【番外編】黒木奏の恋愛事情2(後編)
『奏へ
奏、お誕生日おめでとう! 今年もまた一緒にお祝いすることができて、すっごく嬉しいです! 生まれてきてくれてありがとう。
今年のプレゼントは、ペンケースとシャーペンにしました。心を込めて選んだので、喜んでくれると嬉しいです。受験勉強がイヤになりそうな時は、これを見て俺のこと思い出して、やる気出してね! なんてね〜笑 それで、一緒の大学行こうね。そのために俺も頑張る! もちろん気に入らなかったら、ムリして使わなくていいからね〜。
それと、せっかくの機会なので、奏への感謝の気持ちも、手紙にしておきたいと思います。
部活大変な時に「頑張って」って応援してくれるのも、「でも天馬は頑張りすぎる時あるから、ムリはしないでね」って言ってくれるのも、本当に嬉しいし、力になってるよ。ありがとう。それから、ケガで右手が使いづらかった時に「俺が代わってあげられたらいいんだけどな……」って、笑っちゃうぐらい大げさに心配してくれて、身の回りのことぜーんぶやってくれたのもすごくありがたかったです。あと、この前の付き合って一年記念日の時に遊園地に誘ってくれて、ちゃんと「一年間ありがとう。これからもよろしくね」って言ってくれたのもすごく嬉しかったなあ。あと、いつも俺が嬉しい時には一緒に喜んでくれて、悲しい時は一緒に悲しんでくれるところとか、俺のくだらない悩み相談も「うんうんそうだね」って真剣に聞いてくれるところとか、相合傘したとき俺が濡れないように気を遣ってくれすぎて自分がずぶ濡れになっちゃってたところとか……。挙げたらキリないけど、そういうところ、全部だいすきだし、ありがとうって思ってます。
とまあ、こんな風に挙げてみると、なんか奏にはいろんなことしてもらってばっかりだよね。すごく感謝はしてるけど、してもらってばっかはよくないと思うから! まだまだ足りないかもだけど、俺も奏にとって優しい彼氏でいられるように頑張ろうって思ってるし、奏を見習って、友達や後輩にももっともっと優しくできる人間になりたいなあって思ってます。
けど、奏は優しすぎるから、俺もついついそれに甘えちゃって、奏はムリしてくれてるんじゃないかなあってところはちょっと心配です。俺は奏とずっと一緒にいたいと思ってるから、そのためにも、俺に直してほしいところは我慢せずに言ってね。
それから、これがいちばん感謝していること。俺にいろんな景色を見せてくれてありがとう。これは文字通りの意味じゃなくてね。いろんな体験をさせてくれて、って言い換えてもいいかな。俺は奏と付き合うまでは、好きな人と手を繋いで花火見たり、一緒に美味しいもの食べに行ったり、文化祭デートしたり、そういうことはもう、諦めようかなって思ってたんだよね。けど、そんな俺に、奏がいろんな経験をさせてくれました。本当にありがとう! 全部、俺の大事な思い出です。
告白してくれたあの日、奏が差し出してくれた手を握り返していなかったら……。きっと俺の人生は、もっと寂しくてつまらないものだったと思います。俺の人生に奏が現れてくれてよかった。奏が俺の彼氏でよかった! これからもふたりで一緒に、楽しい思い出いっぱい作ろうね。
って、思ったこと全部書いてたら想像以上に長くなっちゃったね。奏、長い文章読むと眠くなる人なのに、よくここまで読んだね〜。え、読んでるよね⁉︎ 途中で挫折してない⁉︎笑
まあ、簡潔にまとめると誕生日おめでとう、いつもありがとうってことしか言ってないから、途中でイヤになったら間は飛ばしてここから読んでくれてもいいや〜笑
最後に改めて! 今日はお誕生日おめでとう! 来年も再来年も、何十年後も、奏と俺がおじいちゃんになっても、ずーっと、俺に奏の誕生日をお祝いさせてください。大好きだよ〜♡
