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死に戻った最強勇者は、すべてを守り切る  作者: 柚鼓ユズ


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77話 ハイン、違和感を抱く

 リーゼから使用人の失踪の話しを聞き、脳内で思考を張り巡らせる。


(……やっぱりか。俺を含めて今回採用された連中は、ほとんどが身寄りのない奴ばかりだ。それも、素性が明らかにならない孤児や、世捨て人とまではいかなくてもそれに近い連中が大半みてぇだな)


 それから数日、日常業務をこなしながら、合間でさりげなく使用人仲間や御者に調理人、庭師を始めとした外仕事の連中に世間話と称して会話の中でさりげなく素性を尋ねると、ほぼ全員が身寄りのない者達であった。


「……あ?俺の家族?いねぇよそんなもん。ガキの頃に離別してそれっきりだよ。だからここに住み込みの話が来た時に飛びついたのさ。逆玉の輿は勿論、金が貰えて住むところまで用意して貰えるなんて願ったり叶ったりだからな」


 試しにリーゼにも尋ねてみたところ、他の連中とほぼ同様の返事が返ってきた。


「そうか……やっぱりお前もそうなんだな」


 他の連中は特に気にせず流されていたため、つい気が緩んでぼそりとそうつぶやいてしまったところ、それを目ざとくリーゼに聞かれて声をかけられる。


「……何だ、お前『も』って?お前、それが何か気になるのか?」


 ……しまった。まさかたった一言漏らした言葉でリーゼに食い付かれるとは思わなかった。


「……いや、そうじゃねぇよ。俺も奉公先の主人が亡くなって他に身寄りもねぇし、たまたま他の奴と身の上話をしたらそいつもそんな境遇だった、ってだけの話だよ」


 嘘は付いていない。全てを話すわけではないが。下手に理由を付けて取り繕えばこいつは逆にどんどん質問してくるタイプだ。真実を話しつつも本筋をぼかし、虚構を混ぜて上手く煙に巻く必要があった。


「あ?……何だよ。何かと思えばそんな事かよ。お前さんの雰囲気が何か変だから思わず突っ込んだけどよ、そもそも住み込み可能な求人に応募する時点で嫁や旦那、家族がいる連中より俺たちみたいな奴が来るのは当たり前だろ?」


 そのリーゼの言葉に、確かになと思った。家族や身寄りのない者なら今回の館の求人は喉から手が出るほどありがたい条件だろう。


「そうだな。身寄りも無い俺たちからしたら、ここで雇って貰えるって事はありがたい事この上ない環境ってのは間違いないよな」


 そう自分が言うと、リーゼが即座に言葉を返してくる。先程の自分に対しての懸念は消えたようだが、自分の動作や口ぶりに敏感に気付く手合いのようなので油断せずに会話をする必要があると思った。


「だろ?俺もお前も面接に落ちていたら今頃はまた住み込みの仕事を探すのに四苦八苦していたと思うぜ。何せ住居と飲食の保証済み、かつ給金も悪く無いときたもんだ。加えてお嬢様に気に入って貰えりゃ今後の人生一生安泰ってなもんだからな」


 リーゼの警戒のアンテナから自分が外れた事に安堵しながらも脳内で思考を張り巡らせる。


(……リーゼの言う通りだ。使用人は勿論、庭師や御者の賃金も住居と飲食が確保された上に貰える賃金としては破格と言っていい。ましてや身寄りの無い人間なら尚更だ)


 いなくなってもそこまで騒がれない、探す者がいないという人間がこれだけそろっているのだ。何が目的かはまだ全く分からないが、これほど好都合な環境はないだろう。


(……だが、まだ何も分からねぇ。館の中にいる連中が関わっているのは間違いないだろうが、誰が関わっているのかも何の目的でやっているのかも全て。……こりゃ、悠長に構えてないで色々調べる必要があるな)


