第四話 帰り道
夏休み。
女の子は、田舎に住むおばあちゃんの家へ遊びに来ていた。庭には朝顔が咲き、軒先では風鈴が涼しい音を立てて揺れている。
「遠くへ行っちゃだめだよ」
出かける前、おばあちゃんは笑いながらそう言った。
「はーい!」
元気よく返事をすると、女の子は家を飛び出した。
知らない道ばかりだった。畑の横を歩き、小さな橋を渡り、細い道を曲がる。どこを見ても緑の田んぼ、どこを見ても古い家、どこを見ても同じような景色。歩いているうちに、女の子はだんだん楽しくなって、来た道のことなんて気にしなくなっていた。
「……あれ?」
ふと足を止める。
さっきまで見えていたはずのおばあちゃんの家が、どこにもなかった。
来た道を戻ろうとする。けれど、曲がるたびに知らない景色が現れる。歩いても、歩いても、家は見つからなかった。蝉の声だけが、真夏の空いっぱいに響いていた。
女の子はとうとう、その場にしゃがみ込んだ。ぽろり、と涙がこぼれる。
「おばあちゃん……」
その時だった。道のずっと先に、誰かが立っているのが見えた。
「待って!」
女の子は涙を拭いて立ち上がり、駆け出した。追いつきたい一心だった。近づいたかと思えば、その人はまだ先にいる。走っても、歩いても、距離は縮まらない。それでも女の子は、その姿を見失わないよう、ただ夢中で追いかけ続けた。
どれくらい歩いただろう。
いつのまにか、蝉の声が少し遠くなっていた。生ぬるい風が吹き抜け、顔を上げると、空は静かに赤く染まり始めている。
女の子は足を止めた。
気がつくと、あの姿はもう見えなくなっていた。
きょろきょろとあたりを見回す。見覚えのある石垣、見覚えのある畑。そして、その先には――
「おばあちゃん!」
夕焼けに染まる道の向こうに、おばあちゃんの家へ続く道があった。玄関先では、おばあちゃんが心配そうにあたりを見回している。
女の子が駆け寄ると、おばあちゃんはほっと息をつき、優しく抱きしめた。
「心配したよ」
「ごめんなさい……」
女の子は小さな声で謝った。
家の中へ入る前、女の子はふと立ち止まり、後ろを振り返った。
けれどそこには、夕焼け色の残る、ただの通り道があるだけだった。




