番外編7
アカネ視点の番外編。
ハヤトが部屋から出て行ったあとに、一人取り残されたアカネ。
アカネが一人泣いていると、ケイコがそっと部屋に戻ってきた。
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「アカネも、振られちゃったんだね」
いつの間にか、ケイコが部屋に戻ってきてたみたい。
アカネも、ってもしかしてケイコも――?
「なに、もしかしてケイコもハヤトのことが好きだったの?」
「う、うん、ごめんね、黙ってて。アカネのことだから私に遠慮するんじゃないかと思って言い出せなくて」
私は自分のことで精一杯で、ケイコがそんな風に思っていただなんて知らなかった。
はあ、私はハヤトだけじゃなく親友のケイコにまで嫌な思いをさせていたようだ。
「あーあ、なんでこんなことになっちゃったんだろうね。ハヤトはルシアさんのことが好きだから仕方ないけど、ちょっと悔しいな」
「そうだね、でもこれで良かったんじゃないかなあ。私、振られたけどなんだかスッキリしてるんだ」
ケイコは強いんだね。
私は、ハヤトに振られるのが怖くて、ずっともがいてもがいてもがき続けて――。
ハヤトもルシアさんも、自分自身も傷つけて――。
ケイコの気持ちなんて考えたこともなかったのに。
ケイコは私の気持ちを知りながら、ハヤトへの気持ちも押し隠してたなんて。
私よりもずっと、ずっと辛かったはずなのに。
「でも私は、諦めるつもりはないから! ハヤトが振り向いてくれるまでずっと待ってる、そう決めたの」
「そっか、アカネは強いね。私はもうこれ以上ハヤトを好きでいるのが怖くなっちゃった」
そんなことない、私は弱い。
弱いからこそルシアさんに嫉妬して、秘密をばらしたりもした。
さらには、カズミからハヤトがルシアさんと温泉に来ることを聞いて先回りしたりした。
ハヤトたちを困らせるために――。
「私も辛い、辛いけどさ。でも、私は逃げたくない! ハヤトを諦めたくない!」
「そっか、そうだよね。なら私も諦めないことにする、ふふ、アカネとはこれからはライバルだね!」
私は気丈にふるまって見せた。
でも、もうルシアさんの一人勝ちなんだよね。
「よーし、じゃあ気分転換に温泉いこう、ね? うん、もうこの際だから嫌なこと全部忘れて心も身体もリフレッシュしちゃお!」
「うん、そうだね、せっかくの……せっかくの温泉だもんね」
「ちょっと、何泣いてるのよ。もう、いやなこと忘れるって言ってるでしょ! さ、ほら、行くよ!」
辛いときでも、一緒に笑える親友がいればそれも乗り越えられる。
同じ人を好きになったライバルだとしても、親友は親友だ。
そう思えるのも、二人とも振られたから、なのかな?
でもきっと、この先に何があっても私はケイコとはずっと親友でいられる、そんな気がした。
温泉に入ろうとすると、そこには憎き仇がいた。
そう、ルシアさんだ。
何か文句の一つでも言ってやろうかと思ったけど、やめた。
気分転換にきた温泉で言い争いなんてしたくなかった。
いや、それよりも私はもう負けを認めていたのかもしれない。
ところがそんなルシアさんが思いもよらないことを言ってきた。
「あ、アカネさん、お願いがあります。もし私が異世界に帰ったら、ハヤトのことよろしくお願いします」
私が返す言葉もなく戸惑っていると、そのまま温泉を出ていってしまった。
そういえば、ルシアさんは異世界から来たという話だったな。
今でも信じがたい話だけど、本当に、本当にそうだとしたら――。
ルシアさんさえいなくなれば――。
でも、そんなんでいいのかな。
私は、私は――。
「どうしたの? ルシアさんに胸が小さいとでもバカにされたの?」
「ううん、なんでもない……ってちょっと、何よそれ! 遠回しに悪口いってない? ねえ? ケイコ?」
私の気持ちを知ってか知らずかケイコは冗談交じりにそう言ってくる。
そういえば、最近はケイコともろくに会話をしてなかったなあ。
「あはは、冗談だってば! うんうん、やっぱりアカネはそれくらい元気なほうがいいよ!」
「何よそれー! 私だって、落ち込んだりすることだってあるんだから! ケイコだって最近、ずっと暗かったじゃない! そうやって笑ってたほうが可愛いわよ!」
そういって、ケイコの頬をつねって無理やり笑顔を作る。
私たちは、まるで小学生のように無邪気にはしゃいでいた。
そう、ハヤトに振られたという事実を忘れるかのように――。




