第三十八話
旅館の部屋へと戻り食事を済ませたハヤトは、ルシアと仲良くあることをしていた。
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「へへっ、また俺の勝ちッ!」
「あーん、もうハヤトは強すぎですう」
俺は、ルシアと仲良くトランプをやっていた。
ルールを覚えたばかりのルシアに、本気で勝ちに行くというプレイをして楽しんでいた。
こうでもして気を紛らわせないと、どうにかなってしまいそうだったのだ。
部屋でルシアと二人きりだなんて、意識するなというのが無理な話なわけで。
しかし、こうやって一緒に遊んでいる、それだけでもすごく幸せだった。
だが、今はこんなことをしている場合じゃない、修学旅行じゃあるまいし。
俺は意を決してトランプを片づけると、ルシアの顔を見つめた。
何か言わなければ、と思いつつも恥ずかしくて何も言い出せない。
くそう、俺の意気地なし、根性なし!
何か、何か言わなければ。
「ゆ、浴衣よく似合ってるよ」
「え、あ、ありがとうございます、ハヤトもよく似合ってますよ」
声が上擦りながらも、なんとか話をしようと必死な俺。
どうしても浴衣姿のルシアの胸元に目がいってしまう。
慌てて視線をそらし、何か話題でもないかと頭をフル回転させる。
「あ、あの……そろそろ寝ませんか?」
俺が何を言おうか考えて黙り込んでいると、ルシアがそう言ってきた。
な、なんだとおおお、これは俺を誘っているのか!?
どうする、どうするのよ俺。
「あ、ああ、そ、そうだな、もうすっかり夜だしな」
そう言ってすでに敷いてある布団へと勢いよく転がり込む。
心臓が激しく鼓動し、体中から汗が噴き出てくる。
しかし、実際何をどうしていいかもわからない。
落ち着け、落ち着くんだ。ここは俺が優しくリードしなければ。
お父さん、お母さん、今日で僕は大人の階段を上ります。
と、一人アホなことを考えていたら、ルシアは普通に寝ようとしている。
「あ、あれ?」
期待外れなルシアの行動に驚いた俺は、つい変な声を出してしまった。
布団に入って横になっていたルシアが、その声に反応して上体を起こしてこっちを見てくる。
「あ、えーと、そ、そうだな。うん、長旅で疲れたもんな、今日はゆっくり休もうか。おやすみルシア!」
「はい、おやすみなさい」
お父さん、お母さん、僕は今日もヘタレでした。
というか、一人で浮かれてただけだったようです。
ルシアはただ単に異世界の宿屋の感覚で、特に意識をしてなかったわけだ。
はー、何を考えてたんだろう俺。
こんなんじゃ妹にムッツリといわれても否定できないなあ。
俺はすっかり現実に引き戻されてしまい、すっかりと意気消沈していた。
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いや、ダメだ。
せっかくユウジが作ってくれたチャンスを無駄にするわけにもいかない。
ここで、ここで諦めるわけにはいかないのだ!
「ルシアッ!!」
俺が勢いに身を任せて名前を叫ぶ。
ルシアは、驚いた様子で飛び起き枕を両手に抱えながら、きょとんとして首を傾げている。
「俺は、俺はルシアのことが――」
そうだ、ずっと言いたかったことを、今ここで言わないでいつ言うんだ!
言おう、言ってしまおう!
「ルシアのことが好きだッ!」
言ってしまった、体中が燃えるように熱い。
心臓が脈打つ音が聞こえてくるぐらい、激しく鼓動している。
「ええ、私もハヤトのことが大好きです!」
満面の笑みを浮かべてルシアがそう言ってくれた。
そして、そのまま流れに身を任せるようにルシアと――。
まるで、まるで夢のようだ。
そう、まるで……夢の……。
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ハッ!?
い、今のは……ゆ、夢!?
結局、意気消沈したまま寝てしまったらしい。
夢オチとか、まじ勘弁してくれええええ!




