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「ふざけんなぁ!!」
コンビニ店内。
グレーのスーツを着た神経質そうな四、五十代くらいのおっさんが、顔を真っ赤にして俺を怒鳴りつけてくる。
レジカウンター越しに飛んでくる唾が顔に飛んできそうで、マジで勘弁してほしい。
店内にいた他の客たちが何事かとこちらへ視線を向ける。
「……」
おっさんからは、キャバクラにでも行っていたのか、甘ったるい香りや柑橘系の香り、酒や煙草の混ざった悪臭をスーツから漂わせていて、思わず眉をひそめた。
「それになんなんだよ、その目つきは、喧嘩売ってんのか⁉︎!?」
「はぁ……。いえ、この目は生まれつきなんで。ドーショーモナイッスネー」
緊迫したこの状況とはミスマッチな店内BGMに、かき消されるくらい小さなため息を吐く。
十七年生きてきて、何度目かも覚えていない俺の「目つきの悪さ」へのクレーム。
もう聞き飽きた。
案の定、俺の投げやりな態度におっさんの堪忍袋の緒が切れた。
おっさんは、レジカウンターを乗り越えてきそうな勢いで顔を寄せてきた。
そして、今にも殴られそうになったその時——。
「大変申し訳ありません。お客様、どうされましたか?」
一触即発の空気を破り、裏から黒縁メガネの六十代くらいの男性——店長が飛び出してきた。
「いかがも何も、このクソガキがモタモタしていたからだよ! それに、コイツの態度が気に食わねぇ! 目つきも悪ぃしよぉ!」
おっさんが店長に対して俺の不満をぶつける。
いや、最後のは完全に言いがかりだろ……。
「もういい! おいお前! 名前は!?」
店長の必死な謝罪を目の当たりにして怒りの熱が冷めたおっさんは、もう一度俺の方を向き直って威圧混じりに尋ねてきた。
「陰浦 明ですけど……」
「陰浦 明だな。覚えたからな!!」
「はぁ……?」
仕方なく自分の名前を答えると、いかにも三流のザコ敵が言いそうなセリフを言い残して去る。
ゆっくり開く自動ドアに正面からぶつかって舌打ちし、そのまま店を出て行った。
* * *
「お疲れー」
「お疲れ様です。店長」
夜勤帯との交代時間になった。
俺はバックヤードにある自分のロッカーの前で着替えていた。
そこに、さっき厄介な客から庇ってくれた店長がロッカーの前にやって来ると、整えた髪をクシャクシャと崩し、着替え始めた。
「あの、店長。さっきは迷惑をかけてすみませんでした」
「アハハハ……。いいよいいよ、気にしないで明くん。でも、なにがあったの? 仕事に集中してて様子を見てなかったんだけど、どういう経緯でお客さんに怒鳴られちゃったの?」
俺の謝罪は優しい表情で受け入れてもらえたが、さすがに気になったのか、さっきのことの説明を求められた。
「あれはですね……。あの客が入店してすぐに、『いつもの』って、行きつけの居酒屋みたいなテンションで言ってきやがったんですよ。あの客のことなんか一ミリも知らないから『わからない』って返したら、いきなり怒鳴られて……」
「あー、なるほどね。それは災難だったね。まぁ、コンビニ店員みたいな接客業は、どうしても見下されがちだから、割り切るしかないよ……」
俺のざっくりとした説明を聞いた店長は、いつもの苦労人感が滲み出る優しい表情から、うんざりとした苦笑いに変わった。
「あ、あと、また目つきの悪さのことも言われました」
「またか……。これで何度目だろうね。お客さんから君の目つきのことでクレームが来るの……」
「さぁ……?」
俺も苦笑いで返す。
俺の目は切れ長で、まつ毛は長いくせに下向き。
普段から気を抜いているため黒目の半分近くがまぶたに隠れてしまい、他人から見れば「生気が宿ってない」らしい。
しっかりまぶたを開けば多少はマシになるらしいんだが、正直、疲れるしめんどくさい。
「明くんはここで働いてもう一年が経つけど、物覚えもいいし、仕事も丁寧で早い。僕としてはすごく助かってるんだけどね……」
仕事ぶりは褒めてくれたが、やはり俺の目つきの悪さには少なからず思うことがあるらしい。
俺としてはわざとしているわけではないのだが。
家族曰く、「眠いの?」だとか……。
友人曰く、「お前は、人を何人か殺してそうな目をしている」だとか……。
極めつけはこのコンビニに来る客だ。
『ねぇ、さっきのあの店員、死んだ魚の目をしてなかった?』
『あたしも思った!』
『『アハハハ』』
と散々な言われようだが、もう聞き飽きてしまったせいで、今さらなにを言われても、特になにも思わない。
「もうこんな時間か。ごめんね、引き留めてしまって」
「いえ、大丈夫です。お疲れ様でした」
「うん、お疲れー。気を付けて帰ってねー」
二度目の労いの言葉を掛け合って俺は店を後にした。




