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62話 ハイン、魔犬の群れと戦闘開始

(よし!不意打ちは成功だ。まずは目の前の連中を……片付ける!)


 切り落とした魔犬の首が地面に落ちるよりも先に、他の魔犬の動きに目を配る。首を落とした時点で絶命したはずの魔犬の様子を確かめる必要はなかった。


(まずは一体!……この流れで、まずはこいつらを他の連中に気付かれる前に……確実に仕留めるっ!)


 自分の存在に気付き、咆哮をあげてこちらに襲いかかってくる魔犬に対峙して剣を構える。予測していたよりも早い速度でこちらに駆け寄ってくる。


(……確かにこれは、村の連中じゃ対処は難しいな。巻き込まないように一人で来て正解だったな!)


 襲いかかってくる魔犬の一体を剣で薙ぎ払いつつ、返す刀で一体の魔犬を仕留める。


「これは……!思った以上にやり甲斐がある任務だ……なっ!」


 思わず叫びながら剣を振りかぶり、魔犬をまた一体仕留める。その際、魔犬の爪や牙が自分の肌をかすめる。思わず後ろに下がると、死角から別の魔犬が飛びかかってきた。


「くっ……!」


 間一髪で魔犬の牙をかわしながら咄嗟に蹴りを放ち、魔犬を蹴り飛ばす。完全に避けきれなかったため、牙をかすめた頬から血が流れる。


(……今のはかなり危なかったな。完全に存在を見落としていた。かすり傷で済んだのはラッキーだったな)


 ともすれば今の攻防で命の危険があったのに、どこかこの状況に高揚している自分がいた。


(……これだ。この自分の行動の一つ一つがそのまま生死に直結するこの感じ。今の自分に欠けていたのはこれだったんだ)


 クエストとは違い、何があっても誰からも助けは来ない。それに加えて信頼出来る仲間も周りにいない。本来ならば窮地に陥る状況であるにも関わらず、この状況に自分がひりついているのを自覚する。


 安心して心を許せて背中を預けられる誰かが隣にいる環境。自分の事を慕ってくれる後輩や仲間がいる現状。隊士時代はもとより、勇者として過ごした当時の自分では考えられない利害関係とは無縁の状態が心地良くはあったものの、自分の殻を破るためにこの任務があったのではないかと思うくらいに精神が張り詰めていた。


「……炎よ!剣に宿れっ!」


 剣に炎の魔力を込めて、目の前の魔犬に向き直り剣を構える。


「……炎の化身よ!我が刃に宿れ!『炎激斬(フレイム・ハザード)』!」


 刀身から炎の斬撃が放たれ、目の前にいた魔犬の群れが一体残らず焼失する。その音と炎を聞きつけ他の魔犬が現れないか警戒するものの、幸いにも追撃はなかったようである。


「……どうやら、本拠地からはまだ離れているようだな。すぐに他の魔犬が出てこないってことは、こいつらは本当にただの見回りってところか」


 人間よりもはるかに鼻の効く魔犬のことだ。すぐに今の音や炎で周囲や魔犬の焼け焦げる匂いを察知してこちらに駆けつけることは予測できるため、今のうちに回復魔法を唱えて自分の傷を癒すことにする。


「……【癒しの精霊よ。汝の施しを我に与えん】『回復(ヒール)』」


 周囲に魔犬の気配も感じられないため、ゆっくりと詠唱を唱えて自分に魔法をかける。癒えていく自分の傷を眺めながらこの後のことを考える。


(……この様子なら、傷が癒えるまでに連中に襲われることはないと思って大丈夫だな。だが、たった数匹を相手にしただけでこれってことは、こいつらを従えているボスはかなり厄介な相手だと思っておいた方が良いだろうな)


 地面に転がる魔犬の亡骸を見ながら推測する。個々の強さは余裕を持って対処出来るレベルではあるものの、群れをなして襲い掛かられると対処は難しいかもしれない。ましてや、こいつらを抑えて頂点に君臨しているということは連中の長はそれ相応の強さだということは容易に想像出来る。そんな事を思っている間に自分の傷は完全に塞がった。


「……よし、これで大丈夫だな。菌に感染するような深手でもなかったのも幸いしたな。さて、ここからどうするかだな」


 鼻の効く魔犬がここを嗅ぎ付けるまではさほど時間はかからない筈だ。迎え撃つ形でここに留まるか別の方法を取るか。時間のない中でしばし考える。


「もうすぐここに他の魔犬が駆け付けるのは間違いないだろう。だが、群れの全てが来るわけじゃない。……なら、こうするのが得策だろうな」


 そう考え、この後の決戦に備えて準備を仕掛ける事にした。


(……来たか。思ったよりも早かったな)


 自分が仕留めた魔犬の血の匂いと焼け焦げた周囲の匂いを嗅ぎ付けた魔犬の群れが隊列を成して姿を現した。


(……群れの動き方から察するに、前を歩く奴と最後尾にいる奴は間違いなく群れの中でも上位クラスの位置付けだな。距離の取り方と位置からも一目瞭然だ。……なら、そいつらのどちらかでも仕留められれば、必ず長が動くはずだ)


 そう思い、物影で群れがこちらに気付く前に剣を構えて魔力を込める。


「……風よ、剣に宿れ」


 刀身に風の魔力が込められていく。剣に魔力が宿ったのを確かめると同時に、自ら魔犬の群れへと姿を現す。


「……悪いが、最初から全力でいくぜ。本気で仕留めさせてもらうからな」


 魔犬の群れがこちらを視認すると同時に、剣を構えて技を放つ。


「風の化身よ!螺旋を描け!『螺旋斬(へリックス・ブレード)』!」


 螺旋状の風の刃が、魔犬の群れへと一直線に突き刺さった。


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