戦闘は視察から
青ざめた表情でエニーがそそくさと走って逃げるのを確認した後、選りすぐりの蜥蜴兵たちの方へくるりと視点を移した。すぐに襲ってくる様子がない辺り彼らなりに理性があるとでもいうのだろうか。
『グシィィィ……』
先陣切って今にも飛びかかろうとしているのは、紫色の皮膚を持つ小型の肉食恐竜のようなモンスター、《ディノスレーター》だ。
《ディノスレーター》ランクD-
〈素早く統率の取れた動きで格上の獲物を疲弊させて仕留めることを得意とする肉食恐竜型モンスター。性格は非常に獰猛かつ命知らずであり、どんな相手にも怖じけず襲いかかる。〉
ふと《ディノスレーター》の卵色の瞳孔がギョロリと見開いて大きくなったように見えた。小型といっても私の身長とほぼ同じかちょっと高めくらいとそれなりに大きめであり、生え揃った牙や鋭い爪も完全に肉食のそれだ。
『ギャアァァァァァァァァッ!!』
周りの蜥蜴らを気にすることなく先陣切って《ディノスレーター》が走ってくる。そのタイミングは丁度、《サンクチュアリザード》が消えてエニーの姿が見えなくなったのと同時だった。
『ザギャ!』
次いで《ディノスレーター》に乗じてヤツに並走してきたのは、頭が蜥蜴で身体が人間という非常にキモい見た目をした緑色の皮膚を持つ全裸のリザードマンだ。だが尻尾や腕にはエラのようなものがあり、普通のリザードマンというにはちょっと魚っぽさがある。
《モリクササハギン》ランクD
〈森に住まう暗殺者として恐れられる蜥蜴型モンスター。人間らしい見た目をしているが言語を解せず人間との意志疎通は不可能とされている。れっきとした変温動物であり、森林に住まうことから寒さに滅法弱い。〉
リザードマンらしい見た目に反して蜥蜴らしく四足歩行で気持ち悪い移動をする《モリクササハギン》。多分説明文からして過去に意志疎通を図ろうとした奴がいるんだろうが、こんな気色悪いものによくコンタクトを取ろうとしたな。
……と考えている間に二体が連続で攻撃しようとしたか、互いに前後にぴったり張り付いて飛びかかってきた。時間差で攻撃し連続攻撃を叩き込むの魂胆としつつ、片方が迎撃されたとしてももう片方が攻撃できるという基本的なフォーメーションを組んでいるようだ。
勿論単純に振りかぶっただけでは前方の《ディノスレーター》は返せても裏の《モリクササハギン》の飛びかかりを喰らってしまう。まとめて吹き飛ばすなら一工夫いれないとな。
まずは《ディノスレーター》を右腕で弾き飛ばし、そのまま《ダークスピア》で裏に張っていたリザードマンモドキの身体を突き刺す。
『ガギャアッ!?』
『ザギョオオオ!?』
カウンターを喰らった二体が大きく吹き飛ばされる。全員で纏めて掛かってこられさえしなければランク差も相まってそこまで苦戦するような相手ではないはずだ。唯一慎重にならないといけない点といえばこちらを睨むD+ランクのイグアナ、《イグアマリン》である。
《イグアマリン》ランクD+
〈多量の魔力を蓄えた蜥蜴が進化した姿であり、近接から遠距離まで多彩なスキルでカバーすることができる。《イグアマリン》が生息する土地は気質が集中しやすいと重宝されている。〉
名前と体色からして《アクアマリン》と掛けているのだろうか。だとすれば《凍水》……即ち水属性のスキルに気を付けないといけないかもな。
説明文を見る限りだと、前方で倒れる二体や《リザードフライ》とは違って沢山のスキルを使った絡め手であるらしい。あまり魔法を主体にするモンスターと合わなかったため、何が来てもいいように警戒は怠らないつもりだ。
《ソニックショット》
《水鉄砲》
《毒吐き》
《油爆弾》
私の視界がスキルの通知を素早く行う。初めてのスキルもあるが律儀に解説してもらう時間もなさそうだ。とにかく予測して回避に専念する。
『ザザシャア!!』
『アーノ!』
『ギシ!』
『ザザア!!』
《リザードフライ》から《ソニックショット》が、
《イグアマリン》から《水鉄砲》が、
《ディノスレーター》から《毒吐き》が、
《クロザンショウ》から《油爆弾》が放たれる。
どれも直線上に放ってくるスキルだったため、まずは《毒吐き》と《油爆弾》の爆発に巻き込まれないように大きくバックステップを取った。
次に防御の厚い右腕で《水鉄砲》を受け流しつつ身体の軸を大きくずらして《ソニックショット》を回避する。結構な威力のあった《水鉄砲》を受けてしまったのは割りと痛いが、これが最善だと思ってやったことだし後悔はしていない。そもそもあの六匹全部の攻撃を避け続けるなんて無理な話なのだ。
だからといってサンドバッグにされるつもりも更々ない。左手でマフラーをぎゅっと掴み、体勢を低くして《ダークスピア》を三匹目掛けて放った。この姿勢の方が力を入れやすくていいかもしれないな。
『ザザン!!』
《クロザンショウ》が自慢の防御スキルである《鎧油》を発動する通知が来た。他の蜥蜴達より前に出ている辺り、こっちの攻撃を受けきるつもりでいるらしい。
『ザアアア!?』
ヤツの驚くような鳴き声とともに漆黒の槍が柔皮を貫いていった。《クロザンショウ》は衝撃に強い分、切断や刺突の武器が弱点である。切れ味の低い武器なら滑りで受け流せるだろうが、流石にCランクの攻撃をなめないでほしいな。
『ガギャアァァァァァァァァッ!!』
今度は《ディノスレーター》が単騎で飛びかかってくる。さっき《モリクササハギン》とのコンビネーション攻撃を潰されたというのに通るはずがないとわからないものかね……と考えながら右腕に癪気を溜めて引っ掻く《カースクロウ》で迎え撃つ。
勢いよく跳んだ《ディノスレーター》の喉元を爪が切り裂く。ヤツの身体が不格好に落下し、《カースクロウ》を受けて自由の効かない身体をばたつかせながら悶え苦しんでいた。
「カナカナカナカナ……」
唯一私に攻撃を仕掛けてこなかった《カナスネーク》が木の枝から地面に降りて私を凝視していた。状況が悪化しているとみて降りてきたのだろうが、《カナスネーク》本体が前線向きのステータスで無いことはこの時点ではっきりとわかっている。
今更ですが50話突破いたしました(。・ω・。)早いですねえ……




