を落ち着かせ、どうにか理性を取り戻すことができた。何と言ったかまでは覚えていないものの、結構感情的になって暴言を吐き散らした記憶は残っている。
─エニーもケイトも黙りこくっており、現在宿の一室は重々しい空気を纏った静寂に包まれている。その沈黙を破ってくれる存在は、私の膝の上に乗っているフィルだけだ。
「……。」
「……。」
「…………。」
ケイトは俯き、エニーは心配そうにこちらを見つめ、私はフィルの身体を撫でることでわざとらしく視線を逸らしている。暴言を吐き散らかした私がただ一言謝るだけでいいはずなのに、この空気はそれを許してくれない気がして躊躇してしまう。
─後ろめたい気持ちに苛まれ、時間だけが過ぎていく。
時間が過ぎれば過ぎるだけ、私の荒ぶっていた感情は冷めていく。だがそれに比例して彼に対する申し訳なさや、苦労を知らずに軽率に貶してしまったという重責がのし掛かってくる。
このまま黙っていても埒が明かない、というか何を躊躇してるんだ私は。ただ謝れば済むことじゃないか……
「「あ、あのっ!!」」
まるで狙っていたかのようにケイトとタイミングが被り、お互いに「あの……」とか「え……」と中々言い出せずに狼狽えている。なんでタイミングがここまでぴったり合うのか当事者の私ですら知りたいわ。決してこんな展開を狙ってなどいない。
「あっ……先どうぞ。」
「いえいえいえ、お先にどうぞ。」
まあ勿論二人の間に気まずい空気が流れたのは言うまでもない。こういう時はちゃんと相手に譲れる謙虚な人間になるんだよっておばあちゃん辺りが言ってた気がする。言ってないかもしれないがとりあえず譲るとしよう。
「それじゃあ……僕から。改めて謝らせて頂きます、本当にご迷惑を御掛けしました。それにあそこまで真剣に話してくださって、目が覚めたような気がします。」
「あっ、その、恥ずかしいから忘れて……何言ったか私も覚えてないから。」
ケイトはそう言って深々と一例した。根は全くもって悪い子じゃなさそうだけど、さっきのやり取りのせいで少し距離が空いちゃったよな。それに真剣に何とかとか言われると恥ずかしくなるから軽々と言わないでほしい。軽く死ねる。
「いえ、よければ何て言ったかすべてこの場で───」
「ヤメレェ!!!」
彼の提案を速攻で断る。そんな公開処刑されたら死ねる。なんなら自殺できる。もしそんなことしようものならアイツを殺して私も死ぬからな。
「と、冗談を言える立場でもないですね。話はガルゼンさんから聞いています。実力も折り紙つきとなればきっと《ローセ》は受け入れてくれますよ。」
「ああ……うん、ありがとう。」
ケイトの言葉に歯切れ悪くも感謝を伝えることにしたが、最悪この街を裏切る選択を《謎の声》に強いられるかもしれないと思うと、素直に受け止められなかった。寧ろ善意の言葉であるだけ余計に罪悪感が募る。
そうだな……お茶を濁す感じで少し距離をとr
「おお、ここでお揃いだったか!」
扉が開かれると同時に、黒い鎧に身を包んだ剣士ガルゼンが姿を現した。口振りからして私達を探しているようだったが、何か用があるのだろうか。
「それで、その感じだと自己紹介も済んでおるな!レンもケイトも似た者同士だからすぐに仲良くなれる筈だ!ガハハ!」
「にっ……似たmッ!?」
「はいそこ反論するだけ無駄よ~?」
「マリーナさnッ!?」
ガルゼンの後ろからひょこっと顔を出したマリーナさんに思わず驚いてしまった。すっとんきょうな声を出した挙げ句舌を思い切り噛んだ……痛い。
「無口で澄ましたヤツだと思っていたが、中々楽しませてくれるじゃないか。ケイトと同じで照れ屋なんだな!ガハハ!」
「~~~~ッ!!」
舌を噛んだ痛さと悔しさで涙目になりながら、ガルゼンを睨んだ。別に照れてなんてないし、単に恥ずかしいだけだし。
しかし今日顔合わせたばかりなのにここまで距離を詰めてくるとはなんというコミュ力お化けなんだ、そういう姿勢羨ましいと思うよ。
「それでガルゼン、この子の力は測らなくていいのかしら?」
「ああ問題ない、何てったって魔物の子だからな!ガハハ!」
いやいや、当事者の私が言うのもなんだけど問題しかないだろ。あんたらみたいにBランク捻れる実力なんてないからね。そんな期待されたって出ないもんはでないから過剰に期待されたって困るよ。
「まあなんだ、この子の実力はケイトが知ってるだろう!それにさっきの騒動である程度見えてるから問題ない!そうだろう!?」
「は────はひっ!!!」
そう言いながら酔っぱらいテンションでケイトの肩をバンと叩く。まるで全部見えてると言わんばかりの発言でこっちまで固まりそうになる。あんな成りして洞察力とか勘とか鋭い人なんだな、と私は理解したのだった。




