第四十五話
レグシーと荒野をひたすら歩き続けるハヤト。
---
「なあ、レグシー。これ絶対迷子だよね?」
「な、何を言ってるんですかぁ。このあたしが迷子になんてなるわけないじゃないですかぁ!」
明らかに動揺した様子のレグシー。
そんなに遠くないといったはずの村はおろか、人や建物は全く見当たらない。
そんな荒野を数時間も歩かされ、俺はヘトヘトになっていた。
転移魔法さえあれば、一瞬で済む話である。
前に異世界に来た時もラグールが引きこもりだったせいで転移魔法は使えなかった。
一度行った場所じゃないと転移できないそうだ。
俺は、毎回、便利で素晴らしいこの魔法世界でヘトヘトになるまで歩かされている。
しかし、俺も最初のほうはルシアのために、と頑張っていたのだ。
頑張っていたのだが、一向に着く気配がない。
一時間もすれば着く、といっていたはずのレグシーも徐々に疲れを見せ始めていた。
魔物と戦っている分、俺よりも体力を消耗しているのだろう。
そして俺は確信したのだ。
これは、迷子になったに違いない、と。
しかし、レグシーはその事実を認めようとしない。
「迷子じゃないなら、数時間歩きっぱなしなのに、どうして村が見えてこないですかね?」
「うぅ、ごめんなさい。実は勇者さんの言うとおりですぅ。で、でもでもぉ、あたしはロギ様にくっついてることが多かったから、一人で魔界を出歩くなんてことがなかったせいなんですぅ」
俺が問い詰めると、ようやくレグシーも認めたようだ。
必死に言い訳をしているようだが、迷子になったのならもっと早く言ってもらいたかった。
しかし、これからどうするか。
「なぁ、お前も魔族なんだろう? ならさっきいってた『声』を聴けば人がいる方向がわかったりしないのか?」
「うーん、あたしの場合は魔力がないので、人間よりもほんの少し耳が良い程度なんですぅ。だから、こんな人気のない場所では、何も聞こえませーん。困りましたねぇ、どうしましょうか。そうだ、ロギ様に助けてもらいましょー」
やっぱり使えない子だったか。
しかし、こんなところで行き倒れなんてまっぴらごめんだ。
けど――。
「おいおい、ロギに知られないように、この変なネックレスをつけてるんだろ? それなのにロギに助けを求めるなんて、元も子もないじゃないか!」
「そ、それはそうですけどぉ、このままだとあたしたち魔物の餌になっちゃいますよぅ? 疲れたところを狙われたら、一発でお陀仏ですぅ」
うーん、確かにそれは困る。
俺が魔物と戦ってるわけじゃないし、偉そうなことを言える立場でもない。
しかし、ロギに頼るというのはどうにも抵抗がある。
そんなことしたら、借りを作ってしまうことになりかねない。
「他に、他に何か方法はないのかよ! そもそもどうやってロギに助けを求める気なんだ?」
「えーとですねえ、この魔法石を使えば、遭難してることが周辺地域に伝わるのですぅ。だからロギ様が魔界にいれば転移魔法ですぐ駆けつけてくれると思いますよぉ。ね、そうしましょう?」
レグシーはどこからともなく黄色い魔法石を取り出した。
どうやらこれを使えば、周囲に救難信号が出せる仕組みらしい。
他に方法はないし、使ってみるか。
もはや手段を選んでいられる状況ではないしな。
「わ、わかった、そうしよう」
「では、使いますねぇ。最初からそうすれば良かったですねぇ」
魔法石を握り使おうとした次の瞬間、レグシーの顔が青ざめていくのがわかった。
そのまま硬直したまま押し黙っているレグシー。
「どうした? 何か問題でも起きたのか?」
「ご、ごめんなさい、魔力切れみたいですぅ。魔力が切れた魔法石は、どこかで魔力の補充をしないと使えないのですぅ。滅多に使う石でもないのでうっかりしてましたぁ。うぅ、どうしましょう。勇者さん、これは大変なことになっちゃいましたよぅ。あたしじゃ魔力の補充はできないですしぃ」
な、なんだってぇええええ。
もやは打つ手なしじゃないか。
どうしたらいいんだ、とりあえず落ち着け、落ち着くんだ。
このままだと、本当に魔物の餌になっちまう。
「ほ、他に使える魔法石はないのか?」
「えー、他は姿を消す魔法石くらいしかないですぅ。あたしは戦士ですからねぇ、道具にあまり頼らない主義なんですぅ」
胸を張ってそんなこと言ってる場合か!
闇雲に歩いたって、どうこうなるような場所じゃなさそうだし。
「じゃあ、あれだこの世界に来るときに使った転移魔法石! あれでもう一回、元の世界に帰ろうぜ。な?」
「そ、それも無理ですぅ。あれは異世界間の移動という莫大な魔力を消費するため、行きと帰りの二回で精一杯、魔力がもう残ってないですぅ」
…………。
完全に詰んだ。
もうどうしようもない。
せめて、日が昇ってくれれば方向くらいはわかるもんだが、地下世界に太陽はない。
光りを放つ石が、地面に無数に散らばってるため、真っ暗ではないが薄暗い世界なのだ。
そのため、昼なのか夜なのかすらわからない。
薄気味悪い魔物の声だけが荒野に響き渡っていた。
歩き疲れた俺たち二人は、どうすることもできずにただその場に座り込んだ。




