第四十六話
異世界で迷子となったハヤトたち。
解決策が見つからないまま時間だけが過ぎていた。
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隣を見るとレグシーは、シクシクと泣き始めてしまった。
強がっていたレグシーだが、俺の妹と同じくらいの歳だろうしな。
俺は、レグシーの頭を撫でようと手を伸ばす。
すると、いきなり剣を抜き俺に切りかかろうとしたきた。
思いがけないそのレグシーの行動に驚いて、冷や汗が一気に噴き出した。
「もう、驚かさないでくださいよぉ。二度と変な真似はしないでください!」
「それはこっちの台詞だ! ちょっと頭を撫でようとしただけじゃないか!」
普段は、どこか間が抜けてるレグシーなのだが、何かトラウマでもあるのだろうか。
頭を触られることに、異常なほど嫌悪感を示したようだった。
「あうぅ、もう疲れて一歩も動けませんー。少し寝ましょう」
レグシーはそういって、荒野にごろんと横になった。
荒野のど真ん中で眠ろうとするなんて、意外と大物なのかもしれない。
しかし、レグシーに眠られたら俺が困る。
もし、今魔物が現れたらどうしろというんだ。
「おい、寝るな! 寝たら変なことしちゃうぞ? おーい!」
俺の必死の呼びかけにもかかわらず、レグシーは寝てしまった。
なんてやつだ。こいつには危機感というものがないのだろうか?
無防備な少女を横目に、ルシアからもらった魔法石を眺めていた。
「ルシア……せっかく会いに来たっていうのに、こんなとこで死にたくない……」
俺が独り言を呟くと、何やらガサガサと変な音が背後から聞こえてきた。
後ろを振り返ると、そこにいたのはなんと巨大なクモの姿をした魔物だった。
「あわわ……、ま、まずいぞこれ。レグシー、大変だ! 魔物が、魔物がああああ!」
俺が慌ててレグシーを叩き起こそうとするも時すでに遅し。
レグシーは、その巨大グモの吐き出す糸で身動きがとれなくされていた。
「ふえぇぇ、なんですかこれぇ。あたしが眠ってる間になんてことをしてるんですかぁ!」
「や、やったのは俺じゃねえ! 寝ぼけてないでなんとかしてくれ!」
レグシーは、必死に身体を動かすも絡みつく糸のせいで剣を抜くことすらできないでいた。
このままでは、この巨大グモに喰われてしまう。
「うぅ、無理ですぅ、身体が思うように動きませんー、勇者さん助けてくださいよぉー」
レグシーの糸をなんとか解こうとするも、鋼のように固くどうすることもできない。
こうなったら、あの巨大グモそのものをなんとかするしかない。
しかし、俺は武器など持ってない。
素手でこの三メートルはあろう巨大グモを相手に戦うことなどできない。
糸にまかれたレグシーに巨大グモがじりじりと迫っていた。
どうすれば、どうすればいいんだ――。
「そうだ、これだッ! これを使おう!」
俺が取り出したのは、赤い魔法石。
ルシアが別れ際にくれた、炎の魔力が込められた魔法石だ。
俺は、素早く両手で魔法石を握る。
しかし、何も起こらない。
「う、嘘だろ? まさかこれも魔力切れ!?」
「ゆ、勇者さん、魔法石を使うには、精神統一をしないといけません、もっと落ち着いて精神を集中させてください!」
そ、そんな!
こんな状況で集中なんて……。
でも、やるしかない、集中、集中だ!
頼む、火の玉よ、出てくれッ……!
俺の両手が赤くなったかと思った次の瞬間、勢いよく巨大グモ目掛けて炎が渦を巻いて襲い掛かった。
全身を焼かれ、ものすごい叫び声をあげながら巨大グモを炎が包み込む。
やがて、巨大グモは黒い炭と化していた。
ルシアが俺の家で使った時よりも、何倍もの大きさの炎が出たことに驚いて腰を抜かしてしまった。
糸に絡まるレグシーを助けようにも、身体が言うことを聞かない。
魔物が焼かれる臭いを嗅ぎつけたのか、他の魔物が俺達を取り囲んでいた。
「ひ、ひえぇぇ、大変ですぅ、魔物に取り囲まれてますぅ」
「あ、あぁ……参ったなこりゃ……」
これは、流石にもうどうすることもできない。
俺が諦めかけた、その時だった。
「愚かなる魔物たちに、永遠の安息を与えん! ≪永久凍結≫!」
どこからともなく、声がしたかと思ったら一瞬で魔物たちが氷漬けにされていた。
そして、突然現れた見知らぬローブの女性。
吸い込まれそうな紅い瞳に長く白い髪。
目を奪われるくらいの美人だ、しかも結構若い。
ま、魔族……か?
助けてくれたんだから、味方だよな……?
しかし、なんだか怒ったような鋭い顔をしてレグシーのほうを見つめている。
そして、糸が絡みつくレグシーのほうへと歩み寄ると再び魔法を唱え始めた。
「おい、ま、待て! やめろおおおおおお!」
レグシーが殺されてしまうと思った俺は、慌てて叫んでいた。
味方じゃなくて敵だったのか!?
と思っていたら、絡みつく糸が消えて自由となったレグシーの姿が目に入る。
「もう、いなくなったと思ったらこんなところで一体何やってるんだか、さ、家に帰るわよ?」
「ご、ごめんなさい、ちょっとドジっちゃってぇ」
状況がさっぱり飲み込めない。
レグシーの知り合いなのだろうか。
「あ、あのこれは一体……」
俺が茫然としていると、話は後とばかりに、再び魔法を唱え始める。
そして、気付いたら、民家の中へと移動していた。
転移魔法だ。
「さーて、ちゃんと説明してもらおうかしらね、レグシー?」
「は、はい、お母様」
俺は耳を疑った。
今、確かにお母様、と言ったような?
こんなに若くて美人な女性がレグシーの母親なのか!?
魔族っていっても人間と同じように年を取るはずなのだが。
若返りの魔法でもあるのだろうか。
そんなことを考えながら命拾いした安心感からか、俺はその場に倒れ込み意識を失った。




