第二十六話
ハヤトはルシアの服を買うために隣町の商店街にやってきていた。
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「わー、いろんなものがあるんですねー」
人目を避けるために少し遠くの商店街までやってきた。
ルシアは初めて見る光景に目を輝かせている。
昨日の罪滅ぼしもかねてルシアの服を買いに来たのだ。
さすがにルシアが持ってきた華やかな衣装では目立ちすぎるという理由もある。
いつまでも制服か妹の小さい服を借りてるだけじゃ可哀そうだしな。
「あー、これかわいいですー! 見て見て! こっちも!」
「お、おい、そんなにたくさんは買えないからな?」
そういいながらはしゃぐルシアの姿が何とも可愛らしい。
異世界人とはいえやはり買い物となると女の子は楽しいもんなのだろうか。
そういえば、女の子と二人きりで買い物なんてまるでデートみたいじゃないか。
そう思うと、すごく照れくさく感じた。
俺に彼女なんて無理だって、そう思って諦めてたが、こういうのもなんかいいな。
「ねー、ハヤト、どっちが似合うかな?」
「ルシアなら何着ても似合うさ」
どっちが似合う、と言われてもセンスのない俺にはどう答えていいかがわからない。
適当に答えたのがまずかったのだろうか、なんだか怒らせてしまったようだ。
機嫌を取りにきたはずなのに何やってんだろう俺――。
「そ、そんな怒るなって! ほ、ほら試着もできるから着てみたらいいんじゃないか?」
「お、怒ってなんてないです! ちょっと試着してきますね」
そういって試着室に入っていった。
ただ待ってるのも暇だし、これからどうするか考えないと。
今日一日は特にルシアのことで問題も起こらなかったし、学校はこのまま通えそうだ。
ネッケツはまだ知らないみたいだし、しばらくは平気だろう。
アカネも特に話しかけてはこなかった。
ケイコはアカネに俺のことをどう思ってるか聞いてくれたのだろうか?
情報が入ってこないと、次の行動に移しにくいな。
「ハヤトー、どうでしょうか?」
「良い! すごく良い! でもちょっと大胆すぎる、かな」
ルシアが少し恥ずかしそうにしながら試着室から出てきた。
俺が見るだけなら、ものすごく素敵な服だ。ずっと見ていたいくらいに。
でもただでさえ可愛いルシアがこんな服着てたら世の男どもがほっとかないだろう。
それはまずいので他のを勧めることにした。
結局予定よりもたくさんの服を買ってしまった。
ルシアの喜ぶ顔が見たい、ただそれだけだった。
女に貢ぐ男の気持ちなんて一生わからないって思ってたのになあ。
やべえ、今月は節約しないとマズいな……。
「今日はとっても楽しかったです! 服もこんなにたくさんありがとうございました」
「昨日はどこもいけなかったしな。他にもやりたいことがあるならなんでも言っていいからな?」
買い物を終えて帰宅途中、ルシアが照れながらも満面の笑みでお礼を言ってきた。
もう昨日のことは怒ってなさそうだ。
今なら……今なら言える気がする。
ルシアのことが好きだと――。
「あのさ、ルシア……ん?」
俺が言いかけると、ふと遠くにユウジの姿が見えた。
しかも、レイケツと二人仲良く歩いていた。
あ、やっぱりあの二人はそういう仲だったのか。
いや、でも偶然会っただけかもしれない。
「どうかしましたか?」
「あ、いや、ちょっと用事ができたから先に家に帰っててくれ」
そういって俺はユウジに気付かれないようにそっと後をつけた。
ルシアも連れてきても良かったんだが、二人だと目立ってすぐバレる気がしたのだ。
なんでこんなことをしてるのか、自分でもよくわからない。
ただ、秘密をあっさりばらしたユウジにどこか怒りを覚えていたのかもしれない。
それで俺もユウジの秘密を、ユウジの弱みを握ろうとしていたのだ。
親友、なんて言いながらひどいもんだ。
自分の感情に戸惑いながらも、引き返せなくなっていた。
たくさんの買い物袋を抱えたまま二人は住宅街のほうへと向かっていく。
やはり偶然会ったってわけでもないようだ。
もしかして本当に生徒と教師の禁断の愛ってやつなのか?
他人のことながら、内心すごくドキドキしていた。
そして、とうとう同じ家に入っていく現場を目撃してしまった。
ふ、念のため写メも撮ったし、もはや言い逃れもできまい。
俺はなんだか、張り込みの週刊誌の記者にでもなったような気分だ。
さて、どうしてくれようか?




