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60話 ハイン、酒を片手にターミスと語らう

「うむ。やはりお前、相当いけるクチだな。さぁ、もっと飲め。酒が入った方が込み入った話も出来るというものだ」


 そう言いながら早々に空になったグラスにターミスが酒を注いでくる。お言葉に甘えて酒がグラスに並々と注がれるのを待つ。


「お、悪いな。しかし、美味いなこの酒」


 普段は大手を振って飲めない分、ここぞとばかりに振る舞われた酒を口に運ぶ。


「……しかし、分からんものだな。その若さでそれだけの場数を踏んでいるとは。村の連中の手当てからその後の手続きの流れといい、まるで歴戦の戦士の様な雰囲気が感じられたよ」


 本来は四十路だからな、とも言えず苦笑しながらも言葉を曖昧に濁す。


「……まぁ、同年代に比べれば幸いにも色んな経験は積ませてもらっているかな」


 そう言って注がれたワインをまた一口飲む。


「さて、酒も入ってきたことだし、真面目な話をするとしようか。……ハイン、この村を見てどう思った?」


 タバコに火をつけ、こちらにもタバコを差し出しながらターミスが言う。それを受け取り自分も火をつけ、煙を吐き出してから答える。


「そうだな……まだゆっくり村全体を見た訳じゃねぇから何とも言えねぇが、雰囲気の良い村だと思ったよ。子供たちも元気で、楽しそうだったしな」


 自分の言葉にターミスが嬉しそうな表情を浮かべる。自分が望んだとおりの答えだったのだろう。


「そう言ってくれるか。うむ。確かにこれといった特産品は無いが、野菜や魚は美味いし、村人同士の仲も良好だ。派手さはないが良い村だ。……だからこそ、この村を守りたい」


 そう言ったターミスのグラスを持つ手に力がこもる。


「……あぁ。そうだな。一刻も早くこの問題を解決しなきゃいけねぇよな」


 そう言いながら自分もまたワインを一口飲む。


「さて、明日からさっそく問題解決に向けて動いて貰うことになるが、具体的に我々は何をすれば良い?無論、俺達が出来ることがあったら何でも言ってくれ。村の者たちも、極力お前の指示に従うように伝えよう」


 ターミスの言葉に、タバコを吸いながら答える。


「そうだな……あんたも含め村の連中、魔犬と魔猿、どっちが相手にしていて厄介だった?動きも違うし、対処の仕方も違うだろう?魔犬は素早いし、魔猿は動きがトリッキーだ。どちらも厄介なのは変わらないだろうが、どっちの方がまだ対処出来ている?」


 そう自分が言うと、ターミスがグラスをテーブルに置き、腕組みしながら考え込むように答える。


「ふむ……難しいな。確かに、どちらも厄介なのには変わりないが、強いて言えば魔猿の方だろうか。魔猿は器用で柵を越えて襲い掛かってくるが、魔猿自体の攻撃力はそこまで高くない。武装した村の男連中でも何とか追い払えるレベルだ。逆に魔犬の方は素早い上に、一度襲い掛かられると命に関わる怪我を負うことも少なくない。実際、ジレンも魔犬に襲われた。もう少し追い払うのが遅れていたら命が危うかっただろう」


 ジレンの事を思ってか、ターミスの表情が険しくなる。


「確かに、魔犬の牙や爪の威力は馬鹿に出来ねぇからな。魔犬に限った話じゃねぇが、菌や毒を保有している連中も多いからな」


 野生の犬が雑菌を保有している事が多いように、魔犬も例に漏れず毒や菌を保持している。そのため、噛まれたり切り裂かれた箇所から発症してしまうケースが多々存在する。事実、先程治療にあたった際に傷口から感染していた者もいた。発見が早かったため、治療と同時に解毒も済ませたので大事には至らなかったが。


「そうだな。それに、純粋に殺傷能力が高いというのもある。火を恐れる魔犬はまだしも、火を恐れないタイプの魔犬もいるからまたたちが悪い」


 純粋な魔犬ならばある程度大きな炎があれば撃退も容易だが、おそらく亜種や他の種族との交配によってそれらに耐性がある魔犬もいるのだろう。自分もそれらと対峙する際には注意する必要があると思った。


「了解だ。明日さっそく魔犬の襲撃のある方角を分かる範囲で教えてくれ。連中とやりあった奴らも揃えて話が聞きたい。話を聞いたらまず、魔犬の根城の方を叩く。その間に魔猿の襲撃が無いとも限らねぇから、魔猿用の対策も含めて打ち合わせをしたい」


 そう自分が言うと、少し驚いた表情を浮かべてターミスが言う。


「……本当に一人で大丈夫か?今更お前を信用していない訳ではないが、今話した通りかなり手ごわい連中だ。せめて、村の手練れを何人か集めて向かった方が良いのではないか?」


 ターミスの言葉に首を振り、もう一本タバコを貰って火をつけて一口吸ってから答える。


「いや。その必要はねぇよ。悪いが、連中を相手にするなら一人の方が都合が良い。むしろ、自分の攻撃に巻き込んで怪我させちまうかもしれねぇからな」


 事実、村人の戦力がどれほどのものかはさておき、自分一人なら広範囲に及ぶ魔法や斬撃を自由に放てるが、周りに人がいればそうはいかない。多対一での戦闘が想定される中、周囲を気にして戦うよりも自身一人で戦う方が戦略も戦法も組み立てやすいのだ。


「……そうか。うむ。お前がそういうのならばお前に任せよう。だが、くれぐれも無茶はしないで欲しい。お前に何かあればジレンも悲しむからな」


 未だ険しい顔のままのターミスに笑いながら答える。


「あぁ。状況を見て危ないと思ったらすぐに引き返すからよ。よし、大分夜もふけたことだし、こいつを空けてお開きとしようか。助っ人に来たのに二日酔いで仕事になりません、みたいな事になったら洒落にならねぇからな」


 自分の言葉にターミスが苦笑する。


「そうだな。この一件が片付いたらまた二人でゆっくり飲むとしよう。村の者に伝えて、今日よりもっと美味い酒を用意しておくからな」


 ターミスの言葉に頷き、ひとまず今夜は就寝する事となった。用意されたベッドに横たわり、目を閉じながら考える。


(……さて、明日からは忙しくなりそうだな)


 そして夜が明け、早朝より対策に向けて早々に動き出した。


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