表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/148

65話 ハイン、任務達成す

 時間にしてみれば、ほんの一瞬であったと思う。


 すぐに消失した意識が戻り、いつの間にか無意識に目を閉じている自分に気付く。


(……生きている。どうやら、上手くいったみてぇだな)


 そう思い、ゆっくりと目を開ける。そして目の前の光景を見つめる。


 そこには、自分の右手から突き出された剣が喉元に深々と突き刺さり、絶命している魔犬の長の姿があった。


「……ふぅ。一か八かの賭けだったが、どうにか成功したな」


 ギリギリでの勝利ではあったが無事に命を繋いだ事に安堵し、改めて生と勝利を実感する。


反転(スイッチ)』。正真正銘自分自身で編み出した、自分だけの技である。


 意識を手動(マニュアル)から自動(オート)に切り替え、反射神経を極限まで高めて反撃及び攻撃を行う。その際に短時間ではあるが意識を完全に失うため、一撃必殺ではあるがリスクも伴う諸刃の剣である。頭の中でふと考える。


(……この技、あいつには……ハキンスには通用するだろうか)


 ……正直、混合試合の時にこれをハキンス相手に試そうという気持ちが微塵も無かったかと言えば嘘になる。だが、意識を消失した状態で放つ一撃のため、威力の加減は全く出来ない。万が一にもハキンスに対して取り返しのつかない事になってはいけないという気持ちが勝った。事実、この技を人に向けて放った事は過去も含めて一度も無かった。


「今回はやむなくとはいえ一対一、あるいは周りに仲間がいなけりゃ使うにはやっぱりリスクが高ぇな。……周りに他の魔犬がいなかったのが不幸中の幸いだったな」


 そうつぶやきながら、魔犬に突き刺さっていたままの剣を力を入れて引き抜く。魔犬の体が地面に落ちると同時にどす黒い血が地面に広がる。


(先程の炎の一撃で、他の魔犬が駆けつけるには時間があるだろう。匂いを嗅ぎつけられる前に少し事後処理を今のうちにしとかねぇとだな)


 ひとまず自分に回復魔法をかけ、傷が癒えたところで軽く地面を掘り魔犬の長を埋めるためのスペースを作る。討伐の証明と素材の確保も兼ねて魔犬の長から牙を解体した後魔犬の亡骸を埋め、土の上に携帯していた薬品を振り掛ける。気休め程度ではあるがこれで少しは時間を稼げるだろう。


「……これでよし。あとは無理のない範囲で魔犬の残党処理といこうか。長がいない分、ここからは順調に事が運ぶはずだからな」


 そこからは正直、消化試合の様な感じだった。従うべき群れの長を失った魔犬の残党を始末するのにはさほど時間はかからなかった。一匹残らず殲滅とまではいかないものの、村の連中では対処が難しいクラスの魔犬はある程度始末出来たと思う。


「……よし、こんなもんだな。ターミスや村の連中を心配させたくねぇし、そろそろ村に戻らなきゃいけねぇな」


 二日程の時間をかけて魔犬の残党をあらかた狩り終えたところで一人つぶやき、村へと戻る事にした。


「……ハイン!無事だったか!よく帰って来てくれた!」


 村の入り口に辿り着いたところで、自分が声をかけるよりも早く、自分の姿を見つけたターミスが自分に駆け寄ってくる。自分の帰りを今か今かと待っていてくれていたのだろう。


「おう。少し時間がかかったが、何とか魔犬のほうは片付いたぜ。そっちはどうだった?その様子なら大丈夫だったみたいだけどな」


 自分の言葉にターミスが安堵した様子を見せる。傷こそ塞がっているものの、ボロボロの見た目の自分の姿を見て不安になったのだろう。


「……あぁ。お前が魔犬のほうに向かってから翌日、早々に魔猿の襲撃があったが、お前が施してくれた対策が効果覿面でな。我々だけでも何とか撃退が出来た。本当に助かったぞ」


 その言葉を聞き、改めて魔犬の方に自分が向かった判断が正しかったことに安堵する。


「そうか。それなら良かったよ。じゃあ少し休んだらそっちの対策に動くとしようかね。ひとまず、今はとにかく風呂に入って酒が飲みてぇよ」


 自分の言葉に毒気を抜かれたようで、苦笑しながらターミスが言葉を返す。


「まったく、お前という奴は……待っていろ。すぐに熱い湯を用意する。その間に使いを出して酒を準備しておくさ。あぁ、ジレンもお前の帰りを待ち侘びていたからジレンのお喋りにも付き合ってもらうぞ」


 そういってターミスがようやく笑う。釣られて自分も笑った。


 そこからの流れは、驚くほどスムーズに事が進んだ。対策を練られた魔猿たちは自分やターミスを始めとした村の連中に少しずつではあるが確実に数を減らされ、痺れを切らした魔猿の長が襲撃を仕掛けてきたものの、魔犬を恐れる必要がなくなり皆が魔猿だけに集中出来るようになったのも大きかった。


「……よし、仕留めたぞっ!」


「こっちも一体仕留めた!向こうの罠にも数体かかったぞ!」


 今まで良い様にやられていた連中を、自分たち自身の手で食い止め撃退出来ているという事態にモチベーションが上がっているのもあってか、多少の手傷を負っても連中の攻撃の手は止まることはなかった。


「……さて、いよいよお前さんの番だな。悪いが、これで終わらせて貰うぜ」


 魔猿の群れの大半を仕留め終え、魔猿の長と対峙する。既に敗北を悟ったのか、魔猿の長がきびすを返して逃げ出そうと後ろを振り返ると同時に、ターミスの放った矢が魔猿の足に突き刺さる。


「よし!頼んだハインっ!」


 ターミスの言葉に返事を返す代わりに剣を振るう。


「『螺旋斬(へリックス・ブレード)』!」


 風の刃が魔猿の胴体を勢い良く貫いた。


 かくして、無事に魔犬と魔猿両方の討伐は完了した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