ママの実家と従姉妹のお姉ちゃん
車から降りた瞬間、汗がじわりと浮き出した。
草木の匂いを含んだ風がわたしを通り過ぎていく。
浮き出た汗に触れた風は、わたしから熱を奪っていった。
六年ぶりに訪れたママの実家は考えていたより小さく感じた。
(あ…… わたしが大きくなったのか)
玄関をくぐったときに気がついた。
郵便ポストよりも小さかったわたしの背は伸びて、今は郵便ポストよりもずっと高い位置に頭がある。
両手を広げても通せんぼができなかった玄関は、今では両手を広げれば余裕で塞ぐことができる。
従姉妹のお姉さんに連れられて、離れへと繋がる渡り廊下を歩く。
記憶の中にあるものより短く、そして天井も低く感じた。
記憶の中の渡り廊下は、もっと長くて、冒険へ誘うようなドキドキ感があった気がしたのに。
渡り廊下の庭へ面したガラス窓から見える景色は変わっていない気がした。
雨風が吹き込むことがなく、日が当たるその渡り廊下は、天井から物干し竿が吊り下げられている。
そこに洗濯物が干されたときは、洗濯物の下を歩くのがちょっとした冒険のように感じていたことを思い出した。
◇◇◇◇◇◇
喉は渇きを訴えているけれど、従姉妹のお姉さんが出してくれた麦茶に、どうしても手が伸ばせなかった。
小学校三年の給食の時だった。
コロナが流行る前で、今よりもずっと配膳のルールは緩かった。
配膳する当番はマスクをつけるルールだったけれど、忘れたのなら仕方ないと、今のように学校の使い捨てマスクを渡されたりすることはなかったし、配膳を受け取るために並ぶのにマスクは必要はなかった。
「あ、よだれはいった」
男子の言葉だった。
「え、汚え。お前がそれを食べろよ」
「いやだよ、これ野菜たくさんはいっているじゃん。オレ野菜嫌いだもん」
「おれだって、お前のつばが入ったシチューなんか食いたくねえよ」
そんなやりとりの後、よだれが入ったシチューは、不在だった先生のトレイに乗せられたことだけを覚えている。
よだれが入ったのが嘘なのか。
先生は知らないうちに男子のよだれが入った給食を食べたのか。
記憶は曖昧だ。
そのことを、なぜか給食のあの瞬間に思い出した。
その瞬間、目の前に置かれた給食がとても恐ろしいものに見えて食べられなくなった。
そんな曖昧な記憶で無理になって、次に同じような状況になったとき給食を食べることができるかを考えた。
きっと給食を食べる事ができないと考えたら、学校に行けなくなってしまった。
だって、給食を食べれなくなった理由を説明したくない。
伯母さんにお昼ご飯のことを聞かれたときに反射的に新幹線の中で食べたと答えたときに、なんとなくわかっていた。
だって、給食じゃないから食べられるはずなのに嘘をついて後回しにしたのだから。
目の前の麦茶を飲めないでいるのも一緒。
ママの実家に行く話を聞いたときも、食べることが出来ないかもしれないという不安はあったけど、大丈夫かもしれないという期待もあった。
給食は他人だけれど、ママの実家なら身内だから。
給食だからダメなんじゃない。
わたしは両親以外を信じきれないでいるから、自分の目の前で準備されていないものを食べられないのだと、目の前の麦茶が、その事実をわたしに突きつけてくれた。
わたしは、わたしがクラスメイトを信じていないことを知られるのが怖かったから、行けなくなったのだと思う。
麦茶の横にコトリと並べられた缶に意識を引きずり戻された。
「ごめんね~。この部屋暑くて」
並べられていくコーラとオレンジジュース。緑茶をぼんやりと見つめた。
「麦茶 ――」
聞こえた単語に、思わず身体が強張ったが……
「温くなっちゃったね〜。こっちの缶のから好きなの選んで。開ける前に飲み口を、そこのウエットティッシュで拭いてね」
その言葉に、ほっと息が出た。
私の前に置かれた麦茶にお姉さんは手を伸ばすと一気に飲み干した。
その動きを目で追ってしまう。
コップの中には残った氷は、麦茶が温くなっていなかったことを教えてくれる。
麦茶を飲み干したあとに残った氷は、お姉さんの口の中に含まれた。
いつの間にか止めていた息。
