狡猾な頭脳戦
私の後ろにぴったり張り付くように追いかける《ビッグイモータル》。多分あれには既に自我がなくて、上に鎮座する《プレデターマウス》の脚にされているだけだろうし、あの土竜から何か面倒な魔法やスキルが放たれる可能性は薄い。
退路を塞ぐために加減速したり、その本体を使って《プレデターマウス》が処理できる程度の妨害はしてくるだろうが、《ビッグイモータル》のスキルそのものを知っているとは思えないって話だ。
まぁ要するに頭脳戦ってやつだな。こちらが地力で劣るかもしれないが、《プレデターマウス》のスキル《溶解液》は走ってるときには使えないはずだ。この前の猿みたいな《ソニックショット》とか持ってたらかなり面倒臭いがその時はスタミナにものを言わせて逃げ延びてやる。
「ボアアァァァァァァァァ!!」
ああやって威嚇してくるが、《プレデターマウス》本体はそこまで脅威じゃない。他にスキルらしいものを撃ってこないあたり、基本戦術は《溶解液》の一発屋であると確信した。おまけに脚を失いたくないという魂胆が丸見えである。そこまで狡猾な奴じゃあない。
……が問題は下の土竜である。ランクの差なのか直進で逃げても普通に追いつかれるくらいには速い。寧ろ寄生されてるせいでリミッターが壊れてるんじゃないだろうかという挙動をたまにするくらいだ。木や岩にぶつかってもそれを粉砕した挙げ句、何事もなかったようにこちらに突き進んでくる様子は対峙していて恐怖心を煽られる。
私も時々スキルを使ってこないかと時々振り返って動きを見るんだけど、《ビッグイモータル》の爪が銀色に光る金属のような輝きを放っていて怖い。あんなのでズタズタにされたら肉どころか骨まで裂けちゃうよ……。
「ピギィー!?」
木の幹に擬態していたらしい《キノボリトカゲ》や巣を作っていたと思われる電撃蜂、《バチバチ》等のモンスターが《ビッグイモータル》の圧倒的なパワーによって吹っ飛ばされていく。やっぱやべぇなCランク……本気を出せば街とか余裕で蹂躙できるだろうし、この状況はもはや災害だろう。えげつねえわ。
《ヘビーボム》
〈金属の塊を正面に放つ魔法。属性は周囲の気質に依存し、圧倒的な質量で標的を粉砕する。〉
[デッドレコード]の解説に反応して後ろを向くと、《ビッグイモータル》の前足の間から泥団子のような球体がいつの間にか現れていて、それをまるで大きくするかのごとく転がしていた。これそのままこっちドーンしてくるんじゃない!?だとしたら不味くないかこれ。
「グシャァァァァァァァア!」
《プレデターマウス》が勝ち誇ったように鳴き声 (?)を上げた。どれもお前の力じゃないのによくそんな余裕綽々といられるなほんと!!羨ましい……じゃなくてウザイ!!
「グァァァァァアッ!!」
どうせ《ヘビーボム》はかわせまい。だったら狙うは上で気を抜いている《本体》だ!喰らえ全力の《吐瀉攻撃》!!オロロロロロ!
私が《吐瀉攻撃》を放つとほぼ同時に、周囲の土を巻き込んだ鉄の爆弾が放たれた。
「グッ……」
「アジャァァァァァァ!?」
(────ッ!!)
《ヘビーボム》は私の全身に命中し、そのまま身体を大きく吹き飛ばした。顔が、腹が、防ぐのに使った左腕が、その全てにこれまで味わったことない痛みと衝撃が襲ってきた。
《スケルトン》時代に受けた石や石斧とは比にならないダメージで、そのままフッと意識が持っていかれそうになる。吹き飛ばされた身体は重力に従い背中から地面に思い切り打ち付けられ、あまりの痛みに涙だけが溢れそうになる。
……声が出ない。力を入れないと指先ひとつ動かせやしないのだ。因みに奴の反応を見るに、私の《吐瀉攻撃》はしっかり当たってくれているようだ。聴力は最後まで持つとはこのことなのだろうなぁ……とか感傷に浸ってる場合じゃねえな。
(うっ……ゲホッ!!)
すぐに意識を戻すと生き残った右腕で必死に起き上がり、汚物に苦しむ《プレデターマウス》を睨む。下の《ビッグイモータル》がてんやわんや暴れ回るだけでこちらに攻撃してこないってことは、やはり主導権は上の奴にあるんだな。てことは、脳そのものが既に乗っ取られている死体同然な訳か。
……だとすれば攻略法はある。《ビッグイモータル》が襲ってこない前提で、《プレデターマウス》の根元……茎と根の根幹をぶったぎる!!
私は自分の出せる全力を尽くして駆ける。あんまり時間も掛けられないし、今の私じゃ《ビッグイモータル》にはどう足掻いても勝てない。
だがD-ランクごとき私の敵じゃねえ!!連戦続きで疲れてるけど舐めるな糞が!!
「ギシャアァァァァァ!!!」
こちらの接近に気づいた《プレデターマウス》が思い切り《溶解液》を浴びせてきた。強酸によって腐肉が溶け出しているのがわかるし、焼けるような痛みが襲ってくる。
……確かに痛い。だけど気にするほどでもないから引っ込んでてよ!!
私は躊躇なく《吐瀉攻撃》を浴びせた。再び《プレデターマウス》の首がぐわんぐわんと汚物を振りほどこうとする。戦いの途中で汚れを気にするなんてとんだ軟弱者じゃないか。雄だか雌だか知らないけどそんなんに気をとられてちゃあまだまだだって奴だ!
……殺す!《切り裂き》!!
[《切り裂き》を習得しました。]
右腕を水平にして首を掻ききるように《プレデターマウス》の茎を力一杯に切り裂いた。奴の頭は身体から離れ、切り口からは謎の緑の液体がメントスコーラのように音を立てて吹き出している。
「ア“ッア“ガァ“ァ“ァ“ァ“!?」
……単体ではつまらない相手だった。まぁD-ランクなら納得といった感じだ。今回はほんと死ぬかと思ったけど、これがレアケースなのを知ってある意味安心したわ。
私は司令塔を失い、そのままうつ伏せに倒れた《ビッグイモータル》の方を見る。奴も脳に受けたダメージが大きく、既に修復不能なところまで来ていたらしい。もう動くことはないだろう。
お疲れ様……私の強敵。ゆっくり還って休みなさい。
私はその場に腰を下ろし、うつ伏せになって倒れたまだ新しい《ビッグイモータル》の死骸の頭を撫でた。