天馬より』
本文の最後に小さく控えめにハートマークが書いてあって、俺は思わず微笑んだ。ハートなんて、普段スマホでやりとりしてる時は一度も送ってくれたためしがないのに、最後に天馬が自分でハート書いてくれたんだって思うと、ただの小さなハートマークがすごく愛おしく思えた。
「えへへ、なんか重いかな? 恥ずかしくなってきた」
天馬が言う。そんなことないよ、めちゃくちゃ嬉しいよ、そう言おうと思ったけど、すぐには顔を上げられなかった。ガマンしようとしてたのに、ぱちぱちと瞬きをすると涙がぼろぼろこぼれ落ちてきた。
「え⁉︎ 奏、泣いてるの⁉︎」
天馬がビックリして隣に来て、俺の背中を優しくさすってくれた。
「ごめん奏〜、泣かせちゃったねえ」
天馬は笑って、親指で俺の頬を伝う涙を拭ってくれる。
「あり、がと天馬……。めちゃくちゃ、嬉しい……。あの、えっと……」
「ふふふ、ゆっくりでいいよ。あはは、そんなに泣かせちゃうと思わなかった」
俺は、深呼吸を繰り返して呼吸を整えた。天馬は背中をさすりながらずっと待ってくれている。
「ありがとう天馬。すっげー嬉しい!」
やっと話せるようになった俺は、手紙をテーブルに置き、空いた両手で天馬の手をとってきゅっと握った。
「俺も天馬のこと大好き。俺も、おじいちゃんになってもずっと一緒にいたいと思ってるよ」
そう言って天馬の目をじっと見つめると、天馬は苦笑いしてさっと目を逸らした。
「もー、俺はそういうの、恥ずかしくて面と向かって言えないから手紙にしたのに」
「はは、ごめんごめん、俺はこういうの思ったらすぐ言っちゃうタイプだから」
「ふふ、そうだね」
天馬がくすっと笑う。
「でもさ、俺がムリしてないか心配って書いてくれてたのは、ちょっとビックリした。俺全然ムリしてないよ。むしろ天馬にはいつも優しくしてもらってばっかで、全然返してあげられてないなあって思ってた」
俺が言うと、天馬が目をまん丸にする。
「えー! どこが? 俺なんか、全然……」
「そんなことないよ〜。天馬は世界一優しい、俺の自慢の彼氏だよ」
俺がそう言うと、天馬は真っ赤になって、また目を下に逸らした。
「ふふふ、あとねえ、いろんな景色を見せてくれてありがとうっていうのもね。俺の方こそありがとうだよ。俺も天馬と付き合う前は、自分がバイセクシャルかもって悩んでたの、誰にも相談できなくてさ。天馬と付き合うことになって、家族にも友達にも初めて言って、みんな俺らのこと応援するよって言ってくれて。それまでひとりぼっちで悩んでたのが、天馬のおかげで世界が広がったっていうか。えーっと何が言いたいかわかんなくなってきた。とにかく、俺も天馬のこと諦めなくてよかったなって思ってるよ。ふふふ」
「ふふ、うん」
俺の、感情のままに話したまとまりのない文章にも、天馬は優しく微笑んで頷いてくれた。
「ありがとな! 天馬」
「うん。どういたしまして」
天馬はそう言うと、立ち上がった。
「じゃあ俺、そろそろ帰るね」
「え、もう?」
俺は、話している間ずっと握っていた天馬の手をぎゅっと引いた。別れるのはなんだか名残惜しい。
「だって、もう消灯時間になっちゃうもん。長谷川たち追い出したままなのも申し訳ないし」
天馬は困ったように眉を下げて言った。
「そっか……」
しぶしぶ天馬の手を放す。天馬を困らせたいわけじゃない。
すると、天馬は優しく微笑んで、もう一度俺の側にしゃがみ込んだ。
「ふふふ、そんな寂しがらなくても、明日も会えるよ。明日は委員会ないはずだから、お昼一緒に食べよ」
「うん」
俺が頷くと、天馬がにこっと笑った。
「じゃあ、特別にもう一個プレゼントね?」
「え?」
次の瞬間、右の頬っぺたに天馬の唇が触れた。
「ふふ、じゃあね! おやすみ!」