ゴクリと唾を飲み込んだあと、悟られないようにゆっくりと息を吐き出した。
緑茶の缶に手を伸ばす。
缶に触れた指先から、身体にこもる熱が抜けていくような気がして、飲んでもいないのに喉の渇きが少しだけ和らいだ気がした。
お姉さんに言われたとおり、ウェットティッシュで飲み口を拭いた後、フタを開けると一口飲む。
冷えた緑茶が喉から食道を通る感覚に、ほっと息が出る。
「中三だっけ? 最後に会った記憶が幼稚園のときだから、小さい頃のイメージが強くて、すごい違和感。大きくなったね〜」
かけられた言葉に、わたしはようやくお姉さんをしっかりと見た気がする。
アルバムの写真の中の従姉妹のお姉さんとは、当たり前だけど違う部分が多かった。
髪が短いのは同じ。
日焼けした小麦色の肌は白くなっている。
快活な笑顔は変わらない気がするが、印象としては細く感じた。
ただ、アルバムの写真に写っているのは小学校の頃だ。同じ部分が多いほうが珍しいのかもしれない。
美大に行きたいから会社を辞めて浪人中。
わたしが中三だから受験仲間だと笑うお姉さんに悲壮感はない。
窓際に置かれた描きかけの油絵は、何色もの色が混ざり合って独特で、わたしには何を描いたのか想像がつかない。
壁に貼られた水彩画は海で、油絵とは受ける印象からすべてが違う。こう。うん。学校の美術の課題で上がったものの中にありそうではあるが、たぶん何かが違うのだと思う。うん。
絵に詳しくないわたしには良くわからない。
棚に詰め込まれた何冊ものスケッチブックやノート。
部屋の至る所に置かれた筆や絵の具などの画材。
「プロの画家さんなんだと思ってました」
趣味という域を出ているような部屋を見て出た言葉に、お姉さんは、すごく喜んでくれた。
形から入ってみたと笑うお姉さんは、わたしが絵ではなく部屋の状況をみて判断したことをわかっているんだなと、すこし寒くなった。
お姉さんみたいな友達は、わたしには居ない。
それは、お姉さんが わたしの先を生きていて、そして周りにいる大人よりずっとわたしに年齢が近いからなのだろうか?
よく見ていないようで、よく見られている気がした。
それは、観察されているとか、そういうものではなくて…… 距離の取り方…… なのかな?
うまく言えないけれど、お姉さんの側は、わたしが初めて感じる場所だった。
居心地が良いとは断言できないけど、居心地が悪いわけではなくて……
居ても良いんだな。って感じだろうか?
でも、それも何か違う気もする。
とりあえず、コーラの缶を安全ピンで刺して飲み始めたときは驚きに固まってしまって、そんなわたしをみて、お姉さんも固まっていた。
◇◇◇◇◇◇
鳴ったお腹に、思わず身を縮こめる。
新幹線でお昼を食べたと言ったのに、お腹が鳴るのは駄目だろう。
夕ご飯を食べることができるかはわからないが、駄目だったらママに帰りたいと連絡するつもりだった。
お姉さんのお腹が鳴った音も聞こえて、自分のお腹の音だと勘違いしてくれないかな? と少しだけ気が緩んだけど、わたしのお腹の音を、自分のお腹が鳴ったと勘違いするわけは無いよなと思い直す。
わたしが自分のお腹が鳴る音をどうしようと焦っているうちに、いつの間にかカップ麺を食べる流れになっていた。
お姉さんに言われるままに、ペットボトルの水を取り出し、電気ケトルをペットボトルの水ですすいだ後に、メモリまで水を入れてセットする。
お湯が沸くのが以外に早くて、割り箸を取りに行ったお姉さんはまだ戻ってきていない。
沸いたら入れておいてと言われたことを思いだし、慌てて二つのカップ麺の蓋を開けて、お湯を注いだ。
注いでから時間を計らなきゃと気がついて部屋の中を見回す。
目についた部屋の中にある小型冷蔵庫の扉にくっついているタイマーに手を伸ばした。
とったときにボタンを触ってしまったのか、小さな画面に表示された時間が三分だったことから、そのままスタートのボタンを押した後、使っても良かったのかな? と不安を感じる。
お姉さんが戻ってきた後、差し出された個包装の割り箸に安堵と、もしかすると気がついているのかもしれないと、また少し、身体の中が捻れるようなキュッとした寒さを感じた。
