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龍は吟じて虎は咆え  作者: 南紀和沙
第二章
13/39

「さよなら」

<登場人物>

虹玉髄コウ ギョクズイ……主人公。峰国王づきの侍従。捕虜となった少女の世話役をしている。

・少女……「青娘」と呼ばれていた謎の少女。青い髪と目をしている。

 いつものように、玉髄(ギョクズイ)は少女に食事を運んだ。

 だが、彼のまとう雰囲気が違うのを、少女は察したようだった。

「玉髄、どうしたの?」

「……君の」

 玉髄は暗い表情を隠さなかった。

「君の、処刑が、決まってしまった……!」

 その言葉を聞いても、少女は泰然としていた。

 揺らぎもしない青い瞳を見ていると、玉髄は感情が(たか)ぶるのを感じた。牢の格子をつかみ、声を張り上げる。

「何か話してよ! 僕は君を死なせたくはない!」

「…………」

 少女は顔を伏せた。その唇から、望む言葉は出てこない。

「だから、なんでそんなに意固地なんだよ!」

「まだ、時じゃないの」

「まだ……って、明日の朝には君の処刑が行われるんだよ!?」

 石牢の中に響く少年の声。暗く熱い空気に、よく通った。

「ありがとう、玉髄」

 少女は静かな表情だった。その頬には、微笑みさえも浮かんでいるように見える。

「でも、いいの。いい機会だから」

「いい機会って、なにが……」

「いいの」

「よくない! 君は知らないの!? 方士と見なされた者が、どんな風に処刑されるか!」

 方士や仙人。つまり、ただ(びと)のおよばぬ力や法を持つ者を殺すときは、その肉体は徹底的に破壊される。復活しないように、怨霊となって化けて出ないように、その魂までも破壊するほどの壮絶な方法が取られる。

「……首を斬り落としたら、舌を抜いて、それから――」

「体をバラバラにされて、灰になるまで燃やされる?」

「知って……たの」

「うん。これでも、そういう力のある者のはしくれだから」

 少女は、事もなげにそう言った。

 玉髄は脱力したように座り込んだ。

「僕には、君を救うだけの力がない……」

 うなだれる少年。

 泰然とした少女。

 どちらが処刑される立場なのか、わからないくらいだ。

「昔っから、力なんてなかったけど」

 玉髄は、背を硬い石壁に預け、深く座り込んだ。状況への絶望は、少年の感覚をすこしだけ麻痺させる。ここに自分がずっといれば時が経たない。そんな気さえしてきた。

 おたがいに無言のまま、しばらく、そうしていた。


「行くの?」

「……ん」

 返事らしい返事もせず、玉髄は立った。膳を取り少女に背を向ける。

「玉髄」

 その時、少女が玉髄を呼び止めた。少年は、そっと振り返る。

「せいぎょく」

「?」

 玉髄は、何のことかわからず、呆けた顔になる。

「わたしの、名前」

 少女は笑っていた。玉髄は目を見張った。


青玉(セイギョク)よ。玉髄」


「青玉……」

 玉髄は、思わずつぶやいた。

 それは青い宝石を意味する。まるで彼女の瞳のように、澄んだ響きの名前だ。

「……綺麗な名前だ」

 玉髄は素直にそう言った。きっといま自分は涙を眼にため、情けない顔になっているだろう。

「青玉、僕は……もっと君と話したかった」

「ありがとう。玉髄は、優しい人だね」

 青玉は、にっこりと笑った。

「その優しいトコ、わたし、好きだよ」

 好きだ。少女のその言葉が痛い。この人を助けたい。けれどそれだけの力はない。不甲斐なさを身に沁みるほど感じた。

「さよなら――青玉」

 別れの言葉。残酷だが、彼自身、思い切るという意味もあったのだろう。

「うん。おやすみ、玉髄」

 だが、少女はさよならには答えなかった。

初出:2009年己丑09月14日

修正:2013年癸巳05月11日

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