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第二十七話

 翌日の昼休みにハヤトはユウジと口論していた。


---


「いい加減にしろよユウジ! お前はいつも能天気すぎるんだよ!」

「どうしたハヤト、そんなムキになんなよ。冗談だってば!」


 きっかけは些細なことだった。

 ルシアのことでいつものように冷やかされた、ただそれだけだった。

 ルシアに言いたいことを言えないもどかしさで、イライラしていたのかもしれない。

 いつか帰ってしまうかもしれないという焦りもあったのかもしれない。


 それに加えて、ユウジのこの能天気さに腹が立っていたのだ。

 ヘラヘラ笑いやがって、どうせ俺のことなんて面白おかしく見てるだけなんだろ?

 ウジウジしてる俺の姿を見てだっせえとか思ってるんだろ?

 そりゃそうだよな、ユウジは教師の家に押しかけちゃうくらい積極的だもんな。

 俺みたいに一緒に住んでても何もできねえ情けない男とはワケが違うもんな。


「もうお前とは話もしたくねえ。どっかいけよ!」

「……! ああ、わかった。もう俺もお前のことなんて知らねえよ! 勝手にしろ!」


 ついカチンときてそういってしまった。

 全部ユウジが悪いんだ。

 ユウジがアカネを家に連れてこなければ――。

 ユウジがクラスの連中にバラさなければ――。


「ハヤト、どうしたんですか? ユウジさん、怒っていっちゃいましたよ?」

「いいんだよ、あんなやつ。もう絶交だ!」


 いつもなら、笑ってやり過ごしてくれるユウジが今回ばかりは本当に怒っていたようだった。

 少し言い過ぎたかな……?

 アイツだって悪気があったわけじゃないんだ。

 それはわかっている。


 けど――。


「二人がケンカなんて珍しいですね」

「か、カズミ!? いつからここにいたんだ?」


 いきなり、ぼそっとカズミが言ってきた。

 小さいから気付かなかった、なんていったら失礼だろうか。


「ずっといましたよ。少し気になることがあったものですから。そんなことよりいいんですか? ユウジはずっとあなたのことを心配していたんですよ?」

「は、知るかよ。あんないい加減なやつ。心配なんて上っ面だけで、本当は楽しんでるだけなんだよ。そういうやつなんだ」


 そうだ、あいつはお調子者だからその場が良ければすべて良し、なんてそう思ってるに違いない。

 心配? ただ自分の遊び相手がいないのがつまらないだけだろ。


「ふー、やっぱり知らないんですね。あの話のこと……」

「なんだ、あの話って。レイケツのことか?」


 イラっとしていたため、つい口が滑った。

 さすがに、生徒と教師が付き合ってるなんてことがバレたら大問題だろうし一応黙ってはいたのだが。

 昨日の買い物のあと余計な道草くってたせいか、ルシアの機嫌がまた悪くなっていた。

 そのせいもあって俺はイライラしていたのだ。

 だから、ユウジに八つ当たりしたのかもしれない。


「レイケツ? なんのことですか?」

「え、ちがうのか。じゃあなんだよ」


 しかし、そのことではなかったらしい。

 まあユウジとレイケツが付き合ってたところで、それは今は関係のない話だな。

 ほかに思い当たることはないが。


「ハヤトとルシアさんの秘密を最初にバラしたのは、アカネさんなんですよ」

「え?」


 淡々と語り続けるカズミ。

 予想外の話に俺は上擦った声をだしてしまう。

 どういうことだ?


「なぜかは私にもわかりません。でもユウジはアカネさんを庇ったんですよ。ハヤトとアカネさん、そしてルシアさんのことを思って、自分に怒りの矛先を向けさせたんです」

「な、何言ってんだよ、アイツがそんなことするわけが……大体隣のクラスなのになんでそんなこと知ってるんだよ」


 アカネがバラした、何故――?

 いや、そもそもなんでそれをユウジが庇う必要があるんだ?


「そんなことはどうでもいいんです。ユウジは、いつもあなたのことを心配していたんです、それだけは知っておいてもらいたかった。それだけです」


 そう言うと、カズミは静かにその場を去って行った。

 俺は、俺は何かとんでもない勘違いをしていたんじゃないだろうか――。

 そうだ、ユウジはいつだって俺のことを気にかけてくれていた。

 それなのに――。


 いつも二人でバカなこと言い合ったり、アホなやり取りしたり、それでも互いに傷つけるようなことは言わなかった。

 俺は、一方的にユウジが悪いと決めつけて、ひどいことを言ってしまった。

 もう話をしたくない、なんて。

 いつものユウジならそんなこといっても笑って許してくれる、そう甘えていたのかもしれない。

 でも、アイツは予想に反して本当に怒ってどっかへ行ってしまった。

 

 そういえばユウジが怒ったとこなんて初めて見たな……。

 真実を知った俺は、激しい後悔に苛まれるのだった。

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