 そう思い、翌日より少しずつ行動を開始する事にした。無論、リーゼや他の連中に気付かれる事なく慎重に。



「カノアさん。ナノハ姉様とお茶を飲みたいので、用意をしていただけますか?」


 シーホに声をかけられ、準備をしながらも言葉を返す。


「かしこまりましたシーホお嬢様。……おや、茶葉が切れておりましたので取りに行って参りますのでしばしお待ちください」


 そう言って部屋を出て保管庫へ向かう。使用人として採用された自分達の権限や立ち入り可能区域は他の連中よりは多いものの、その分夫人や姉妹のお世話がメインのため、自由に動ける時間は少ない。そのため、このように館を歩いて回れる機会は貴重だった。


(一日に二回は姉妹でお茶をするからな。バレないように少しずつ茶葉を減らしておいて正解だったぜ)


 そう思いながら保管庫へと向かう際に周囲をくまなく見渡す。窓の外では庭師が暑さに耐えながら花壇や樹木を剪定している。広い庭のため、皆各々の場所で作業をしている。


(あれなら一人二人いなくなっても確かに気付かれねぇな。仲良くなった奴が突然いなくなりゃ多少騒ぐかもしれないが、リーゼの言う通りバックれたと思われてもおかしくない)


 不自然に遅くならないように、出来る限り自然に保管庫へ向かいながらも館の中や外を観察していく。階段を降り、突きあたりにある保管庫に向かう際、以前に通った道とは逆の道を通る。


「こっちの道はまだろくに通ってなかったからな。さて、何か発見があれば良いんだが」


 見渡したところ特に変わったところは無く、保管庫に近いだけあって廊下は薄暗く、空き部屋や物置きに使用しているのだろう。反対側の通路と違い日当たりも悪いため、ここをマイルームに割り振られた連中はいないだろう。その証拠にドアノブに僅かではあるが薄く埃が溜まっている。


(……ここの掃除エリアの担当は仕事がいい加減だな。まぁ、そのおかげで助かるんだが)


 埃が溜まっているという事は、ここが最近使われていないという事だ。図らずも手抜き作業のおかげでここは除外出来るという訳だ。保管庫を目指しつつも、同じようにドアノブや窓の汚れなどを確認していく。


「……ん?ここだけ埃が付いていねぇな。ここだけ拭くってのもありえねぇよな」


 そう思い懐から布を取り出し、ドアノブを慎重に回してみる。当然ではあるがドアには鍵がかかっていた。


(……当然か。だが、この部屋だけ埃が溜まってないって事は、この部屋だけ誰かが使っているって事だ)


 そう思い周囲を見渡すが、ドアの形も他の部屋と全く同じで変わった感じは見受けられない。が、窓を見てある違和感を覚えた。


(待てよ……確か、ここは本当なら……)


 自分の中で一つの違和感を抱く。だが、今は流石に時間の限界だ。そろそろ本来の業務に戻らなければならない。


「……今日はここまでだな。流石にそろそろ戻らなきゃ怪しまれちまう」


 詳しく調べたい気持ちを抑え、急ぎ足で保管庫へと向かい茶葉のストックを手に取り速やかに姉妹の元へと向かう。


「お待たせしました。こちら、ご要望の茶葉になります。直ちにお湯を沸かしますので」


 そう言ってシーホに補充した茶葉を渡し、すぐに支度をする。紅茶を淹れるための銀器や皿はシーホが自分で用意をしてくれていたようで、後は自分が湯を沸かせば良い状態であった。


「いえいえ。ご苦労様でした。後は私と姉様でやりますので」


 湯を沸かす準備を整えたところでシーホにそう言われたので、一礼してその場を離れる。その後は仕事が終わるのを今か今かと思いながら業務に務めた。


「おう、お疲れさん。どうだい?まだ早いし、良ければ軽く一杯どうだい?」


 先に部屋に戻っていたリーゼの言葉を無視し、使用人として働く事になった際に渡された中にあった館の見取り図を取り出す。


(あの場所は、この紙では確か……)


 怪訝そうにこちらを見るリーゼを横目に、見取り図を指差しながら位置を確認する。そして、自分の違和感が間違いでは無かった事を確認する。


(……やっぱりそうだ。間違いない)


 埃の溜まっていなかった、唯一のドアノブの脇。


 そこは見取り図では書かれていなかったが、横に膨らむ形で建物が増築されていたのであった。


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