醤油味とカレー味のカップ麺。好きな方を選んでいいと言われて、本当に好きな方を選んでいいのか戸惑いながら醤油味を選んだ。
カップ麺のお供として出されたブッセの包装は、味で色が違うのだろう。
色とりどりに箱の中に詰まっているブッセ。お姉さんに、すすめられるままレモン味のブッセを手に取った。
お姉さんに、昔のようにお姉ちゃんと呼んで欲しいとと言われて戸惑う。
幼稚園や小学校の頃ならともかく、中学生になってもお姉ちゃんと呼ぶのは恥ずかしいなとは感じつつも、お姉さんの是非にという言葉と、そう呼ばれるのが好きだという言葉に頷いた。
そして、私はお姉さんに自分だけが呼べる特別な呼び方をしたいのだと力説されて、従姉妹ちゃんと呼ばれることを受け入れた。
特別な呼び方をしたいというお姉さんの言葉は、ちょっと擽ったくて嬉しかった。
◇◇◇◇◇◇
お姉さんに連れられてキッチンへ。
「キッチンと言うより、台所ってイメージでしょ」
そう言って、お姉さんは笑う。
ママの実家のキッチンは一つの部屋のように広い。
真ん中にあるダイニングテーブルは食事を囲むためにあるというより、作った料理を置いたり作業したりするためにあるのだろう。
テーブルの下に丸椅子が重ねられて置かれていて、他にも同じ丸椅子が食器棚などの側に、踏み台代わりに置かれている。
お姉さんに言われるまま唐揚げの下準備を手伝う。
ママとは違う作り方なので、なんか新鮮である。
下準備が終わると、誘われるまま外へ。
玄関の外に一歩出る。
ここへ来たときに吹いていた、身体を撫でていくような風はやんでいた。
「すごいですね」
目の前に広がる光景に言葉が出る。
キュウリにナスにミニトマト。
あと…… 枝豆かな? 枝豆が生えている? 実をつけているのをのをみるのは初めてな気がする。
もしかすると、以前来たときに見たことがあったのかもしれないけれど記憶にない。
キュウリを収穫した後、ナスを収穫しているときに語られた、自分が幼稚園のときの話に顔が赤くなるのがわかる。
そして、来たときに三食必ずナスのメニューがあった理由はこれなのかと考えた。
毎食必ずナスが出てくるので、ママの実家はナスが好きなんだなと思っていたのが、わたしがナスを好きだと思われて出されていたことに今気が付いた。
(ナス、食べれないわけじゃないし、苦手ってわけでもないけど…… 好きっていうほどの食べ物じゃないんだよね)
その事を伝えようかどうか迷っているうちに、ナスの収穫は終わっていた。
手にしたザルには、キュウリとナスが山盛りになっている。
お姉さんは鎌を持ってくると枝豆の茎の根元を鎌で切って収穫する。
「枝豆って、こんな感じなんですね、豆だし緑だし、サヤエンドウみたいに蔓なのかと思ってました」
「あー。そういえば豆って蔓で実をつけてるイメージ強いよね。いわれてみれば不思議。小さいときに枝豆はこれって言われて覚えたけど、なんで蔓じゃないんだろうとか考えたことなかったな。従姉妹ちゃん目の付け所がすごいね」
お姉さんの言葉に照れてしまう。
「ミニトマトも採り終わったら、玄関の中で座って枝豆もぎろう。外でもぎるより中のが少しは涼しいし」
ザルに山盛りのキュウリとナス。
小さめのスーパーの袋二つ分のミニトマト。
同じようにスーパーの袋にもぎった枝豆。
「なんか…… 夏って感じですね」
わたしの言葉に、お姉さんは頷く。
「うん。夏って感じだよね。彩りも綺麗。しっかり目に焼き付けておかなきゃね。夏を過ぎたら、この光景は見られないもの」
キュウリもナスもミニトマトもハウス栽培があるから季節に関係なく簡単に手に入る。
枝豆は冷凍されたものがスーパーで売っている。
同じ光景を冬でも作ろうと思えば作れるけれど、この輝きまでは同じにできないなぁ。とお姉さんは目を細めた。
◇◇◇◇◇◇
夕飯の下準備の時は、ママと作り方が違うと感じただけだったが、夕飯作りに取りかかると、ドキドキする場面が多かった。
タルタルソースを作る時に、マヨネーズと一緒に水切りヨーグルトも入れたのには、思わず、え? え? と驚いてしまって、お姉さんが笑い出すし。