天馬はそれだけ言うと、さっさと部屋を出て行ってしまった。ふわりと、天馬のシャンプーの爽やかな香りだけが俺の周りに残っている。
天馬からそういうことしてくれるなんて珍しい。誕生日ってサイコーだな。
そんなことを思ってぼんやり余韻に浸っていたが、コンコン、と扉をノックする音で我に返った。
「あ、はい!」
慌ててドアを開けると、寮長の鳥羽っちがバインダーとボールペンを持って立っていた。あ、消灯前の見回りか。
「そろそろ消灯時間だけど、部屋、全員揃ってる? ……って、どうしたのお前。なんか顔赤いけど、熱ある?」
鳥羽っちが俺の顔を見て驚くので、俺は慌てて首を横に振った。
「え、いや、だいじょぶ! あとの三人ももう戻ってくると思う!」
すると、鳥羽っちは目を見開いてさらに俺の顔を覗き込んだ。
「うわっ、目も真っ赤じゃん! どうした? 泣いた? 話聞こうか?」
鳥羽っちがますます心配そうな顔をするので、俺はぶんぶん手を振って否定した。
「いや、違う違う! これはちょっと、嬉し泣きしちゃっただけだから。マジで大丈夫。ありがと」
「そっか。ならいいんだけどさ。じゃあはい、これあげる」
鳥羽っちが手を出してきたので受け取ると、それは小さい袋に入ったチョコレートだった。
「なにこれ」
「今日誕生日だろ? ハッピーバースデー」
鳥羽っちがニヤッと笑う。
「あ、サンキュー。……ん、美味い」
俺はすぐにチョコを口に放り込んだ。中にクッキーが入ってて、噛むたびにザクザクして美味しい。
すると、廊下からバタバタと足音が聞こえてきた。
「ごめん鳥羽っち! お待たせ!」
玲ちゃんの声だ。どうやらルームメイト三人が帰ってきたらしい。
「わかったわかった、もういいから! 走んな! 四〇七号室揃ったなー」
鳥羽っちは三人に注意すると、ボールペンで手元のリストにチェックを入れた。
「じゃあおやすみ」
「「「「おやすみ〜」」」」
四人で鳥羽っちを見送って、部屋に入った。
「どう? 菅谷とゆっくり話せた?」
智輝が聞いてくる。
「おかげさまで。ありがとな」
俺は出しっぱなしだったプレゼントと手紙を片付けながら言った。
「どういたしまして〜! てか、え、目、充血してない? なに、ケンカした?」
またバレた。俺いま、そんなに目ぇ赤くなってんのかな。
「はは、してないしてない。嬉し泣き」
俺が苦笑して言うと、智輝は一瞬驚いた顔をしたあとニヤニヤと笑う。
「マジ? やっぱ菅谷は明日にしてもらえばよかったかな〜。俺らのハードル上がっちゃったじゃん」
「それな〜。上がりまくりだよ〜」
初芽がそう言いながら、俺が座卓の上に置きっぱなしにしていたペットボトルを開けてゴクリと飲んだ。
「ちょ、それ俺の水!」
「あ、一口ちょーだーい」
「そういうのは飲む前に言いなさいよ! もういいけど」
俺は初芽からペットボトルを奪い返して一口飲んだ。こいつ、一年生の四月頃はあんなにおとなしかったのに、俺ら三人が甘やかしたせいでこんなにわんぱくに育ってしまって……。
「ていうか、菅谷、ちゃんと消灯前に帰ったな。『お泊まりしてくことになったら遠慮なく言って! 俺らテキトーにどっかで寝るから!』って言っといたのに〜」
玲ちゃんが二段ベッドの下にゴロンと寝転がって言う。
「おい、天馬に変なこと言うなよ〜。てかフツーに規則違反だから」
「あはは、さっき菅谷にも全くおんなじツッコミされた。なんか最近お前ら似てきたよな〜」
玲ちゃんはケラケラと笑う。
「ていうかさあ、俺らも予定ずれちゃったから。奏、明日も長風呂してきてね」
智輝が意味ありげにニヤッと笑って俺に言った。
「ふふ、オッケー!」
こうして俺の幸せな誕生日は幕を閉じた。といっても、ありがたいことにルームメイトたちによるお祝いは明日も続くみたいだ。




