第三十一話
温泉旅館に到着したハヤトたち、車から降りるとそこにいたのはなんとアカネとケイコだった。
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「抜け駆けなんていい度胸じゃない」
俺が車を降りると待ってましたと言わんばかりにアカネが腕組みしていた。
「おい、ユウジ! お前また……」
「いや、俺はアカネに言った覚えはないぞ。話したのはケータくらいで……」
ユウジがまた余計なことをしたのかと思ったらそうでもないらしい。
まさか盗聴機や発信機が仕掛けられてるんじゃないだろうな?
それともケータが実はケイコだったとか?
「何をごちゃごちゃいってるのよ! とにかく今日は私たちも同じ宿に泊まることにしたから覚悟しておきなさい?」
「覚悟って……あのなあ、それよりルシアの秘密なんでバラしたりしたんだよ?」
アカネがルシアではなく俺に突っかかってくる。
俺は少し怒り気味につい言い返してしまった。
あの時のことはユウジの気持ちを汲んでなかったことにしようと思ってたのに。
「え、あ、そ、それは……その……わ、悪かったわ。でもハヤトが悪いのよ! 私の話全然聞いてくれないし……」
「は、話……? べ、別にちょっと忙しかっただけで話を聞かないつもりだったわけじゃ……」
強気な態度だったアカネが一変し、急に弱々しくなった。
俺もつられて弱気になる。
そういや放課後の話がどうたらって流れたままだったな。
「まあまあ、そんなケンカしないでさ。せっかくの温泉なんだし楽しみましょう、ね?」
「ああ、そうだな……」
ケイコがそうやってなだめてくる。
ケイコだってアカネのことを聞いてくれるよう頼んだのにどうなってんだ?
もしかして、まだ聞いてないのかなあ。
でもこの様子だと、アカネって俺に気があるのか?
これで勘違いって言われたらものすごく恥ずかしい。
ユウジにも勘違いはほどほどにしとけよ、といわれてるし自信が持てない。
そんな俺の様子を見てユウジは今日も笑い転げている。
くそう、他人事だと思って楽しんでやがる。
最近は全然フォローしてくれないな。
「ほらほら、あなたたちこんなところで立ち話してないでさっさと中に入りましょう?」
まさに鶴の一声。
さすがは腐っても教師というだけはある。
レイケツの一言でようやく皆動き出した。
「なあ、ケイコ。あの話どうなった?」
「ご、ごめん、まだ聞いてなくって……」
移動中にそれとなくケイコに話しかけた。
「あー、やっぱりそうなのか、ならもう聞かなくていいや。うん。自分のことは自分でなんとかする」
「え、で、でも……」
俺がそういうとケイコがものすごく困ったような悲しそうな顔を浮かべた。
「お、おいおい、そんな顔するなって、別にケイコが悪いわけじゃないんだしさ」
「え? あ、そうじゃなくて……その……ううん、なんでもない、そうだね。がんばってねハヤト」
なんか言葉を濁してる感じがするな。何故だろう。
それに何をがんばれというのだ。
そして、今晩泊まる部屋に着いた。
「あ、あれ? 二人部屋? ああ、ユウジと同じ部屋なわけか」
「あ、あの……私もこの部屋らしいのですが……」
俺の後に立っていたのはルシアだった。
ユウジの野郎、何考えてんだ!