あまりに戸惑う私に、お姉さんは味見をさせてくれたが、私の知っているタルタルソースよりさっぱりしているけどコクもあって、こっちのほうが好きかもしれないと思ってしまった。
揚げ油を使い終わった後に、針金でできたものを出してきたときも、びっくりした。
最初は何かわからなかったが、コーヒーフィルターをセットし始めて、それがコーヒードリッパーなのだと気がついた。
最後に揚げていたナスをポン酢に浸して上からすりおろしショウガと大葉を刻んだものを散らしたら作る料理は終わり。
あとは伯父さんが帰ってくれば、料理を居間に運んで夕飯にするのだといっていたので、今からコーヒーを飲むのかな? と思った。コーヒーを飲んで休憩するのだと思っていたけれど、セットしたフィルターの中にコーヒー豆を中に入れることはなく、ガラス製のボウルの中にコップを置いて、その上に針金でできたドリッパーをセットした。
お姉さんの動きの意味がわからなくて思わず首を傾げたが、お姉さんは気づかないまま、揚げ物鍋の温度を確認していた。
「まぁ、大丈夫でしょう」
納得したようにお姉さんは一人うなずくと、使い終わった油をお玉ですくってフィルターの中に注いでいく。
「お…… お姉さん?」
「ん。お姉ちゃんね」
「あ、はい。お姉ちゃん。いったい何を?」
「油を濾してる」
「危なくはないんですか?」
「油が熱いから危なくないとは断言できないかな。でも、油が冷めると通りが悪いんだよね。だから、倒れてこぼれても大丈夫なようにボウルの中でやってる。
前はコップにコーヒーフィルターかぶせて少量ずつやっていたけれど、百均で針金のコーヒードリッパーに出会ってからはこの方法かな。ドリッパーの油汚れが落ちなくなったら躊躇わずに新しいものと交換できるし、冷めた後に乾かしたペットボトルに移すから手間は増えるし洗い物も増えるけれど、油は無駄にならないし感覚的には楽なのよね」
自分にはこの方法が合っていると説明してくれるが、わたしは見ていてコップが割れたりしないのかハラハラする。
「あの、その使ってるコップって耐熱……なのでしょうか?」
耐熱だとしても、ガラスのコップって熱い油に耐えられるの? と不安になる。
「んー。たぶん耐熱だとおもう。中にティラミスが入っていたし」
お姉さんの言葉からケーキ屋さんとかで買ったティラミスの容器として使われていたコップなのだとわかった。
わたしは答える代わりに思わず首をぶんぶんと横に振ってしまう。
「え? ダメ?」
お姉さんの言葉に何度も頷くと、お姉さんは上を見上げて少し考え込む。
「でもオーブンとかで焼いてるんだから大丈夫じゃないの?」
なんでそんな勘違いを!?
お菓子作りが趣味のママの隣で何度も見たことがあるし、一緒に作ったこともあるので断言できる。
「ティラミスは焼きません」
わたしが断言すると、お姉さんは不思議そうに首を傾げた。
「え? でも、ティラミスって外国の料理だよね?」
「イタリアです」
わたしの返事に、お姉さんは、そうだよね〜 と頷く。
「外国。日本以外の国って生タマゴ食べちゃダメって聞くから、原材料表示の卵を見て焼いてるんだって思ったんだけど違うの?」
お姉さんの言葉に、確かに! なんで? とは思ったけれどティラミスはオーブンで焼いたりしない。
お姉さんは、異様に賞味期限が長いし、焼きプリンみたいに焼いていると思ったと言いながら、代わりに使えそうなものはと食器棚を見てくれる。
「これなら絶対大丈夫」
持ってきたのは小さいココット皿。
熱! と言いながらコップの周りをキッチンペーパーで覆ってお姉さんはボウルの外に出す。
お玉ひとすくい分の油はコップの中に落ちきって溢れてはいない。
ボウルの中にココット皿を入れ替えて、お姉さんは再び油をお玉ですくって注ぎ始めた。
「あの、オイルポットを使ったりは……」
「あれねぇ…… タイミングがわからなくて」
「タイミング? 使い終わったら入れれば良いのでは……」
わたしの言葉にお姉さんは、違う違うと首を振る。
「入れるタイミングじゃなくて、洗うタイミング。
洗ったら完全に乾かさないと次に使えないでしょ。
そうするとね、こうタイミングがね。
二つもオイルポットいらないし。でも、たいてい乾く前に油を入れたい状況になるし。
これなら冷めた後にペットボトルにいれて保存しておけば、炒め物とかするときに使いやすいし、いいかなぁと。まぁ他人にオススメはしないけど。あくまで私のやりかたね」
口つけて飲まずにコップで飲んでおけば、ペットボトルも炭酸水や水のペットボトルなら乾かすだけだけですむから楽だとお姉さんは言うけれど、オイルポットからペットボトルに移すのでは駄目なのだろうかと不思議に思った。
◇◇◇◇◇◇
わたしの食べる分が、わたしの視界から消えることがないようにお姉さんが動いてくれているのがわかった。
座って待っていてくれて良いという伯母さんの言葉も、お姉さんがわたしと離れたくないから嫌だとユーモアたっぷりに言って、わたしが運ぶところまで手伝えるようにしてくれる。
普段は大皿で好きなようにとるのも、最初に個別に分けて盛るようにしてくれた。
それだって理由をつけて、わたしが気にしないようにしてくれた。
余った分は大皿によそられる。
足りなかったらそこから追加でとってと言われたが、一人分として盛られた料理は十分多い。
大皿の料理を食べられるかな? と考えて、大丈夫だと思った。ただ、大皿から取ることに拒否感はなかったが、胃の方が限界で取ることはできなかったが。
そして、その食事の席で、お姉さんがタルタルソースが余ればサラダにリメイクしてみたいけれど、いまだにできたことがないと言った意味が良くわかった。
従兄弟のお兄さんがタルタルソースを沢山食べる。
唐揚げだけではなくご飯にもかけて食べる。
日本酒を呑みながら、タルタルソースを食べる。
お姉さんが、水切りヨーグルトを使ってマヨネーズの使用量を減らした理由がわかった。
◇◇◇◇◇◇
食器洗いは伯母さんがしてくれるとのことで、お姉さんに連れられて蛍を見に外へ出た。
少し離れた後ろには、伯母さんに言われて従兄弟のお兄さんが着いてきてくれている。
「従姉妹ちゃんが小さいときは手をつないで歩いたよね」
と、お姉さんの右手がわたしの左手を握る。
誰かと手を繋いで歩くなんて何年ぶりだろう?
ちょっと照れくさい。
お兄さんは電灯のところで止まって上を見たり下を見たりとよくわからない動きをしている。もしかすると、あまり近づかないように気を遣ってくれているのだろうか?
それとも酔っ払って動きが不審になっているのかな?
すいっと動くお姉さんの左手が動いて懐中電灯の明かりが少し先を照らすのを目が追っていく。
「前にも一度、一緒に蛍を見に行ったの覚えてる?」
お姉さんの言葉に記憶を辿るが思い出せない。
「………… 覚えていないです」
覚えていないことを申し訳なく感じて、声が小さくなってしまう。
「お星様つかまえたーって。覚えてない? 幼稚園の頃だもんね。覚えてないかぁ。めちゃくちゃ可愛かったよ」
「えっ…… と…… ありがとうございます」
自分のことでなければ、可愛いと同意したけれど、自分のことだと思うと恥ずかしさが勝ってしまう。
懐中電灯の明かりが消される。
懐中電灯の明かりを追っていた視線は、自然と上に上がり、小さな光の瞬きを探すように動いた。
虫の鳴き声。
風と水の音。
カエルの鳴き声が異様に大きく聞こえた。
「あ」
見つけた光の瞬きに声が出る。
小さな光の点滅は綺麗だ。
お姉さんと、蛍の話から修学旅行の話になった。
新幹線の中で出会ったおばあちゃんから聞いた修学旅行の話をしたら、お姉さんは驚くかな?
それとも亡くなってしまっているおばあちゃんとおじいちゃんから似たような話を聞いているかな?
話せるタイミングがあれば話してみたいなと思っているうちに、お姉さんが行った高校の修学旅行の話に驚いて、なんとなく新幹線のおばあちゃんから聞いた話をしそびれてしまった。
その後、忘れないうちにと部屋に戻って見せてくれた修学旅行の写真にはアンパンマンと制服姿のお姉さん。
友達と写っているのも含めて、写真なのにテンションが高いのが伝わってきた。
このときは~ と説明してくれながらスマホのアルバムをお姉さんがスワイプして見せてくれた。




